このページの本文へ

意外とあっさりした味ではないという評も:

天下一品の「あっさり」は“こってりではない”という存在に過ぎないのか

2023年07月05日 16時00分更新

文● モーダル小嶋 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
天下一品

「こってり」の味を守り続ける

 アスキーグルメ編集部のモーダル小嶋です。中華そば専門チェーン店「天下一品」は、「こってりMAX」を6月12日から全店販売しています。

 天下一品の代名詞ともいえる「こってり」が、さらにこってりになった新商品。“こってりよりもこってり”をキャッチフレーズに一部店舗で販売されていた、「絶品MAX」が名前を改めた商品だそう。

天下一品のこってりMAX

「こってりMAX」

 ポイントは、もともとの「こってり」の雰囲気を残していることでしょう。つまり、味の設計はそのままに、“こってり感”をそのまま高めているのです。

天下一品のこってりMAX

スープが麺に絡みまくるほどこってり

 辛さや濃厚さを強くしたい場合、該当する食材や調味料などを足せばいいと思いがちですが、それでは全体の味のバランスも変わってしまいます。全体のテイストを変えないまま、一部分を突出させることは簡単ではありません。

 逆に言えば、天下一品としても、「いつもの味」をそのままにすることにこだわったのでしょう。“こってりよりもこってり”と言うのは簡単ですが、濃厚にしすぎて「いつもの『こってり』とぜんぜん味が違う」となっては困ります。

天下一品のこってりMAX

「こってり」のまま、濃さが増している

 「こってりが濃くなっただけ」といえば、その通りでしょう。でも、“濃くなっただけ”にするには、やはり相応の難しさがあったと思うのです。そこをクリアしてくるあたりに、看板メニューを進化させるために手を抜けないという、天下一品の矜持を感じたような気がしました。

 さて、「こってり」礼賛でこの話は終わりません。

「あっさり」は、あっさりしているのか問題

 6月28日、NONA REEVESの西寺郷太さんが、天下一品の「あっさり」についてツイートしていました。5000RTを超えているほど“バズった”ツイートになっています。

 西寺郷太さんは、「あっさり」を、「正直あっさりはしていない」「ともかく味が濃い」「京都風の濃いしょっぱい醤油ラーメン」と語っています。

 「京都ラーメン」と呼ばれるものはいくつか種類があります。その中の1つとして、「新福菜館」「本家第一旭」などの名店で知られる、濃い色の醤油ラーメンが挙げられます。

 西寺郷太さんも指摘しているように、天下一品の「あっさり」は、この醤油ラーメンに近い味わいなのです。では、これは“あっさり”した味のラーメンなのでしょうか。

天下一品のあっさり

「こってり」と外見の印象はかなり異なる、天下一品の「あっさり」

 もちろん、「このラーメンの味は、こってり/あっさりしている」と判断する基準は人それぞれ。今や“1億総ラーメン評論家時代”といってもよい、誰もがラーメンに一家言あるような時代。「天下一品の『あっさり』はあっさりしているのか?」という議論を始めたら、喧々囂々、侃々諤々まったなしです。

 筆者がここで注目したいのは、天下一品の「あっさり」が(京都の名店が提供する醤油ラーメンが、その“こってり”な濃い色に反して“あっさり”な醤油味である……という流れがあったとしても)、看板メニューの「こってり」と対比させるネーミングになっているということです。

 「こってり」と「あっさり」を足して、2で割った「こっさり」(店舗によっては「屋台の味」という表記)もあります。でも、これにしたって、「こってり」ありきのネーミングでしょう。

 たとえば天下一品の「あっさり」が、「京都風醤油」や「こってり醤油」などといったネーミングだったら、もっと違った印象になっているのではないでしょうか。

「こってりではない」という名前を与えられたラーメン

天下一品のあっさり

「京都風醤油ラーメン」というようなネーミングだったら、どういう印象になるだろう

 とはいえ、「こってりMAX」において「こってり」のバランスをしっかり守った天下一品です。「天下一品といえば、こってり」というイメージを保ち続けている以上、それと対になるメニューも、どうしても「こってり」ありきで名前が決まってしまう面もあるでしょう。

 ……と、ここまで書いて、筆者の知人(京都生まれ)から聞いた話を思い出しました。天下一品は、創業者である木村勉氏が1971年に京都でラーメンの屋台を出したことに始まります。1975年に北白川にて店舗を構え、1979年に「株式会社天下一品」、1981年に「株式会社天一食品商事」が設立されました。

 さて、1970年代の天下一品の「こってり」は、今よりもさらに濃く、「あっさり」はあくまで「『こってり』を、すこしあっさりにしたもの」だったそうです。その後、「あっさり」が透明感とコクのある醤油スープになっていったのだとか。

 つまり、「あっさり」は時代によって少しずつ変化しながら、それでも「こってり」と対比するメニューであったということになります。1986年生まれの筆者にとっては、その推移は体感しようと思ってもできないものなのですけれど。

天下一品のあっさり

背脂が入っていることもあり、意外と“濃い”スープ

 これからも「あっさり」は、「こってり」と対比させられた存在であり続けるのでしょうか。「こってりではない」という意味の名前を与えられたラーメンとして。

 だとすると、もうちょっと「あっさり」に光が当たっても良いような気がします。判官贔屓なのかもしれませんが……。天下一品の「あっさり」は、5年後、10年後に、どういう位置づけのラーメンになっているのでしょう。

モーダル小嶋

1986年生まれ。「アスキーグルメ」担当だが、それ以外も担当することがそれなりにある。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。よろしくお願い申し上げます。

■関連サイト

カテゴリートップへ

もぐもぐ動画配信中!
アスキーグルメ 最新連載・特集一覧