このページの本文へ

グランプリ受賞作「ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM LIFE ヴィクトリア・モデスタ(バイオニック・ポップ・アーティスト)」のプロデューサーが番組に込めた思いを語る

2023年07月25日 17時30分更新

文● 撮影:原田健

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

「WHO I AM LIFE」の太田慎也チーフプロデューサーと畑希亜良プロデューサー

 7月21日に「第13回衛星放送協会オリジナル番組アワード」のグランプリが発表され、文化・教養部門で最優秀賞に輝いた「ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM LIFE ヴィクトリア・モデスタ(バイオニック・ポップ・アーティスト)」(WOWOWプライム)が受賞した。

 同番組は、自身の義足をアートに変えて表現活動をするヴィクトリア・モデスタに密着したもの。ロンドンパラリンピック閉会式のパフォーマンスで注目を浴び、シンガー、モデル、クリエイティブディレクターなど多岐にわたって活躍する彼女の半生を振り返ると共に、キャリアを通じて障害者の概念を覆し続ける彼女の2022年を追ったドキュメンタリー。

 今回、同番組のチーフプロデューサー・太田慎也氏とプロデューサー・畑希亜良氏にインタビューを行い、グランプリ受賞の感想や障害者スポーツに焦点を当ててきた「WHO I AM」シリーズに、スポーツの枠を超えた新シリーズ「WHO I AM LIFE」を追加して立ち上げた思い、番組制作のこだわり、視聴者に受け取ってほしいメッセージなどについて語ってもらった。

番組への熱い思いを語ってくれた二人

――グランプリおめでとうございます。受賞の感想は?

太田「今回の受賞はとっても嬉しかったです。実は、3年前に『WHO I AM』シリーズでドキュメンタリー部門の最優秀賞をいただいたことがありまして、その時もとても嬉しかったですが、今回はグランプリということで本当に嬉しいですね。多くの人にこのシリーズが届くいい機会にもなりますし、ヴィクトリアをはじめ、いろいろな人の力を借りて続けてきたシリーズでもありますので、ある意味で一つの山を登らせていただいた気持ちです」

畑「私は今シーズンからこのシリーズに加わったのですが、東京オリンピック・パラリンピックが終わってからも『WHO I AM LIFE』として取材対象をアスリート以外にも広げて継続していることを評価していただけたところがすごく嬉しかったです。パラアスリートの方々もとてもご活躍されているのですが、それ以外の分野でも障害をもちながら活躍されている方はたくさんいらっしゃるので、そこにスポットを当てて、多くの人に知っていただきたいという思いで制作しておりますので、その思いを汲んでいただけたことに感謝しています」

――新シリーズ『WHO I AM LIFE』立ち上げに込めた思いを教えてください。

太田「2016年からパラアスリートを取材していて、3、4年経った時に、パラアスリート“だけ”を取材していることに違和感がありました。多様性を謳っていながら、1周回って分断しているような…。そこから、『多様性を謳うなら、パラアスリートだけじゃなく、もっと取り上げる人はたくさんいるよね』という思いが募ってきていたことがきっかけでした。

東京パラリンピックが終わって、社内でも『WHO I AMシリーズ、お疲れ様』という雰囲気もゼロではなかったです。でも、僕らとしては、もちろん東京パラリンピックがあるから始めたシリーズではあったのですが、取材を続ける中で、世の中もダイバーシティ&インクルージョンのムーブメントが来ていて、『WHO I AM』シリーズを立ち上げた2016年とは全然意味の違った意義を持ってきているので、企画書に『ここで止めたらカッコ悪いと思います。当たり前のようにこのシリーズが続いていたら、企業姿勢としてもカッコいいと思います。なんならパワーアップさせたい』というようなことを書いて、社内の理解を得ました。もちろん違った考えや意見もなくはなかったのですが、多くの方の賛同を得られたのはすごく心強かったです」

制作のこだわりや苦労についても語ってくれた

――ヴィクトリア・モデスタさんをセレクトした理由は?

太田「リサーチして何人かの候補が挙がった中の一人だったのですが、見たら彼女はインパクトがありますし、何よりロンドンパラリンピックの閉会式でパフォーマンスをしていたので、僕らがこれまでパラアスリートの取材をしてきたというところで、新シリーズへの橋渡しとして最適なのではというところで取り上げさせていただきました」

畑「やっぱり写真のビジュアルの強さは特別で、会議でも『この人は取材したい!』ってなりましたよね。なので、シリーズのラインナップもヴィクトリアを中心に他の2人も決めていった部分がありました」

――制作するにあたってのこだわりや苦労は?

