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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第189回

中国のECサイトで悪戦苦闘 IT化による“個人輸入”の手軽さとリスク

2023年03月28日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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昔から海外輸入に慣れていました

 学生時代、筆者はマジックショップでアルバイトをしていました。小さいですが有名なマジックショップで、海外からの注文も多く、週に1度は海外発送や受け取りをしていたほど。もちろん、インターネットがない頃ですから、注文は手紙かFAXでした。

 プロのマジシャンになった後も、欲しいマジックの道具があると、海外に注文書をFAXで送ったり、ネットが普及してからはメールで注文したり……そんな思い出があります。

米国から輸入した業務用ガムボールマシン。これは足のパイプが輸送中に行方不明になり、すべての部品が揃ったのは3ヵ月後

 ご存知のように、現代はネットショッピング時代。世界中のほとんどの商品が、気軽に、すぐに手に入るようになりました。

 筆者の場合、日本にはない商品は、eBay、Buymaなどでも購入します。しかし、海外のECサイトに注文すると、配送期間は半月〜1ヵ月ほど。即日配達に慣れた今では、すごく待たされるように感じるから不思議です。

アリエクスプレスを利用してみる

 今回は、メルカリショップで販売する商品の箱などを入手するため、個人輸入に挑戦することにしました。とはいっても、リスクなどの検証を兼ねた挑戦でもあります。そのため、いきなり大きな金額を注ぎ込まず、少額の取引からのスタートです。

 「アマゾンでも、似た商品が手に入るのでは?」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、筆者が必要だったのはトランプ用のプラスチックケース。メルカリで販売を始めたトランプにジャストサイズなケースが、日本のショッピングサイトではどうしても見つかりませんでした。

 今回、選んだショッピングサイトは、オンラインマーケットプレイスサイトのAliExpress。他の海外ショッピングサイトに比べると、割高、ショップによって品質とサービスがバラバラなど、ユーザーの意見が分かれるサイトかもしれません。

 日本のバイヤーの評判を見ると、AliExpressは「安い」など良い評価もある一方、「まったく違う商品が送られてきた」「到着まで半年かかった」などもあるようです。

 というのも、AliExpressは、販売、決済機能を小売業者に対して提供するプラットフォームなのです。自社で商品を仕入れて販売しているわけではありません。よって、模造品などを扱っている業者もあるので、利用に際してはある程度の注意が必要でしょう。

 しかし、日本語にも対応していますし、返金(バイヤーズプロテクション)もあるようなので、輸入ビジネス(?)の初心者にとってちょうどいいはず。

さすが“世界の工場”、求めているものを発見

 どのショッピングサイトでも同じですが、検索ワードと無関係な商品が検索結果に表示されることもしばしば。また、AliExpressの場合、扱う点数も多く、日本語(もしくは英語)から翻訳して検索しているシステムなのか、少し時間がかかります。

 それでも「世界の工場」と言われる中国のECサイトだけあって、欲しい商品をついに発見。値段も、1つ50円弱。とりあえず、50個を購入し、送料を入れておよそ4300円ほど。初心者の初購入として、リスクもそれほど大きくない金額です。

 もし商品が送られてこなかったり、ひどい配送遅延があったりしても、勉強代としては我慢できる範囲でしょう。

なんと、梱包材なしで送られてきた

 注文した商品は、1ヵ月ほどで日本に到着しました。しかし、残念なことに、壊れ物にもかかわらず、商品がすべて梱包されないまま、大きなビニール袋に入れられていました。受け取るときに袋からガチャガチャと音がするので、届けてくれた郵便配達員も苦笑いしています。

 落胆しながら開封してみると、なんと50個のうち48個が破損、もしくは大きなヒビが入っていました。

破損して到着したトランプケース。それぞれに商品コードがついている

 しかたなく、返金申請のために破損したケースの写真を48枚撮影します。商品の個別番号と傷がわかるように撮影しなければならないため、一苦労です。

 AliExpressの返金申請のページは、比較的使いやすい作り。もちろん返金申請には「裏付けとなる証拠」が必要です。それは想定内なので写真を添付しようとしましたが、ここで問題が……。

 それは、添付できる画像が「最大5枚」までということ。しかも、ファイルサイズは1MBまでの上、ファイルをまとめるZIP形式は受け付けていません。

 とりあえず、5枚(5個分)の破損したケースの写真を送信します。さらに「48 of the 50 items were damaged.」(送られた商品のうち48個が破損していた。)とコメントを付けて、返金申請してみます。

 返事はすぐに送られてきました。「商品代金の全額ではなく20%の返金でどう?」などと機械的に交渉してきましたが、まったく販売には使えないので、48個分の返金が希望とさらに伝えます。

 さらに、25個分の写真を1枚の画像ファイルに並べて1MBになるようにファイルを作り、再交渉。

25個分の画像も送信して再交渉。このファイルを作り、1MBにするのも一苦労

 すると、「郵便局に補償を申請しろ」など、向こうから新たな提案も。しかし、発送元が梱包材を使用しなかったことがトラブルの原因なので、辛抱強く繰り返し交渉します。

 結果、全額補償となりました。これは想像ですが、英語で交渉したことも早期の全額補償になった理由かもしれません。

最終的には全額返金に。達成感はありますが、あまり経験したくないトラブルかも

 しかし、写真撮影や交渉の時間などを考えると、損金だと割り切ったほうが、効率がよい気もします。今回は初体験と検証の意味もあったので、多少の時間と手間がかかりましたが、とても勉強になりました。

次からは輸入代行会社に頼むことに

 とはいえ、毎回、こんなリスクを背負って買い物をするのも大変です。大人しく、次からは輸入代行会社に頼むことにしました。

 現地BtoBのECサイトから商品の買い付けをして、検品、梱包、発送までを代行してくれる輸入代行の会社が存在します。業者にもよりますが、たとえば衣類などを買い付けた場合、新しいビニール袋に包み直してくれたり、日本の法律に適合するタグを付け直したりする作業などもしてくれます。

 代行会社を通す1番のメリットは、不良品を交換したり、その商品に合った梱包材を正しく選んだりしてもらえること。取引量の大きな会社であれば、禁制品を扱わないため、現地や日本での通関などもスムーズな印象です。

 デメリットとしては、安心できる輸送業者を使う分だけ、手数料や送料が上乗せされます。日本で通関時に、商品代+送料に課税されるため、結果として関税もやや割高になります。

 しかし「安心をお金で買う」という意味や業務効率化の経費としては、しかたがないと思っています。リスクを受け入れて個人ですべてまかなうか、リスクを回避するために信頼できる業者に依頼するか。文化の違いとでもいうのでしょうか。

 もっとも、輸入の際に生じるコストは、倉庫管理システムのデジタル化などにより、以前よりかなりリーズナブルになってきました。以前は、現地での交渉や検品など、ヒューマンパワーがそれなりに必要でした。

 最近では、チャットが利用できたり、オンラインで商品の状況がリアルタイムでわかったりと、IT化により個人輸入の参入障壁は下がった印象もあります。

 いきなり大規模なビジネスとはいかずとも、筆者のように少額から個人輸入をスタートしてみるのもいいかもしれません。もっとも、リスクやトラブルについては、しっかりそなえておく必要がありますが……。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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