東京工業大学の研究チームは、100℃の低温で水素と窒素からアンモニアを合成する鉄触媒の開発に初めて成功。赤サビを原料とする安価な同触媒による低温アンモニア製造で、エネルギー消費とコストを40~60%削減できることを示した。
東京工業大学の研究チームは、100℃の低温で水素と窒素からアンモニアを合成する鉄触媒の開発に初めて成功。赤サビを原料とする安価な同触媒による低温アンモニア製造で、エネルギー消費とコストを40~60%削減できることを示した。 研究チームは、鉄には低温でのアンモニア合成に高い潜在能力があると考え、それを発揮させる方法を模索してきた。今回の研究では、鉄の粉末に水素化バリウム(BaH2)の微粒子を載せることで、鉄の窒素分子を窒素原子に分解する能力を飛躍的に高めた触媒を開発。鉄に潜在する低温アンモニア合成能を引き出すことに成功した。この触媒は、赤サビにバリウムを溶かした水溶液を混ぜて、乾燥・還元するだけで簡単に得られる。 研究チームによると、開発した触媒では、水素化バリウムが鉄に強く電子供与することによって、窒素分子を窒素原子に分解する鉄の能力をブーストしているという。近年、ルテニウムやコバルト、ニッケルといった貴金属やレアメタルを触媒とする低温アンモニア製造の研究開発が進められているが、今回の成果で、鉄のアンモニア合成能力はこれらのレアメタルの数百倍から数千倍を超えることが確認できたとしている。 アンモニアは現在、鉄を触媒とするハーバー・ボッシュ法で製造されているが、同方法では400℃を超える高い反応温度と10MPa(大気圧の100倍)を上回る高圧が必要となるうえ、アンモニア収率が30%程度と低いことが、エネルギー消費やコストを高止まりさせる原因となっている。今回の研究成果は、アンモニア製造の大幅な効率化だけでなく、CO2フリーエネルギー実現への布石となることが期待される。 研究論文は、米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)オンライン速報版に2023年3月31日付けで掲載された。(中條)