6月24日~25日に開催された「OTOTEN 2023」で、興味深いブースを見つけた。オーディオ業界のデジタル化を支える“裏方企業”、オーストリアStream Unlimitedのブースである。
最近、老舗のオーディオメーカーが突然ネットワークオーディオやハイレゾ/デジタル再生に対応した製品を発表し、「あのメーカーはこういう製品も出すのか」と思うことがよくある。その裏方となっているのがStream Unlimitedのような企業だ。日本で言えば、インターフェイス社に近い役割と言えるだろう。Stream Unlimitedは、海外ではNo.1のシェアを持っているそうで、OTOTENでは、そのソリューションをいくつか展示していた。
ちなみに、写真でスーツケースにデモ機がパックされているのは、スーツケース状の機器の提案ではなく、デモ機を持って説明に回るのに便利だからだそうだ。それだけ需要が高いと言うことだろう。
Matterに対応できるソリューション
“STREAMTHINGS”はスマートホームに対応するソリューションだ。これは今年のCESでも話題となったスマートホームの共通規格“Matter”への対応を軸としている。スピーカーだけではなく、電灯なども含まれる汎用なものとなっており、例えば「Bridge」と言う製品は、文字通り“ZigBee”や“KNX”といったレガシー規格をMatter対応にするための製品だ。Stream Unlimitedはグーグル、アマゾン、Spotifyが提供するサービスへの対応にも強みを持つようだ。
マルチルーム対応のネットワーク再生ができるソリューション
“HARDWARE MODULES”はマルチルームのホームオーディオに対応するソリューションだ。これは「Stream1955」と「Stream1832」というネットワークオーディオ向けの基盤(基板)を中心に構成されている。両方ともネットワーク機能にくわえ、プロセッサなども含んでいて直接ネットワークに接続できる。
この基盤とスピーカーなどを組み合わせれば、ホームオーディオ機器を作ることができる。RoonやDLNA(UPnP)に似ていて、実際にRoonやuPnP対応も可能だそうだが、Stream Unlimitedでは独自の仕組みも有しているそうだ。例えば、Roonの場合にはコアが中心となってネットワーク対応をこなし、エンドポイントであるマルチルーム機器はソフトウエア的にはゾーンと呼ばれるRoonReady機器のハードウエアから構成されている。Stream Unlimited社の独自システムの場合にはRoonのゾーンに相当するマルチルーム機器が直接ネットワークに接続でき、機器間の同期を通信で取ると言う仕組みのようだ。イメージとしてはRoonでいうRoonReadyよりも、DLNA(uPnP)でいうところのレンダラーに近いと言えるかもしれない。ただしUPnPのレンダラーにおいてはレンダラー間で同期を取る仕組みはないように思える。使用されているプロトコルは高品質オーディオに適合する仕組みを持っていて、ハイエンドオーディオにも対応できると言うことだ。
ハイエンドスピーカーをネットワーク化するソリューション
最後の“StreamAMP”は、ハイエンドのスピーカーと一体型ネットワークオーディオシステム向けのソリューションだ。展示品はその一例ということになる。
これはネットワークに対応するストリーマーモジュールからDAC、デジタルアンプまで一体型の提案となっている。デジタルアンプはHypexの「NCORE」モジュールが採用されている。ポイントは一体型ゆえに音質や認証を担保しやすい点である。つまりタイトな開発期間にも対応できると言うわけだ。
最近ではさまざまなバッジが登場し、規格の認証を通す必要が増している。例えば、あるメーカーが自社製品をSpotify Connect対応にしたいと考えた場合、本来はメーカーが独自に実装して認証を受けることになる。しかし、現実的にすべての作業をするのは大変なので、Stream Unlimitedが認証を通す部分を請け負う。開発コストの低減だけではなく、認証まで含めた開発期間を担保できるというメリットもある。スケジュール通りに製品を出せると言うことは製品戦略的に重要なことだ。
こうしたデジタルの裏方たちの活躍はオーディオの世界では今後も拡大していくと考えられる。記事で紹介したソリューションはB2B向けなので、直接ユーザーの目に触れる機会は少ないが、知らない間に、ユーザーのオーディオ機器の中に浸透していくことだろう。
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