日本の4月と言えば、多くの企業が新入社員を迎え、新入社員研修が行われるシーズンである。ビジネスマナー研修からコンプライアンス研修、専門的な業務スキル研修まで、新入社員がいち早く独り立ちして活躍できるように、企業側でもさまざまに趣向を凝らした研修カリキュラムを用意しているはずだ。
そんななか、FIXERでは新入社員研修の一環として、すべての新入社員を対象に「ブログ執筆講座」を実施している。端的に言えば「ブログの書き方」を教える講座であり、実は筆者自身も“講師”として関わらせていただいているのだが、新入社員研修としては(一般社員向けとしても?)ちょっと珍しい取り組みではないだろうか。
そもそもなぜ新入社員研修にこのようなカリキュラムを組み込んでいるのか、具体的な内容はどんなものか。講師としての実感も含めてレポートしてみたい。
研修期間中、2日間をかけて「伝わる」ブログを書く
FIXERが新入社員研修にブログ執筆講座を取り入れたのは、2021年春のことだ。それから毎春実施しており、今年2023年には83名の新入社員全員が受講することとなった。
今年の講座は2日間をかけて行われた。
1日目の午前は、講師(筆者)から「なぜブログを書いてほしいのか」「書くのが苦手な人向けのアドバイス」「伝わる/読まれるブログを書くコツ」といった内容の講義を行った。午後は新入社員全員が課題テーマに基づいて、実際にブログ記事の執筆に取り組む。ちなみに今年のテーマは「学生時代に研究した/熱心に取り組んだテーマや好きな技術(兼 自己紹介)」とした。
2日目の午後には、ブログを読んだ講師から1記事ずつ、全員の記事に対するレビューを行う。「文章構成をこうすればもっと伝わりやすい」「タイトルをこうすれば注目度が高まる」といったアドバイスが中心だ。なお、すべての記事はFIXERの技術ブログサイト「cloud.config Tech Blog」で公開するので、そのまま社内外への(あるいはほかの新入社員への)自己紹介記事にもなる。
なぜFIXERでは新入社員研修にこうした講座を取り入れているのか。FIXERでDevRel(Developer Relations)を担当する荒井氏は、「FIXERのスローガンを体現する『アウトプット文化』を、新入社員も含む全員で一緒に創っていきたいから」だと説明する。
「(FIXERの)cloud.config Tech Blogは、FIXERの価値を世の中に伝えるために存在しています。そのため、社員が学習し、能力を高め、自分の知見・表現をTech Blogで発信することで、FIXERの価値を高めていけると考えています」(荒井氏)
エンジニアの方からよく耳にすることだが、「アウトプットすること」を前提として業務やスキル習得に取り組むことで、良質なインプットにもつながり、個人としてのスキルの成長も早まる。FIXERとしては、ブログ記事の執筆を通じて「アウトプットする姿勢」を新入社員の段階から身につけておいてほしい、という意図があるわけだ。
講師の立場からブログ執筆を通じて伝えたいこと
FIXER社外の講師という立場から、筆者がこのブログ執筆講座を通じて新社会人の若者たちに何を伝えようとしているのかも書いておきたい。
まずは、特に「書くこと」に対して苦手意識がある人の心理的ハードルを下げたいと考えている。筆者自身もかつては書くことへの苦手意識が強く、「自由に書いていい」と言われてもなかなか書くことができなかった。なるべく誰もが継続的に「書く人」になってもらえるよう、最初の段階で書くことのハードルを下げようとしている。
また、会社のブログであっても「自分のために」執筆に取り組んでほしい、ということも伝えている。前述のFIXER荒井氏のコメントにもあったが、特に技術ブログが会社に価値をもたらすのは、「社員個々人が高い知見と能力を持っている」ことを伝えられてこそだ。つまり“自分のアピール=会社のアピール”であってよいし、そうあるべきだろう。また、質の高いアウトプットを目指せばおのずからインプットも必要になり、学習量も増えるため、自分自身の成長にもつながる。
もうひとつ、「ブログ執筆講座」と銘打ってはいるものの、これは「伝えることのトレーニング」だと指導している。ブログに限らず、社会人になれば業務報告や各種申請、企画提案など、さまざまな目的で「伝える」場面が増える。そのかたちも文章に限らず、口頭での会話、プレゼンなどさまざまだ。学生時代のように相手が積極的に聞いてくれる場面ばかりではないなかで、いかに伝わるよう工夫するか。そうしたことも考えながらブログ執筆に取り組んでほしいと考えている。
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講師という立場で関わりはじめて3年目となったが、実際にブログを読ませてもらうととても面白い(83名ぶんをすべて読むのは大変だったが……)。あまり自己アピールが得意そうでないタイプの人でも、熱心に取り組んだ研究や技術(あるいは趣味)の話となるとかなり熱を帯びた(エモい)文章を書いたりする。新入社員それぞれの個性を感じられる研修だと思う。
研究論文やレポートの執筆経験があり、型どおりの文章は書けても、不特定多数が読むブログで「読み手(読者)の興味を引く」「知識レベルが違う人にわかりやすく伝える」のはまた別の話で、なかなか難しい。まさにこの点は「伝えることのトレーニング」として、繰り返しブログを執筆していくなかでつかんでいくものだろう。
以上、FIXERのユニークな取り組みとして「ブログ執筆講座」を取り上げさせていただいた。最後は少し大げさな感じになってしまったが、基本は「自分の意志を正しく伝えることの難しさと楽しさを知ってほしい」という気持ちでやっている。ほかの企業でも新入社員研修の一環として取り組んでみてはいかがだろうか。