業務を変えるkintoneユーザー事例 第182回
コロナで急増した家庭からの『たすけて』の声にシステムで応える
全国の寺院から困窮家庭へ「おすそわけ」 僧侶と大学生がkintoneで紡ぐ支援の絆
2023年06月22日 10時30分更新
今年は現地のみの開催となった「kintone hive 2023 osaka」。6組の事例発表のトップを切ってステージに上がったのは、なんと僧侶。会場は少しどよめいた。その人は、認定NPO法人「おてらおやつクラブ」の運営を務める桂浄薫氏である。加えて、奈良先端科学技術大学院の現役学生である茶円春希氏も登壇。僧侶と学生という異色のコンビで、「kintoneで『おすそわけ』DX~お坊さんと学生が社会課題を解決~」と題してプレゼンした。
「お寺の習慣」で余る菓子を困窮家庭へ届けたい
桂氏は奈良県天理市にある善福寺の第33代住職を務める本物の僧侶である。普段はもちろん僧侶として従事しているが、NPO法人としても活動し、二足のわらじを履く。
桂氏は最初に、「お寺の習慣」について説明した。寺院には、地域の住民からの「おそなえ」が集まる。仏前に供えられたものを、その後寺院で働く人たちがありがたくいただき、食べることを「おさがり」という。そして、子どもが集まる法要など、寺院に来た檀家に対してお茶菓子として配ることを「おすそわけ」と呼ぶ。
法要が多く、おそなえが多く集まる時期は、おさがりや寺院でのおすそわけをしても、お菓子が余ってしまうことがある。賞味期限が切れた食品は、廃棄するしかない。寺院では配る先を探すのに苦労していた。
そこで、フードロスを生まず、有効に使える方法として、困窮家庭に配ることにした。その仕組みを運営する団体が、「おてらおやつクラブ」である。
子どもの貧困はニュースなどで報じられることが増えたが、実に、全国で7人に1人の子どもが貧困状態にあるというデータがある。単純計算では35人のクラスの中で7人が貧困状態にあるかもしれない。全国で280万人。これは京都府の全人口よりも多い。特に「ひとり親家庭」に限れば、2人に1人が貧困状態だという。
「お寺の習慣から生じるフードロスの課題と、困窮している家庭をつなぎ、両者の課題を一気に解決する仕組みを作りました」と桂氏は語る。
システムはExcel、Salesforce、そしてkintoneへ
この取り組みのきっかけになった事件がある。10年前の2013年5月24日、大阪市で母子が餓死しているのが発見された。母28歳、男の子3歳。部屋には食べ物がなく、餓死の可能性が高かった。室内には「最後におなかいっぱい食べさせてあげさせたかった…。ごめんね。」と書かれたメモが残されていた。
痛ましいニュースにショックを受けた桂氏は、「この飽食の時代、もう二度と、このような事件が起きてはいけない」という思いから、寺院として何ができるのかを考える。その結果、2014年におてらおやつクラブの活動を開始した。2020年にはその公益性が認められ、認定NPO法人となった。
おてらおやつクラブは、全国1800寺院からおそなえの情報を集め、それを全国の700支援団体、また8000世帯の困窮家庭に直接届ける仕組みを作っている。(数字は2023年5月時点)
この仕組みを動かすためには、システムが必要だった。当初、データの管理はExcelを使っていた。だが、それはすぐに限界となり、寺院がアクセスする「マイページ」をWordPressで制作して、全国の寺院からおすそわけの情報を登録してもらった。登録された情報は、事務局がデータベースとして導入したSalesforceとの連携で管理することにした。しかしこれがうまくいかず、入力の大部分を手作業でせざるをえなかった。
そこで、連携を第一優先にして、Salesforceをkintoneに切り替えることを決めた。WordPressとkintoneの連携は、kintoneエバンジェリストの細谷崇氏に設計を依頼した。
出来上がった寺院マイページは、寺院からの情報登録と、発送、受け取りデータを記録し、確認できる。また発送を管理するアプリも構築しており、寺院ID、団体IDを付与して、誰から誰に、いつ送られ、受け取り報告があるかも確認できるようになった。
これによって連携が自動化され、フォームに入った情報はマイページから寺院と団体を特定、連携するため手作業が不要に。操作性もよく、kintoneに詳しくないメンバーでも集計が容易になった。
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