熱狂的なファンがいるから勝てた?「kintone活用ちゃんねる」の中の人が語る
YouTubeでkintoneを売るペパコミのハルクに聞く なぜ建設業と相性が良いのか?
2023年02月22日 09時00分更新
kintoneの構築から運用、人材教育まで幅広く手がけるペパコミ。会社名は知らなくても「kintone活用ちゃんねる」というYouTubeを配信しているハルクこと小川喜句(おがわはるく)さんなら知っている人も多いだろう。アフィリエイト・SEOの現場からkintoneビジネスに飛び込んだハルクさんに、今のペパコミに至るまでの経緯と建設業での強み、信者じゃないから見えるkintoneの強みと弱み、kintone人材の動向など、幅広く聞いた。(インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ)
案件でkintoneを学ぶ とにかく経験値
ハルクさんは20歳で一般企業に入社し、23歳で自営業で独立して、アフィリエイトやSEO、Webマーケティングを手がけるようになる。独立後4年後にペパコミとして法人化して、2020年からkintone事業に取り組んでいる。
kintoneビジネスを始めたのは、市場性を感じたからにほかならない。「SaaS企業で内部統制案件のPMを受託したとき、とある案件でkintoneが使えそうということでセミナーに参加したら、めちゃめちゃ面白いと思いました。kintoneを事業化したら、売れると感じました」とハルクさんは振り返る。「kintoneちょっとできる」ではなく、「集客できるか?」という観点を優先するのがハルクさんの哲学のようだ。
最初にやったのは、まず案件を受託することだった。「今までの取引先に営業をかけて、とにかく先に受注しました。だから、kintone構築経験がない状態で案件を獲ってきたんです(笑)。自分たちを追い込んで役員二人と勉強しながら構築と検証をひたすら繰り返して、納品した感じですね。もちろんそんな中でも結果には満足頂きました。というか、満足頂くまで何度も何度も必死に対応しました」とハルクさんは振り返る。
もちろん学びながら、実案件をこなすのはそう簡単ではない。失敗や回り道も多かったが、それが経験値となり、ノウハウが増える。そして、このノウハウこそがペパコミの強みだ。「kintone界隈ではもはやあるあるですが、『最初から100%を目指すな』というのはここで学びました。この手のツールはとにかく経験値。座学じゃないんです」とハルクさんは語る。
アフィリエイトとSEOを経験し、YouTubeでkintoneを売るまで
ハルクさんがユニークなのは、「kintoneを売るならYouTubeだ」と直感したことだろう。「kintoneってなんでもできる。でも、アフィリエイトやっていた立場からすると、なんでもできるものは逆に売れにくいんです。売れにくいものを売るためには、どうやって使うかを説明すればいい。それならYouTubeだなと」とハルクさんは語る。
アフィリエイターであった経験を活かし、サイトのSEOも意識し、YouTubeコンテンツを作り続けた結果、ハルクさんの「kintone活用ちゃんねる」のコンテンツはすでに250本を超える。大きくは特定業種の用途にターゲットした活用事例とデモ、kintoneアプリ開発のマインドセット、商談や社内教育用のコンテンツの3種類。kintoneにまつわるハルクさんの関わり方や活動を編集して、撮って出したものが多く、B2Bでありながら生々しく、わかりやすいのが特徴だ。
今でこそkintoneにまつわる動画やSNSコンテンツは花盛りだが、当時はkintone YouTuberもほとんどいない状態。視聴者もいなかったが、アフィリエイト出身のハルクさんは根気があった。「始めたときは再生数も5とか、6とかという状態でした。でも、ターゲットを絞っているから、見ている層がめちゃくちゃ濃い。だから、再生数50を超えて、チャンネル登録100人くらいで、もう問い合わせが来ました。思いのほか早かったです」とハルクさんは語る。
現在、ペパコミの問い合わせはすでに6割がYouTube経由だという。しかし、ハルクさんは「運がよかったとは思います」と語る。「チャンネル登録してくれた数百人が、物見遊山の3桁なのか、すごく濃い3桁なのか、最初はわからなかった。でも、kintoneの市場は熱狂的なファンが多かった。だから、ラッキーだったんです」と振り返る。
IT活用が頓挫する建設業界 キラーアプリで課題解決
YouTubeでkintoneを売るペパコミ。一見するとチャラいイメージもあるが、得意分野は建設業、士業、コンサル会社、不動産、金融、保険などけっこうお堅い。特にYouTube経由の問い合わせは建設業が圧倒的に多いため、案件を重ねてますます得意になっているという。
建設業になぜ強いのか? これは「実行予算管理」というキラーアプリがあるからだという。実行予算とは、工事の着工前に算出した工事予算を指す。工事現場で発生する費用をなるべく詳細に見積もり、実績値と比較するのがいわゆる実行予算管理。一般企業で言ういわゆる予実管理に近いものだ。
建設業でのこの実行予算管理が難しいのは、原価管理の手間が大きいからだ。「自社の人工、外注分、資材費などの原価をすべて異なるExcelシートで管理しているんです。これらのシートから転記したり、マクロを組んで大本となる工事原価台帳にまとめるので、とても手間がかかります。この課題を解決するソリューションが現状あまりないんです」とハルクさんは指摘する。
ハルクさんはkintoneを用いて、これら原価管理をアプリ化した。kintoneから日報を記入すれば、原価が集計される仕組み。結果として、この実行予算管理のkintoneアプリについて配信する動画のコンバージョン率がとても高いのが、建設業に強い理由といえる。また、ハルクさん自身が建設業組合の社団法人の運営に入っているため、建設業界について理解しているのも大きい。課題に刺さるソリューションが導入されると、当然ノウハウもたまり、それが動画や案件に活きるとさらに建設業に強くなると言う好循環だ。
