東京大学、名古屋工業大学などの共同研究チームは、「クライオ電子顕微鏡」を用いて、カリウムイオンを選択的に輸送する「カリウム・チャネルロドプシン」の立体構造決定に成功。カリウム・チャネルロドプシンが、細胞外側の選択フィルター、細胞内側の脱水和システム、生理的条件下で形成されるイオン濃度勾配を利用することにより、高いカリウムイオン選択性を実現していることを明らかにした。
東京大学、名古屋工業大学などの共同研究チームは、「クライオ電子顕微鏡」を用いて、カリウムイオンを選択的に輸送する「カリウム・チャネルロドプシン」の立体構造決定に成功。カリウム・チャネルロドプシンが、細胞外側の選択フィルター、細胞内側の脱水和システム、生理的条件下で形成されるイオン濃度勾配を利用することにより、高いカリウムイオン選択性を実現していることを明らかにした。 光刺激によってイオンを輸送する膜タンパク質である「チャネルロドプシン」は、実験動物の神経活動を生きたまま光制御する「光遺伝学ツール」として広く利用されている。カリウム・チャネルロドプシン(KCR)は、神経活動を抑制する理想的な光遺伝学ツールとして期待されているが、既知のカリウムイオンチャネルとはあらゆる面で全く異なっており、KCRがどのようにカリウムイオンを選択的に輸送するかは大きな謎となっていた。 研究チームが用いたクライオ電子顕微鏡は、2017年にノーベル化学賞を受賞した技術である。一般的な光学顕微鏡とは異なり、極低温環境(クライオ)でタンパク質サンプルに電子線を照射し、その投影像から立体構造を計算して求めることができる。同チームはさらに、カリウムイオン選択性を向上させたKCR変異体(KALI)を開発。次世代の光遺伝学実験を可能にするツールとして神経科学や遺伝子治療の発展に貢献することが期待される。 カリウムイオンチャネルによるイオン選択性のしくみは1998年にロデリック・マッキノン博士らによって解明された(同博士は2003年にノーベル化学賞を受賞)。今回の研究で、およそ四半世紀ぶりに、生物が有する全く新たなカリウムイオン選択機構が解明されたことになる。研究論文は、米国科学誌「セル(Cell)」のオンライン版に2023年8月30日付けで掲載された。(中條)