画像クレジット:Stephanie Arnett/MITTR | Getty, Envato
中国政府が、未成年者のビデオゲームやインターネット利用に対する規制を強化する方針を発表した。利用可能な時間やコンテンツを細かく定め、メーカーなどに「未成年モード」の導入を求める厳しい内容だ。
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
2年前、世界中の保護者たちは中国を羨望の眼差しで見ていたことだろう。中国政府は、子どもがビデオゲームに費やす時間を週3時間までと厳しく制限したのだ。それ以降も中国は、ティックトック(TikTok)などのソーシャルメディア・プラットフォームに対し、18歳未満のユーザーには徹底的にフィルタリングされたコンテンツのみを提供するよう要求するとともに、アプリ内での閲覧時間や使用時間を制限するよう求めてきた。
こうした一連の動きにより、中国は未成年者のインターネット利用を規制する点においては、良くも悪くも、世界のほとんどの国の先を行くことになった。
しかし、中国政府はさらに大きな動きを見せている。最近になって現在の規制をエスカレートさせ、子どものあらゆるアプリの使用方法について包括的な制限と規制を設けた。これは、子どもたちが携帯電話やスマートウォッチ、スマートスピーカーなどで利用するコンテンツを、年齢に応じた内容に制限することを目的にしたものだ。
8月2日、中国サイバースペース管理局は「モバイルインターネットにおける未成年者モード設定に関するガイドライン」を発表した。このガイドラインは要するに、中国政府によって綿密に練られた、クロスプラットフォーム、クロスデバイス型の政府主導のペアレンタル・コントロールシステムである。従来の規則では主にアプリ企業側に協力を要請したが、政府は現在、アプリ開発者、アプリストア運営事業者、スマホ等のスマートデバイスメーカーの三者に対し、包括的な「未成年者モード」について相互に調整するよう求めている。制度は中国企業を対象とするものだが、アップルやサムスンのような中国国外のテック大手も協力を求められることになるだろう。
今回の規則は、あり得ないほど細かく定められている。たとえば、8歳未満の子どもは毎日40分間しかスマートデバイスを使用できず、「初等教育、趣味と関心、教養教育」に関するコンテンツしか利用できない。8歳になった子どもは、使用時間が60分に延長され、「適切な指導のもとでの娯楽コンテンツ」を利用できるようになる。正直なところ、詳細をすべて説明しようとすると、この記事は果てしなく長いものになってしまう。
ガイドラインがここまで詳細に、テック企業が未成年ユーザー向けに開発すべき製品内容までもを厳格に規定している理由の1つは、中国政府が取り締まりを強化し、一切の抜け穴をなくしたいと考えているからだろう。ゲームやソーシャルメディアの利用に関する規制ではこれまで、こうした抜け穴が子どもたちに悪用されるケースが見受けられた。
一歩引いて考えてみると、こうした規制はおおむね大きな効果を上げてきた。アジアのゲーム市場が専門の調査会社であるニコ・パートナーズ(Niko Partners)が2022年に実施した調査によると、週3時間のゲーム規制が導入されてから1年後、未成年ゲーマーの77%が週当たりのゲーム時間を減少させていた。テンセント(Tencent)の2023年第1四半期の業績を見ると、3年前と比べて未成年ゲーマーの「ゲーム時間は96%も激減し、ゲーム消費額も90%減少している」と、ニコ・パートナーズの副社長であるシャオフェン・ザンは説明する。
しかし、規則があるところには、必ず回避策がある。2022年に調査対象となったゲーマーのうち、29%が依然として週に3時間以上をゲームに費やしていると回答している。そのほとんどが身内の大人のアカウントを使用する方法によるものだ。テンセントやネットイース(NetEase、網易)といった一部企業は、顔認識による本人確認を始めているが、ほとんどのゲーム開発企業はまだそうした機能に対応していない。未成年ゲーマーの存在はまた、ゲームアカウントのレンタルプラットフォームの成長に拍車をかけている。こうしたプラットフォームには未成年ユーザーを締め出す動機も技術的ノウハウもあまりないのが現状だ。
