いまやChatGPTはチャットAIの代名詞。AIを業務に活用云々という記事を開いてみると、ほとんどがChatGPTの活用事例だ。
たとえばパナソニック子会社のパナソニック コネクトは6月28日、OpenAIの大規模言語モデルをベースにしたAIアシスタントサービス「ConnectAI」の活用実績を報告。今後は機能を拡大し、社内データを活用できるシステムへアップデートすると発表した。
従来は3時間かかっていたコーディング前の事前調査を5分に短縮できたり、人力では9時間かかっていたアンケート分析が6分で終了するなど目を引く事例もあり、「大幅な効率化が実現した業務もあり、ChatGPTはビジネスに有効だと判断している」という(「9時間かかる仕事、6分で終了 パナ子会社『ChatGPTはビジネスに有効』」)。
パナソニックのように典型的な「日本の大企業」が率先してChatGPTを導入したことには感心したけれど、実際は入力できるデータに制限が多く、できる仕事はまだ庶務に限られそうだ。
入力できる社内データは「最もライトなもの」
ConnectAIはマイクロソフトのAIサービス「Microsoft Azure OpenAI Service」を使って構築された社内向けサービス。同AIサービスはChatGPTに比べてもセキュリティやガバナンスに強いという特徴があるけれども、パナソニックによれば、社内データの区分が3つあるうち、扱えそうなのは今のところ「最もライトなもの」だけだ。
たとえばパナソニックでは2023年10月以降、カスタマーサポートのFAQデータをConnectAIに入れ、サポート業務の改善や効率化につなげる計画だ。しかしそこで顧客データは使わない。あくまでも既存のFAQにもとづいて、ChatGPTが回答文言を生成するにとどまる。
また、パナソニック社内でChatGPTが最もよく使われているのは「調べもの」。そのため今後は社内データも検索対象にするというが、扱うのは社内制度などあくまでも従業員向けのデータだ。そのくらいなら既存のチャットbotでも対応できる気がしなくもない。
社内ではコーディング前の事前調査にも使われていたそうだが、社外秘コードの入力はできないだろうから、バグ取りや精度向上には使えないだろう。マーケティングなどではいわゆる“壁打ち”に使われているそうだけれども、やっぱり発表前の製品情報は入力できないだろうから、プレスリリースを書いてもらったり、顧客の反応を予測させることもできないだろう。
もし入力データの制限が緩和されれば、
・顧客データをもとに個別にカスタマイズされたサポート文言を生成する
・社外秘のコードをキレイにして修正・改善・メンテナンスを容易にする
・製品情報やマーケティングデータなどをもとにプレスリリースやマーケティングプランを作る
などの高度な活用ができるかもしれないのに……などと想像し、勝手に「もったいない」と感じてしまった。
もしChatGPTなどのようなクラウド型サービスではどんなにセキュリティが堅くてもセンシティブなデータが入力できないということなら、メタが無償提供している大規模言語モデル「Llama 2」などをベースに自社向けにカスタマイズしたサービスをローカルに用意するしかないように感じる。
けれども、パナソニックは「今のところそれは考えていません」「もしオンプレで作ってしまったら、一生それと付き合わないといけなくなってしまう。そこは柔軟に対応できる体制でいたい」と語り、ひとまずはConnect AIを使って、ライトな社内データのみを扱っていく方針を示していた(「パナソニックは『ChatGPT』をこんな仕事に使っている」)。