国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
Beyond 5G後の長距離光通信のキーテクノロジー
NICT(エヌアイシーティー)、住友電気工業株式会社は、標準外径(0.125 mm)のマルチコア光ファイバでは世界最多コア数の結合型19コア光ファイバを開発し、毎秒1.7ペタビット、63.5 km伝送実験に成功しました。標準外径マルチコア光ファイバの伝送容量世界記録に加え、毎秒1ペタビット級の伝送実験の最長距離も更新しました。また、マルチモード光ファイバ伝送方式に比べ、MIMOデジタル信号処理の負荷(消費電力)を大幅に低減できる可能性を示しました。
【ポイント】
■ 標準外径で世界最多コア数19の光ファイバを開発し、毎秒1.7ペタビットの大容量伝送に成功
■ マルチモード光ファイバより信号処理負荷の少ない結合型マルチコア光ファイバで、省電力化に貢献
■ Beyond 5G後の大洋横断級の長距離光通信網の大容量化へ向けた道を拓く
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)、住友電気工業株式会社(住友電工、社長: 井上 治)は、標準外径(0.125 mm)のマルチコア光ファイバでは世界最多コア数の結合型19コア光ファイバを開発し、毎秒1.7ペタビット、63.5 km伝送実験に成功しました。
本実験の結果は、標準外径マルチコア光ファイバの伝送容量世界記録に加え、毎秒1ペタビット級の伝送実験の最長距離も更新しました。また、本成果は、マルチモード光ファイバ伝送方式に比べ、大洋横断等の10,000 km級伝送では、必要となるMIMOデジタル信号処理の負荷(消費電力)を大幅に低減できる可能性を示し、Beyond 5G後の長距離光通信網の大容量化へ向けた道を拓くキーテクノロジーとして期待されます。
本実験結果の論文は、第46回光ファイバ通信国際会議(OFC 2023)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間2023年3月9日(木)に発表しました。
【背景】
増大し続ける通信量に対応するための新型光ファイバ研究が進み、NICTは標準外径光ファイバ伝送実験において、非結合型マルチコア光ファイバを用いて毎秒1.02ペタビット、マルチモード光ファイバを用いて毎秒1.53ペタビット、結合型マルチコア光ファイバを用いて毎秒0.17ペタビットの伝送容量を達成しています(表1参照)。
しかし、非結合型マルチコア光ファイバでは、コア間の信号干渉抑制のためコア数が制限され、更なる大容量化が困難です。また、マルチモード光ファイバ伝送では、モードごとの伝搬特性の差が大きいため、長距離化に向けては課題を抱えていました。結合型マルチコア光ファイバは、MIMOデジタル信号処理による干渉除去を前提に上記の制限を打破する光ファイバであり、次世代の長距離大容量伝送技術として研究開発が行われていますが、高精度なコア配置が必要なことから、標準外径の結合型マルチコアファイバのコア数は最大でも12コアでした。
【今回の成果】
今回、住友電工が標準外径の結合型19コアファイバの設計・製造を、NICTが同ファイバの性能を最大限に引き出す伝送システムの構築を担当し、毎秒1.7ペタビット、63.5 km伝送に成功しました。この結合型19コアファイバは、コアの構造と配置の最適化により、標準外径で世界最多コア数を実現しつつ、光信号の経路ごとの伝搬特性の差を抑制するためのランダムな結合を実現しました。
結合型マルチコアファイバでは、信号干渉のためにコアごとの伝送性能の評価が不可能で、全コアの信号を同時に受信し一括でMIMO処理による復調、評価する必要があります。NICTは、19コアの信号を同時に並列高速受信する光伝送システムを構築し、商用の波長帯域(C、L帯)と偏波多重64QAM信号を用いて、伝送距離63.5 kmにおいて合計毎秒1.7ペタビットの伝送容量を実証しました。また、光信号の経路ごとの伝搬時間の差が小さく、信号処理負荷(消費電力)の大幅な軽減が可能となりました。
Beyond 5G以降の社会では、あらゆる人があらゆる場所で活躍できるように、大容量の通信インフラに支えられたサイバーフィジカルシステムを実現していくことが望まれます。一方で、環境への負荷を抑えるため、情報通信に伴う電力消費の増加は最低限にとどめる必要があります。本研究で開発された結合型19コア光ファイバは、このような社会要請を見据え、実用化に向けて研究開発が進んでいる非結合型4コアファイバの次の世代を担う長距離用伝送媒体として最も有望な候補の一つとして位置付けられます。
【今後の展望】
今後、より長距離での伝送評価を行っていくとともに、波長帯域の拡張による大容量化や結合型19コア光ファイバに対応したデバイスの開発、スイッチング等の要素技術の検討を進め、実用化の可能性を探求していきます。
なお、本実験の結果の論文は、光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第46回光ファイバ通信国際会議(OFC 2023、3月5日(日)~3月9日(木))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間3月9日(木)に発表しました。
<採択論文>
国際会議: OFC 2023 最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)
論文名: Randomly Coupled 19-Core Multi-Core Fiber with Standard Cladding Diameter
著者名: Georg Rademacher, Menno van den Hout, Ruben S. Luís, Benjamin J. Puttnam, Giammarco Di Sciullo, Tetsuya Hayashi, Ayumi Inoue, Takuji Nagashima, Simon Gross, Andrew Ross-Adams, Michael J. Withford, Jun Sakaguchi, Cristian Antonelli, Chigo Okonkwo, Hideaki Furukawa
<過去のNICTの報道発表>
・2022年10月3日 「世界初、標準外径光ファイバで55モード多重、毎秒1.53ペタビットの伝送成功」
https://www.nict.go.jp/press/2022/10/03-1.html
・2022年5月19日 「世界初、4コア光ファイバで毎秒1ペタビット伝送に成功」
https://www.nict.go.jp/press/2022/05/19-1.html
・2020年12月17日 「世界初、マルチモード光ファイバで毎秒1ペタビット伝送成功」
https://www.nict.go.jp/press/2020/12/17-1.html
・2020年3月11日 「世界記録更新、標準外径3コア光ファイバで毎秒172テラビット、2,040 km達成」
https://www.nict.go.jp/press/2020/03/11-2.html