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コロナ禍によるPC特需が去った後のビジネス戦略、コア領域とグロース領域

「適切なマルチクラウド」の実現を、デル幹部が語る成長戦略

2023年03月23日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 コロナ禍の影響で急増したPC特需が一段落し、デル・テクノロジーズ(以下、デル)の業績も影響を受けている。同社が2023年3月6日に発表した2023会計年度第4四半期(FY23 4Q、2022年11月~2023年1月期)の決算では、売上高は前年同期比11%マイナスに。2月には従業員全体の5%に及ぶ大規模な人員削減も発表している。今後の戦略はどこにあるのか? 3月14日、来日中の同社幹部がメディアラウンドテーブルで語った。

Dell Technologies グローバル シアター セールス部門&Dell Tech Selectプレジデントのジョン・バーン(John Byrne)氏、同社 APJ プレジデントのピーター・マース(Peter Marrs)氏

PC事業は不調だが、サーバー/ストレージ事業は好調

 デルの決算発表によると、FY23 4Qの売上高は250億ドル、営業利益は11億ドルで、それぞれ前年同期比で11%、26%のマイナスだった。もっとも、FY23通年(2022年2月~2023年1月期)の業績を見ると、売上高が1023億ドル(前年比1%増)で過去最高、営業利益も577億(同 24%増)と堅調だが、市場全体に漂う減速感は否めない。

 デルでグローバル シアター セールス部門 & Dell Tech Select プレジデントを務めるジョン・バーン(John Byrne)氏は、サーバーとストレージを含むインフラソリューショングループ(ISG)のビジネスが好調であることを強調した。

 バーン氏は「サーバーとネットワーキングは9四半期連続で前年同期より成長しており、ストレージは4四半期連続で売上高が増加している」と述べる。ISGの売上は、FY23 4Qが7%増、FY23通年だと12%増で、4Qが23%減、通年で5%減だったPC事業のクライアントソリューショングループ(CSG)とは対照的な結果となっている。

FY23 Q4および通年の業績発表

 さらにバーン氏は、エンタープライズストレージ市場では28%のシェアを獲得して1位、同様にストレージソフトウェア市場でも1位、ハイパーコンバージド&コンバージドシステム市場でも1位(いずれもIDC調査)と、市場における評価の高さも強調した。

エンタープライズストレージ、ストレージソフト、ハイパーコンバージド、バックアップアプライアンス、そしてサーバー、PCと、多くの分野でシェア1位を維持している

 加えて、ESG(環境/社会/ガバナンス)分野の取り組みについても進捗を報告した。たとえば環境への取り組みとして、デルでは梱包材の90%にサステナブルな素材を使っており、デルの施設で消費する電力55%は再生エネルギーになっているという。2050年までのネットゼロ化が目標だ。

デルのESGレポート概要

オンプレかクラウドか、ではなく“適切なマルチクラウド”実現が大切

 デル全体としての現在の戦略は「Cloud Done Right」、日本語で多少意訳すれば「適切なクラウド利用の実践」といったところだろう。バーン氏も「(大切なのは)オンプレかオフプレミスかではない。マルチクラウドを適切に実現することだ」と語る。

 「現在の顧客の悩みは『オンプレミス環境をどうするか』というもの。そこでは、ソフトウェア定義(Software-Defined)、(特定ベンダーに依存しない)ハイパーバイザー中立、コンテナ中立といったキーワードが重要になる。目的に特化したアプリケーションとワークロードがあり、信頼できるパートナーを求めている」と(バーン氏)

 そうした顧客企業の変化に呼応して、デルも注力分野を変化させている。PC、コンピュート(サーバー)&ネットワーキング、ストレージ、APEX(as a Service)といった「コア」の事業領域はそのまま成長維持を図りながら、大きな成長を狙う「グロースエリア」としてエッジ、5G、データ管理、AI/機械学習、セキュリティ、クラウドなどに取り組む方針だ。過去3年間、デルでは76億ドルを研究開発に投じており、Q4時点で2万8000件以上の特許を取得/申請中だと、バーン氏は胸を張る。

成長を維持する「コア領域」と、新たに高い成長を目指す「グロース領域」を組み合わせる事業戦略

 特に、APEXは第4四半期に67%成長するなど好調であり、次はエッジコンピューティング、サイバーセキュリティがデルの成長を加速させると語る。

 ちなみに言葉は異なれど、デルのライバルであるヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)も、分社化した2015年から「Right Mix(正しい組み合わせ)」という言葉で、オンプレミスとクラウドを適材適所で活用するという方向性を示している。

 日本を含むアジア太平洋地域(APJ)のビジネス状況については、同社 APJプレジデントのピーター・マース氏が説明した。マース氏が示したデータ(IDC調査)によると、APJにおいても外部ストレージ、メインストリームサーバー(x86サーバー)、商用PC分野でデルはシェア1位を獲得している。

 APJでは、シンガポールを本拠地に日本を含む40カ国以上にビジネス展開している。信頼されるパートナーとなるべく、東京など3カ所に「Executive Briefing Center」を構えるほか、AIソリューションを顧客に紹介する「AI Experience Zone」も日本、韓国など4カ所に設置している。

APJにおけるデルのフットプリント

 APJの事例として、富士通と共同で開発する5G分野の「Open RAN」ソリューションを紹介した。富士通のOpen RAN準拠無線ユニットとデルの「Open RAN Accelerator Card」を組み合わせた通信事業者向けのソリューションだ。マース氏は「5Gへの投資が進んでいる現在、5Gへのインフラは重要になっている」と説明した。

 日本市場については「世界で2番目のエンタープライズIT市場であり、ICT市場規模は2600億ドルと、Dellにとっては世界で3番目に大きなオポチュニティを持つ市場だ」と語る。日本では特にエッジ、5G/テレコム、マルチクラウド、サイバーセキュリティ、“新しい働き方”などが重点事業分野だという。

日本市場における注力分野

 マース氏は「(2020年の)DellとEMCの統合によって日本におけるデルの事業規模は2倍になった」としたうえで、再び規模が2倍になるレベルでのビジネス拡大を望んでいると語った。

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