太田「『WHO I AM』シリーズ自体が、『障害があるのにも関わらず頑張っている人』というふうには絶対に描かないと決めていて、彼女の場合は義足であることを武器にしているので、番組では義足についても触れてはいるのですが、“いかに彼女が自分らしく生きて人生をエンジョイしているか”というところにフォーカスしているのは、これまでのシリーズから一貫して変わっていないですし、そこにこだわって向き合ったところです」

畑「ヴィクトリアは障害のあるなしを超越したところにいるクリエーターなので、アスリートとは違った考え方や見え方に対するこだわりがあって、彼女の意向を汲みつつ、ドキュメンタリーとしてこちらが表現したい意図は曲げたくないところで、折り合いをつけるところが苦労しました」

太田「彼女には『障害者を見る人々の意識を変える』という信念があって、そのために先陣を切って活動しているので、自分をどう見せるか、どう見られたいか、どう見られたくないかが明確な人です。でも、僕らドキュメンタリストとしては、彼女のプロフィールビデオになってしまうと意味がないと思ったので、やはり彼女の苦労した部分や影の部分など、喜怒哀楽に触れる要素も入れて構成したいという思いがあり、プレビューでは双方で散々意見交換をしました(苦笑)。でも最終的に、彼女がインタビューで『障害のイメージを変えるために先頭に立ってやってきたけど、“どこまで自分を削ってやり続けなきゃいけないの”って最近思っている』ってこぼしてくれた時に、彼女の心に触れることができた気がしました」

グランプリ受賞作「ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM LIFE ヴィクトリア・モデスタ(バイオニック・ポップ・アーティスト)」
© WOWOW WHO I AM PROJECT

――視聴者にどのようなメッセージを受け取ってもらいたいですか?

畑「ヴィクトリアが番組内で言っている『宇宙とかメタバース空間だと、足がないとか手がないというのは、もう関係ない』という言葉がすごく印象に残っていまして、そう考えると自分たちが今生きている価値観ってすごく限られた世界の価値観であることに気付かされました。『これからの世界って、障害があるとかないとか関係のない世界になるんだろうな』と。そして、ヴィクトリアはすごく先の世界を見ているんだなと感じたので、観てくださる方たちにとっても自分の世界を広げてくれる番組になっていれば嬉しいです」

太田「彼女を見た時に『足がないのにすごいね』ってまず思わないじゃないですか。それって、自分に対して気付きがあるし、自分のバリアが壊れる瞬間だと思うんです。僕らもそれを経験させてもらったので、視聴者にも体験していただきたいです。足がない人を“障害者”と呼んで、『応援してあげなきゃ』とか『かわいそうな人が頑張っている』みたいに思う意識の方がよっぽど社会にとって障害ですよ、ということを伝えたくてこのシリーズをやっています」

――今後の展望は?

太田「続けていくことが一番だと思っています。派手なことをやって、今日明日の数字や費用対効果、加入数への貢献だけで評価されるのではなく、社会的側面や本質的意義をしっかり理解してもらえるよう努力を続けたいと思います。加えて、今はまだ『障害者のドキュメンタリーですよね』って言われた時に、悔しいですけど『はい』って言うしかないです。でも、そう言われなくなるまで続けたいし、障害うんぬんではなく『圧倒的な個性のある人が出ているシリーズだね』と言われたい。そういう域に達するまでやりたいなと。

あと、WOWOWで放送・配信して終わっていては限界があるので、『WHO I AM』シリーズでは、私たちプロデューサーが教育現場などに伺って、若い人たちや子供たちと映像を使ってたくさんの接点を持つようにしています。20年30年経った時に『「WHO I AM」シリーズを見て育ちました』っていう子供たちが、柔軟な発想や無限の可能性を持って社会の真ん中に立ってほしいなと思っています」

畑「ヴィクトリアを含め、シリーズで取り上げた方をはじめとするアーティストやクリエーターは、『自分個人の作品としてアートを見てほしい』という思いがあるのですが、現状だと“障害者が作ったアート”みたいな見られ方をされてしまうので、そういうところをもっとフラットに見られるような社会に変えていきたいと思っています」

「WHO I AM」シリーズの講演なども行っている

――今回のグランプリ受賞をきっかけに、再放送で初視聴する方々にメッセージをお願いします。

太田「たくさんの方に知っていただける機会になるので、こういう素晴らしい賞をいただけたことは、僕らにとって本当に意味のあることです。一人でも多くの人にヴィクトリアの魅力や、シリーズのこと、WOWOWの心意気が届くといいなと思います。そして、この番組をきっかけに、“考える時間”を持っていただきたい。劇場で観ているような前のめりな気持ちで観ていただくと、彼女のメッセージから必ず考える時間を持っていただけると思っています」

畑「この受賞をきっかけに、番組を見てみようかなと興味を持ってくださる方が増えたら嬉しいです。私もこのプロジェクトに関わるまでは、パラリンピックにもドキュメンタリーにも興味がなかったのですが、関わってみるといろいろと考えさせられ、自分の生き方を見つめ直すきっかけになりました。ぜひご覧いただきたいと思います。絶対、いい番組ですので!」


© WOWOW WHO I AM PROJECT

【放送情報】
ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM LIFE ヴィクトリア・モデスタ(バイオニック・ポップ・アーティスト)
放送日時:2023年7月29日(土)前9:00~10:00 ≪受賞を記念し無料放送≫
放送チャンネル:WOWOWプライム
※字幕放送および副⾳声における解説放送でもお楽しみいただけます。
※放送スケジュールは変更になる場合があります。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン