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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第255回

「グーグルを調査します」 公正取引委員会が「禁じ手」に踏み込んだ理由

2023年10月31日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 公正取引委員会が、独占禁止法違反の疑いがあるとして、グーグルを調査すると発表した。

 この方針を公取委が発表したのは2023年10月23日のことだ。

 このニュースをネットで読んで、少し驚いた。

 通常、公取委など違反行為を調査する官庁は、結果が出るまで何も公表しないからだ。

 「違反行為がわかったので、やめるよう命令しました」と発表するのと、「違反の疑いがあるので、これから調査します」と言うのでは、かなりステージが異なる。

 外野からは、かなり思い切った施策のようにも見えるが、公正取引委員会はなぜ、方針の大幅な転換に踏み切ったのだろうか。

「抱き合わせ販売」に似ている

 公取委の発表によれば、今回問題になっているのはグーグルとスマホメーカーの関係だ。

 Androidのスマホには、Google Playというアプリストアが欠かせない。

 アプリストアがスマホに入っていないと、新しいアプリをインストールできないからだ。

 グーグルは、スマホメーカーに対して、Google Playと一緒に、ブラウザのGoogle Chromeと、検索アプリGoogle Searchをインストールさせていたという。

 このニュースで、思い出したのはファミコンのカセットの抱き合わせ販売だ。

 古い話で恐縮だが、1998年2月、ドラゴンクエストIIIが発売された。

 いまも人気のシリーズだが、当時の子どもたちにドラクエは絶大な人気を集めるゲームだった。

 そこで各地のおもちゃ屋は、売れ残りのゲームを「抱き合わせ」で売ることにした。

 多くの場合、抱き合わせで販売されたファミカセは、いわゆるクソゲーだろう。

 2本セットでないと、客はドラクエを買うことができない。

 ドラクエIIIを手に入れるため、子どもたちは、ほしくないカセットまで買わされることになる。

検索で他社を排除

 公取委が問題視するグーグルの行為は、もうひとつある。

 グーグルとスマホメーカーは、他社の検索エンジンをインストールしないことなどを条件に、検索広告でグーグルが得た収益の一部を分配する契約を結んでいたという。

 Statistaによれば、2023年4月、全デバイスを通じたグーグルのシェアは93.63%。2位以下は、マイクロソフトのBingが2.79%、Yandex1.63%、Yahooが1.1%となっている。

 これだけの優位があるなら、グーグルがメーカーに対して「他社の検索エンジンは入れるな」と言う必要もないように見える。

 しかし、グーグルの優位が今後も安泰かというとそうではないだろう。

 たとえば、Bingは2023年2月に生成AIのChatGPT(GPTモデル)を搭載した検索サービスを始めた。

 AIと対話をするようにネット検索できる仕組みはなかなか便利で、筆者は長い間Google以外の選択肢は考えたこともなかったが、この数か月はPCで調べ物をする時にBingをよく使うようになった。

 さらに、最近はiPhoneにもBingのアプリをインストールしている。

 現時点でGoogleとBingのシェアには、巨大な差があるが、検索の精度の面でも、Bingが激しく追い上げているのが現状だろう。

 さらに、10月5日にはBloombergが、アップルが自社のブラウザ「サファリ」の「プライベートモード」で、検索エンジンをGoogleからDuckDuckGoに切り替えることを検討していると報じた。

 DuckDuckGoは、プライバシー保護に力を入れる検索エンジンだ。先ほどの統計では、0.52%のシェアがある。

 「プライベートモード」だけだとしても、仮にアップルが採用すれば、その影響は大きい。DuckDuckGoのシェアは、一気に伸びてくるかもしれない。

 Googleのシェアは相変わらず絶大だが、その優位は必ずしも安泰ではないという状況の中で、公取委が指摘したのはグーグルによる他社の検索エンジンの排除だ。

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