音にプロ用、マニア用の違いはない
プロ向けとオーディオマニア向けの音作りについて須山氏に聞いた。基本的にはプロサウンドを提供すれば、マニアにも受け入れられるという考えを持っているようだ。JH Audioのジェリー・ハービー氏も「業務用途として良ければコンシューマー用途にも良いはず。その逆もあるが、どちらか専用ということはない」と語っているそうだ。
FitEarは、世界で初めてユニバーサル型のイヤーモニター(IEM)を開発したメーカーでもある。これはカスタムIEMの製造方法で汎用イヤホンを作る手法だ。その意図について聞いてみると、カスタムIEMの製造ラインにユニバーサル型を入れることで、ライン稼働を一定にできるという利点があったためだという。音については(密閉度によって)低域に違いがでるが、基本的には同じものと考えているそうだ。
強者ぞろいの若手開発者
開発の世代交代を進めている理由は、須山氏が加齢で視力や聴力に不安があり、試作機を作りにくくなったと感じているためだという。加えて、自分が考えつく試みはやり尽くしたと思っているが、若手に任せれば別の視点で新しいものが出てくる可能性があるとも考えたとのこと。また、自分がいると、育ってきた若手がやりづらいのではないかとも考えたそうだ。
そこで、そこでFitEarに働く歯科技工士から、補聴器部門の堀田息吹氏と白井貴徳氏を選抜した。
堀田氏はもともとアニメが好きで、声優の装着するイヤーモニターでFitEarを知ったという。そしてFitEarで働くために歯科技工の専門学校に通ったそうだ。イヤホンの原体験は、通称テンプロと呼ばれる「UE triple-fi 10 Pro」。そのカスタムシェルをリシェルしていたという筋金入りのマニアだ。
FitEarではオンキヨーと共同開発した「H1」や「Silver」、そして、MH335htを担当。経験を積んできたが、最新モデルの「IMage」では、Sonionの最新ESTドライバーを使って、初めて自分の思い通りの開発ができたそうだ。好きなジャンルはもちろんアニソンとのこと。
ダイナミックドライバーとBAドライバーのどちらが好きかと聞くと、低域に対してはタイトな音を志向しているためにBAの方が好みということだ。
白井氏は歯科技工士としてFitEarに入社後、会社には知らせずにヘッドフォン祭の「自作イヤホン・ヘッドホンコンテスト」に手製のヘッドホンをエントリーした。そのために、自宅用の3Dプリンターを購入したという強者だ。好きなジャンルはアイドル系だという。音に関しては基本的にはFitEarの音をキープコンセプトして、いずれ自分の音を出していきたいとのこと。
現在は城下工業との共同開発によるFitEar初のモニターヘッドフォンである「Monitor-1」を開発中だ。白井氏は音質設計を担当し、城下工業はハードウエア部分と製造を担当している。
新世代の育成方針について須山氏は、FitEarの音に沿う範囲では個々人にまかせるていきたいとしている。ヘッドフォン祭の会場で「FitEarがどう変わるべきか」と25人にアンケートを取ったところ、あまり個性が強い製品や超ハイエンドは志向せず、「今まで通りの製品がいい」という意見が多かったそうだ。
今後はイヤーモニター開発を基本的に堀田氏が担当。ヘッドフォン開発は白井氏が担当することになる。須山氏も完全に開発から引退というわけではなく業務系には引き続き関わっていくということだ。
今後のFitEarは新しい世代の新しい感性で開発に刺激があると思う。しかし大きなサウンドの変更はなく、音の個性自体は今まで同様にFitEarサウンドを継承していくことになるだろう。
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