「こってり」の味を守り続ける
アスキーグルメ編集部のモーダル小嶋です。中華そば専門チェーン店「天下一品」は、「こってりMAX」を6月12日から全店販売しています。
天下一品の代名詞ともいえる「こってり」が、さらにこってりになった新商品。“こってりよりもこってり”をキャッチフレーズに一部店舗で販売されていた、「絶品MAX」が名前を改めた商品だそう。
こってりMAXを食べた記事:結局、天下一品の「こってりMAX」は食べるべきなのか?
ポイントは、もともとの「こってり」の雰囲気を残していることでしょう。つまり、味の設計はそのままに、“こってり感”をそのまま高めているのです。
辛さや濃厚さを強くしたい場合、該当する食材や調味料などを足せばいいと思いがちですが、それでは全体の味のバランスも変わってしまいます。全体のテイストを変えないまま、一部分を突出させることは簡単ではありません。
逆に言えば、天下一品としても、「いつもの味」をそのままにすることにこだわったのでしょう。“こってりよりもこってり”と言うのは簡単ですが、濃厚にしすぎて「いつもの『こってり』とぜんぜん味が違う」となっては困ります。
「こってりが濃くなっただけ」といえば、その通りでしょう。でも、“濃くなっただけ”にするには、やはり相応の難しさがあったと思うのです。そこをクリアしてくるあたりに、看板メニューを進化させるために手を抜けないという、天下一品の矜持を感じたような気がしました。
さて、「こってり」礼賛でこの話は終わりません。
「あっさり」は、あっさりしているのか問題
6月28日、NONA REEVESの西寺郷太さんが、天下一品の「あっさり」についてツイートしていました。5000RTを超えているほど“バズった”ツイートになっています。
天下一品の「あっさり」は、名前が悪いと思う。「こってり」に対比させようとしたんだろうが、正直あっさりはしていない。
— 西寺郷太 (@Gota_NonaReeves) June 28, 2023
この「あっさり」 先日の #ジョブチューン で全員から不合格を出されていて、京都出身の僕としては、どういう味なんだろうと気になり、放送翌日に初めて食べてみた。… pic.twitter.com/GwlDkdTCB2
西寺郷太さんは、「あっさり」を、「正直あっさりはしていない」「ともかく味が濃い」「京都風の濃いしょっぱい醤油ラーメン」と語っています。
「京都ラーメン」と呼ばれるものはいくつか種類があります。その中の1つとして、「新福菜館」「本家第一旭」などの名店で知られる、濃い色の醤油ラーメンが挙げられます。
西寺郷太さんも指摘しているように、天下一品の「あっさり」は、この醤油ラーメンに近い味わいなのです。では、これは“あっさり”した味のラーメンなのでしょうか。
もちろん、「このラーメンの味は、こってり/あっさりしている」と判断する基準は人それぞれ。今や“1億総ラーメン評論家時代”といってもよい、誰もがラーメンに一家言あるような時代。「天下一品の『あっさり』はあっさりしているのか?」という議論を始めたら、喧々囂々、侃々諤々まったなしです。
筆者がここで注目したいのは、天下一品の「あっさり」が(京都の名店が提供する醤油ラーメンが、その“こってり”な濃い色に反して“あっさり”な醤油味である……という流れがあったとしても)、看板メニューの「こってり」と対比させるネーミングになっているということです。
「こってり」と「あっさり」を足して、2で割った「こっさり」(店舗によっては「屋台の味」という表記)もあります。でも、これにしたって、「こってり」ありきのネーミングでしょう。
たとえば天下一品の「あっさり」が、「京都風醤油」や「こってり醤油」などといったネーミングだったら、もっと違った印象になっているのではないでしょうか。
「こってりではない」という名前を与えられたラーメン
とはいえ、「こってりMAX」において「こってり」のバランスをしっかり守った天下一品です。「天下一品といえば、こってり」というイメージを保ち続けている以上、それと対になるメニューも、どうしても「こってり」ありきで名前が決まってしまう面もあるでしょう。
……と、ここまで書いて、筆者の知人(京都生まれ)から聞いた話を思い出しました。天下一品は、創業者である木村勉氏が1971年に京都でラーメンの屋台を出したことに始まります。1975年に北白川にて店舗を構え、1979年に「株式会社天下一品」、1981年に「株式会社天一食品商事」が設立されました。
さて、1970年代の天下一品の「こってり」は、今よりもさらに濃く、「あっさり」はあくまで「『こってり』を、すこしあっさりにしたもの」だったそうです。その後、「あっさり」が透明感とコクのある醤油スープになっていったのだとか。
つまり、「あっさり」は時代によって少しずつ変化しながら、それでも「こってり」と対比するメニューであったということになります。1986年生まれの筆者にとっては、その推移は体感しようと思ってもできないものなのですけれど。
これからも「あっさり」は、「こってり」と対比させられた存在であり続けるのでしょうか。「こってりではない」という意味の名前を与えられたラーメンとして。
だとすると、もうちょっと「あっさり」に光が当たっても良いような気がします。判官贔屓なのかもしれませんが……。天下一品の「あっさり」は、5年後、10年後に、どういう位置づけのラーメンになっているのでしょう。
モーダル小嶋
1986年生まれ。「アスキーグルメ」担当だが、それ以外も担当することがそれなりにある。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。よろしくお願い申し上げます。