今後は建設業×kintoneの事例は確実に増えるとみている。「建設業って、とにかく紙文化がすごい強いので、どの経営者も1回はITにチャレンジしているんです。でも頓挫する。なぜ頓挫するかというと、現場の職人さんが使えないからです」とハルクさんは指摘する。
その点、kintoneは現場に合わせてアプリを作れるという柔軟さがある。「パッケージは形が決まっているので、使えなかった時点でアウトです。その点kintoneは、スマホで3箇所だけ埋めればいいよというアプリが作れますし、それでダメでも違う方法が試せます」とハルクさんは語る。実際に「現場が使えない」という声を受け、アプリを分割したり、LINEの内容を事務員さんに入力してもらうようにしたり、場合によっては紙で書かれた書類をデジタル化することもあるという。
信者じゃないから見えるkintoneの強み、弱み
ペパコミでは、kintoneのアプリ開発や運用・保守のほか、伴走型サービスや教育などをサービスとして提供している。「kintoneって、本来は自分たちでアプリ作れますよね。だからkintone担当者を教育するというメニューも持っています。僕らからさっさと卒業してもらって(笑)、自分たちでアプリを改修できるようになってもらいたい」(ハルクさん)。最近では、大手企業でのkintone研修も受けるようになっており、kintoneとはなにか?といった基礎から始める独自のカリキュラムも構築しているという。
kintoneで気に入ったのは、導入して終わりではないこと。「最初はいろいろな事業にフィットする点がよかったんですけど、今となってみると導入して、運用して、現場からの声を取り入れて、改修して、最適化できるところ。これはほかのツールにはないところですね」とハルクさんは語る。
加えて、ベンダーの介在余地があるという点がkintoneビジネスの美点だという。「お客さまの役に立つため、ずっと付き合って行きたいという気持ちがあります。そういう意味では保守費用だけをもらうのはいや。あくまで価値を出し続けながら、長く付き合っていきたい。その点はkintoneの価値が作りやすいビジネスモデルです」とハルクさんは評価する。
一方で、Excelで行っている業務を すぐにkintoneに乗り換えられると考えるのは早計だ。「Excelは縦横でのクロス集計が売りのツール。でも、kintoneはデータベースで縦列しかないので、Excelをkintoneで代替するというのは考えを変えないと難しい」とハルクさんはクギを刺す。
「動画でも言ってますが、僕はkintone信者じゃない」とハルクさんは語る。kintoneにこだわりすぎると、あらゆる課題をkintoneで解決したくなってしまうが、それは違うとハルクさんは指摘する。kintoneを活用しつつ、他の方法も提案できるのは、やりたいことがあくまで業務改善だから。kintoneに依存しすぎず、ITの汎用的な技術や知識を持ち、お客さまから信頼されるパートナーになるというのが重要だという。
安易に独立するkintoneフリーランスにもの申す
最近のハルクさんの悩みは、YouTubeのようなコンテンツを視聴する可処分時間の減少だ。アフィリエイトやSEOのブーム変遷を見ているハルクさんは、今のYouTubeからTikTokへのシフトを敏感に感じている。「SEOも最初は露出しているだけで勝てたけど、そのうち顔出ししないと勝てなくなり、コンテンツがよくないと勝てなくなり、もはやコンテンツがすさまじくよくないと勝てません。ここまで10年近くかかったのですが、YouTubeからTikTokへのシフトはこれを3年に凝縮したような速さがあります。もはやYouTubeだけでは全然安心できません」とコメント。kintoneだけじゃ安心できない、YouTubeだけじゃ安心できないというのは、Web業界を渡り歩いてきたハルクさんの肌感覚に違いない。
もう1つハルクさんの悩みは、kintoneで解消したい課題としてよく挙がる「属人化」だ。現在ペパコミではフロントやマーケティング、全体設計にハルクさんが立ち、7~8人くらいから成るチームがシステム構築を請け負っている。「YouTubeで顔を出しているから、属人的になってしまい、僕が出ないとなあという話になるんです(笑)。だから、うちのスタッフを少しずつ出していこうと思います」とハルクさんは語る。
実際、最近案件を担当しているペパコミの若手は、クライアント対応から要件定義まで一人でこなしている。「23歳でそこまでできたらすごい。そういう活躍を見てると、うれしいですよね。教育事業をやっていることもあり、市場に役立つ人材を育てたいという気持ちがあるので」ハルクさんは語る。
ペパコミの次の方向性も、こうした人材育成がテーマ。まずはkintoneのフリーランスの育成メディアを作るという。「社内でkintoneのアプリを作る人って、社内で評価されないと、けっこう独立するんですよね。kintoneってコミュニティ活動が活発なので、外の世界を見ると、隣の芝生が青く見えるんですよね」とハルクさんは分析する。
しかし、こうしたkintoneフリーランスの増加に対して、ハルクさんはまたもやクギを刺す。「『そのノリで独立するのマジ迷惑だから辞めてくれ』って番組でも言いました(笑)。サイボウズの青野社長もTwitterでリツイートしてくれたんですけど、自社の業務を改善するのと、まったく違う業界の業務を改善するのってレベルが全然違う。だから、いきなり外に飛び立っても難しいんです」とハルクさんは指摘する。
とはいえ、ハルクさん自体もkintone人材が増えるのは歓迎だ。「ベンダーの下請けとして手伝うとか、大きな業務改善ではなく一部にコンサルで入るとか、自身が所属していた業界に絞ってフリーランスでやっていったほうがいい」(ハルクさん)。増えてきたkintoneフリーランスを正しく育てるためのメディアを作り、リスキリングブームの受け皿としてのkintoneやkintone人材の流動化に貢献していきたいという。
(提供:ペパコミ)
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