時代によって変わる「プレミアム」のイメージ
――数年おきにデザインをリニューアルするのはなぜでしょう?
五百竹さん:実は「プレミアム」という言葉が持つ印象が変化しているんですよね。今、プレミアムと聞いて、どんな印象を持ちますか?
――えっと、言葉のとおりだと“特別感”ですが……。
五百竹さん:ひと昔前だと“プレミアム”と言う言葉に、装飾的で華美なものとか、高級で重厚感があるものとか。
――バブル時代に好まれた派手な感じですかね!
五百竹さん:そうですね。わかりやすいプレミアム感が求められたんだと思います。それが時代によって変わってきました。今だと、より洗練されているとか、あるいは柔軟で明るいイメージへとシフトしています。
――言われてみれば、それこそトレンドが変わってきていますね。
五百竹さん:そうなんです。ですので、時代ごとのプレミアムにあわせてデザインを変えていく必要があります。
――今だと、ただ「高そう」だと自分とは縁が遠いなって思っちゃうかも。
五百竹さん:実は、お客様にプレミアムモルツを人間に例えてもらう調査があって、2017年版のデザインの時には、「60代の経営者で、六本木に住んでいる人」といったコメントがありました。つまり、良くも悪くも高級ビールのイメージとしては強いのですが、一方で近寄りがたいと感じる人もいるようです。そこで2023年のデザインでは、若い人にも手にとってもらいやすいように、イメージを少し若返らせる方向に舵を取りました。
2023年版のデザインは大きく若返り。「タブ」も変わった
五百竹さん:こちらは2023年2月末より発売した最新のデザインです。今までで最も明るいカラーを採用しています。
――確かに明るいイメージですね。……あれ!? 先ほど覚えたタンブラーシェイプはどこに行ってしまったんでしょう。
五百竹さん:今までと違って左右対称じゃないですけど、よくみてください。ちゃんとあります。
――あ、タンブラーが斜めになっている。今まさに飲むところですね。
五百竹さん:その通りです。これはタンブラーを傾けたところを表現しています。従来は左右対称のデザインが主流で、タンブラーシェイプもタンブラーの正面のデザインでしたが、躍動感を出したくて思い切って傾けちゃいました。
――思いきりましたね! かっちりした感じがなくなって、カジュアルになった気がします。
五百竹さん:高級感は保ちつつも、先ほど言ったように若返らせた感じです。都会の若い方にも受け入れられるような、明るさや親しみやすさも取り入れました。
――そして、大きい変更はタブ。紺色のタブになって、上から見ても目立つようになりました。
五百竹さん:はい、2023年のリニューアルで大きなポイントはタブです。お客様に調査した中で、ビールを飲むときにテンションが上がる瞬間っていつかとお聞きしたところ、1位はビールを飲むひと口目の瞬間。そして、2位はタブを開けた瞬間という結果でした。
――ビール好きとしてめちゃくちゃわかります。
五百竹さん:ビールをプシュッと開ける最高の瞬間。この時の高揚感をさらに高めたいという思いから、ちょっと特別感のあるタブにしたいなと色を変えることに挑戦しました。
――タブの色は大きいですね。缶を開ける瞬間に見るのはタブですから。
五百竹さん:お客様の視線からすると、タブの色はだいたい同じなので、どの製品を買っても缶を開ける瞬間に見る景色はいつも一緒ですよね。タブのカラーを変えることによって、見ている景色が少し変わり、特別な体験として感じていただけるんじゃないかと思っています。
デザインパターンは200種以上も
――かなり大掛かりなデザインチェンジですが、リニューアルにはどれくらいの時間をかけたのですか?
五百竹さん:2023年の2月のデザインに関しては、21年の12月からプロジェクトがスタートしました。それ以前の段階から、缶を製造するメーカーと一緒に、どんなシーズ(素材など)や技術があるのかといったことを、2021年の4月頃からキックオフで議論を始めていました。
――というとおよそ2年近くかけているのですね。デザインについてはいろいろ候補があったんですか?
五百竹さん:今回は約200種類のデザインパターンを考えて、その中からしぼっていきました。
――200種類も!
五百竹さん:デザインのパターンは、とにかく最初は幅を広げなきゃなと、例えば金と紺を従来のデザインから反転させたようなものまで作ってみました。全然、ザ・プレミアム・モルツらしくは見えなかったですが(笑)。色調に関しては、金色をどう表現するかで全体の印象が変わってくるし、紺色のほうも濃すぎると紫に見えてしまったり、逆に明るすぎてしまったりして、これぞというのが難しい。本当に微妙な調整を、何回も何回も繰り返しました。
――香るエールも同じくらいパターンを出したんですか?
五百竹さん:香るエールの方は、メインのザ・プレミアム・モルツのデザインが決まった後、にそれに合わせてデザインを考えました。その結果、100種類弱のデザインが完成しました。
――へえ、それでもそんなにたくさん。実際に、デザインを変えてお客さんからの反応は?
五百竹さん:発売後の調査では、実際に手に取っていただく年齢層が若干下がっていることがわかりました。長年のファンのお客様は、味の良さには変わりないので引き続き支持してもらっていると感じています。