こうした状況を受けて、現在、中国政府は標準化された技術システムの導入を推進している。これにより、政府機関であれ民間のテック企業であれ、未成年ユーザー個人をほぼ完全にエンド・ツー・エンドで管理できるようになる。そしてそれは、ゲーム以外の分野にも及ぶ。中国の国内、国外を問わず、多くの保護者たちは、過去の政府主導のペアレンタルコントロールを政府が取るべき適切な措置だとして歓迎してきた。しかし、そのような保護者たちは皆、中国政府の日増しに強化される規制の波に安穏としていられるのだろうか。
1つ重要な指摘を紹介しよう。イェール大学法科大学院 ポール・ツァイ中国センター(Paul Tsai China Center)のシニアフェローであるジェレミー・ダウムが説明するには、この規則は少なくとも当初は拘束力を持たないかもしれないという。今回の規制では、たとえば遵守を怠った企業の責任について定められていないからだ。
米国でも同様の規則を導入しようとしている議員らがおり、彼らがどう反応するのかも気になるところだ。
本誌編集部のテイト・ライアン・モズリー記者は最近、全米各地で提案が相次ぐ、子どもの安全に関する法案について記事(米国版)にしている。こうした規則を実現する上で大きな障害となるのは、技術的に施行するのが難しいという点だ。中国政府の「未成年者モード」に関する詳細な計画は、ある意味、子どもの安全に関する懸念をアプリの開発や規制といった面に落とし込むことに関心のある他国政府にとって、参考になるものかもしれない(もちろん、米国議員が中国政府による規制を公に支持するとは思えないが)。
しかし、規制が強化されればされるほど、個人情報に関する懸念はますます強まる(この点については、筆者も3月にティックトックの利用制限に関する記事で指摘している)。本誌のテイト・ライアン・モズリー記者は今年4月、「こうした法案はすべて、オンラインでのユーザー年齢の確認が必要になる。それは非常に困難で、新たなプライバシー上のリスクを生むものだ。たとえばメタなどの企業に、運転免許証の情報を提出しても良いと本当に思えるだろうか」と記している。
中国政府がその質問に答えるのは簡単だ。同政府はすでに包括的な本人確認システムを構築済みで、ゲーム企業やソーシャルメディア企業はそのシステムを使って未成年ユーザーのアカウントを特定している。また、どのようなコンテンツ(政治、LGBTQ問題、検閲なしのニュースなど)が子ども向けでないかを決定することに関しても、逡巡のない断固とした姿勢で臨んでいる(米国もその点では追いつきつつある)。
結局のところ、子どもを危険から守るシステムと、ネット上の言論を検閲し、膨大な個人情報を収集するシステムは同一なのだ。子どもが何を見るべきかを定めるのと同じ父権主義的な考え方が、大人が何を読むべきかを決めるのだ。個人の意思決定ではなく、中央集権的な統制の方向へとさらに舵を切ることに、抵抗感を覚えないだろうか。
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猛暑でエアコンの売れ行きが絶好調
猛暑により、今年は中国のエアコンメーカーにとって絶好の年となっている。中国の経済誌「イーカイ(Yicai、第一財経)」よると、エルニーニョ現象によって6月から気温が最高値を更新したことで、消費者は今年は早めにエアコンを購入することになった。
2023年上半期のエアコン国内販売台数は、昨年比で約40%増加した。中国の家電メーカーの最高経営責任者(CEO)は同誌の取材に対し、今年の大型家電で唯一販売台数を伸ばしたのがエアコンだったと語っている。
一方、世界的なエアコン需要も増加の一途をたどっている(気候変動のことを考えると、冷房システムは諸刃の剣である)。6月、中国のエアコン輸出は12.2%増加した。世界最大のエアコン輸出国である中国の年間生産能力は、すでに2億5500万台に達しており、今年はさらに2000万台増加する見込みだ。
あともう1つ
最近、中国のソーシャルメディア上で最もホットなペットをご存知だろうか?それは、マンゴーの種だ。サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)が報じているように、マンゴーの種を洗い、ブラシで磨き、乾燥させ、アロエベラジェルを塗ることで、種の繊維がふわふわした毛のようになり、それを動物に見立てている人たちがいる。ソーシャルメディアにはマンゴーの種をペットにしたインフルエンサーまで登場している。私はマンゴーが大好物だが、これは行き過ぎだと思う。