離島や山間部で衛星ブロードバンド回線「Starlink」をバックホール回線に用いた基地局の運用を開始、山小屋に同じくStarlinkを用いた公衆Wi-Fiサービスを展開するなど、SpaceXとの事業協力を進めるKDDI。海上利用向けサービスのスタートに合わせて、メディア向けの説明会を開催した。
離島の基地局に山小屋、災害時など
Starlinkを用いたブロードバンド回線への引き合い多し
今回あらためて説明されたKDDIの取り組みを見ていくと、まずはau基地局のバックホール回線としてのStarlinkの活用。光ファイバーの敷設が困難な離島や山間部では携帯のエリア化が困難、もしくは従来の衛星通信回線経由では通信品質に限界があった。しかし、Starlink回線を用いることで、低コストでかつ高速なサービスを実現。今後はSAを含む、5Gに対応したStarlink一体型の基地局を開発し、5G時代に向けた対応を進める。
また、Starlink経由で5Gの低遅延を実現するためのカギとなるのが、衛星間での通信機能。低軌道で1つの衛星がカバーする範囲があまり広くないStarlinkの場合、基地局が通信する衛星と、地上局が通信する衛星が異なるケースもありえる。その際、通信衛星間で通信することで遅延を減らせるという。KDDIとSpaceXの両社による共同検証で可能になった技術だ。
つづいては「山小屋Wi-Fi」。すでに白馬村・八方池山荘でサービスが開始されているが、これは前述のようにインターネット回線にStarlinkを用いて、公衆Wi-Fiサービスを提供するというもの(auユーザーは無料、それ以外も有料で利用可)。登山客が豊かな自然や山登りの体験をリアルタイムでSNSにアップロードできるだけでなく、山小屋の運営側にとっても、キャッシュレス決済やネット予約への対応など、「山岳DX」として、サービスの刷新に活用できるとしている。
また、災害時の対応として、自治体からの注目度も高い。KDDIではすでにStarlinkを用いた車載型、可搬型基地局を今年度中に200局用意。従来のものと比べ、重量は1/7、体積で60%、設置に要する時間が半分で済むなど、メリットは多数。また、災害時でも使える予備回線、土砂崩れで孤立した集落にスマートドローンで物資を輸送する際の回線などにも、活用が期待されている。
まずは日本領海で高速ブロードバンド接続が可能に
漁業、海運、海洋調査のDX進展に期待
そして、今回の主題となる海上での利用。
KDDIではこれまでもほぼ全世界で使える通信サービスとして、インマルサットやイリジウムの回線を提供してきた。しかし、高軌道のインマルサットでは通信速度は遅く(数百kbps)、また料金も月数十万円クラスと利用の範囲は限定的だった。これに対し、Starlinkは最大220Mbpsで一般的なインターネット利用と遜色なく、しかも安価な料金で提供される。
実際の用途としては、気象情報や航行警報といった安全な航海に必要な情報の取得はもちろん、急病人が発生した場合の医療機関とのオンライン診療、漁船での搭載では魚群探知データへのアクセスなど、漁業や海運などのDX実現が期待できる。
さらに、長期間の航海でどうしてもストレスが溜まりがちな船員にとっては、気軽にネットを利用して、家族とも連絡を取り合うなど、満足度の向上にも繋がるほか、従来の旅客フェリーでの公衆Wi-Fiサービスは陸上の携帯基地局とのネット接続を利用して構築されているケースが多いが(そのため海岸から離れると繋がりにくくなる)、これもStarlinkに置き換えられるケースがあるのではとの期待も紹介された。
実際に海上で利用する際はフラット型アンテナをデッキ上に設置する。なお、現時点で通信が可能なのは、免許の関係上、海岸線から12海里以内(約22km以内)の日本領海内。ただ、位置情報を取得して領海外では通信が不可になるなどの仕組みはないため、ユーザー側が領海内であることを確認して、利用する必要があるとのこと。今後よりさらに領域でサービスを提供することも想定はしているが、その際は周辺の環境整備も合わせて必要となりそうだ。