佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第218回
懐古的と切り捨てられないR2R DACやA級増幅
聞き込んで分かった「A&futura SE300」の魅力(試聴レビュー)
2023年09月10日 17時00分更新
滑らかで柔らかな音と高い解像感の両立
やはり、SE300は外観ではなく、その中身にこそ新規性がある機種と言える。今までにない設定を試してみるため、DACをNOSの設定、アンプモードをA級増幅の設定で聞いてみた。従来のDAPとの音の違いがすぐにわかる。
第一印象は暖かく滑らかなサウンドだ。ほかのモデルでは硬さを感じるような曲でも聴きやすく、かつ艶っぽい独特の美しさを感じさせる。例えば、J-POPやハードロックなど、コンプレッションが強めにかけられている“硬い録音”の曲でも、あまりきつさを感じさせずに長時間聴くことができる。
R2R形式のDACではPCM音源の再生において、デルタシグマ(ΔΣ)形式のDACのDSDネイティブ再生のように、デジタル臭さを最小限に抑えることができる。またA級増幅の設定にしているため、通常のDAPよりも滑らかな再生が可能であるのだろう。
ある意味では、昔懐かしいオーディオの音ではあるが、SE300は解像力が高く透明感もとても優れているのがもう一つの特徴だ。聴き比べてみても上級モデルと遜色ないほどの高い解像力と細かい音再現が感じられる。NOSモードでは、理論上はS/N比が低くなるのだが、高い透明感が感じられるところは最近のAstell&Kernが取り組んでいる低ノイズ化の成果でもあるだろう。
OSとAB級増幅にすれば、現代的ハイエンドの音に早変わり
このようにSE300は、単に懐古趣味的なオーディオの音を志向したわけではなく、最新の音再現性能との両立が図れている点が評価できるポイントだ。R2R形式のDACは、デルタシグマ形式のDACとは逆にDSDをネイティブデコードできないので、試しにDSDの曲を再生してみたが、特段に硬さを感じるわけでもなく上質な音再現ができる。おそらくはFPGAなどを使用して、前段でPCM変換をしているのだと思うが、回路がよくできているのだろう。
DACモードをNOSからOSに変えると、音は艶っぽさのような感覚的な良さではなく、抜けが良く端正な音色再現となる。やはりこちらの方が、従来のDAPの音色に近いと言えるだろう。理論上はこの方がS/N比は向上するはずだ。
アンプモードをA級増幅からAB級増幅に変更すると、音が明るくなり、広がるように感じられる。比較すると、いままでのA級増幅の音はやや暗めで音が中央に寄っているような感じがする。
例えば、アコースティックなギターの曲で、メロディーの美しさに聞き入りたい時は、NOSモードとA級増幅の方が華やかで美しく感じられる。ただし、多少懐古的な音ではある。同じ曲でもアコギのピッキングの音に耳を傾けたい時はOSモードでAB級増幅の方が細かなテクニックの冴えがよく分かる。ただし、やや冷たく感じられる。
このあたりは個人の音の好みや曲の聴き方によっても切り替えられるプレーヤーだと言える。
組み合わせるイヤホンも楽しくなる
また、イヤホンの選択もSE300では面白いものとなる。以前書いた記事では、OSモードではqdcの「Folk」のような「味系」の高性能イヤホンと相性が良く、NOSモードは同じqdcでいうと「TIGER」のような「モニター系」の高性能イヤホンと相性が良いのではないかと書いた。
それはたしかにその通りではある。しかし、実際に聞いてみるとSE300では音性能の高さと懐古的なサウンドがうまく調和しているので、両方に秀でたハイエンドのダイナミック型イヤホンであるDITA Audioの「Perpetua」などを使いたくなる。Perpetuaで聴いてみると音の華やかさや美しさと、音の細かな情報量の多さの両方が楽しめる。
SE300が採用した設計手法は、R2R形式やA級増幅など、ある意味で懐古趣味的なオーディオの世界でもあるが、それが現代的なS/N感の高い音再現性と調和できている。SE300が掲げる「Future of Analog sound」(未来志向のアナログサウンド)は、この設計テーマをうまく実現できていると思う。
従来のDAPの音に飽き足らないマニアックなユーザー、あるいは昔懐かしいサウンドを現代的な音性能で楽しみたいユーザー向けの製品といえるだろう。

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