モーダル小嶋のTOKYO男子めし 第83回
台湾っぽいかといわれると、そうではないかもしれないんですけど:
松屋「台湾風まぜ牛めし」 ビビン丼っぽい“ちょうどよい”おいしさ、590円の中庸の美学
2023年02月08日 17時00分更新
「台湾風まぜ牛めし」
松屋
2月7日発売
590円
https://www.matsuyafoods.co.jp/whatsnew/menu/46453.html
まぜ牛めしという概念
「中庸」という言葉があります。儒教の経書で有名な「四書」の1つであり(もともと「礼記」中の1篇)、儒学の中でも尊重されてきた中心概念でもあります。ざっくり言えば、過不足なく、偏りのないことを指します。
アリストテレス倫理学においての「メソテース」(人間の行為や感情における超過と不足を調整する徳)も、日本語においては「中庸」と訳されます。必ずしも「ちょうど中間地点」というわけではなく、両極端の中間的な状態と考えればよいでしょうか。AとBという相反する要素があったとして、ど真ん中ではなく、ちょっとAに寄ったりBに寄ったりすることもありましょう。
最近の飲食業界では、「背徳系グルメ」や「デカ盛り」などといった、過不足上等と言わんばかりのメニューが幅を利かせています。それらが悪いわけではありませんが、たまには偏りのない、中庸のメニューが食べたいもの。
さて、松屋では2月7日から「台湾風まぜ牛めし」を発売しています。価格は590円、ライス大盛りは650円。
“松屋で世界の味”シリーズから、台湾風の新作メニューが登場。台湾風メニューは2022年秋に登場した魯肉飯(ルーローハン)に次ぐ2作目となります。
牛めしに半熟玉子、松屋自社製キムチに海苔、青ネギをあわせ、新たに開発した絶品“まぜダレ”をトッピングした新作牛めし。
主役はピリッと辛いまぜダレ。鶏白湯ベースに豆板醤を効かせた鶏そぼろと薬味をあわせたタレだそうで、ご飯にも他の具材にも相性がよいとのこと。ごはんも具も豪快に混ぜて風味を楽しめる丼メニュー。
実はとんかつ業態の商品開発担当からの提案で生まれたという、ちょっと意外なエピソードもある「まぜ牛めし」。牛めしを混ぜる……。今までにない概念です。はたして、どのような仕上がりなのでしょうか。
いろいろな味が混ざり合ってバランスがよい
その分、“台湾感”は薄い
コンセプトとしては、松屋のレギュラーメニュー「牛焼ビビン丼」に似ています。牛焼ビビン丼も、かつては「ビビン丼」(2017年8月に販売終了)であり、何度か復活したと思ったら肉が変わったり具材の組み合わせが変わっている……という具合で、今は“牛焼”に落ち着いています。
「まぜ牛めし」と言われてはいますが、牛めし、という感じではないですよね。牛丼というよりビビンパっぽい。半熟玉子、キムチ、海苔、青ネギ、牛肉(牛めしの具)、まぜダレのビビン丼と考えてよろしいかと。
味のポイントになるのは、まぜダレ。松屋公式には「鶏白湯ベースにピリッと辛い豆板醤を効かせた鶏そぼろと薬味のタレ」とあります。鶏そぼろはそれほど入っておらず、鶏のミンチというより、確かに「タレ」という風情。
単体で口に運んでみたのですが、確かに鶏白湯と辛味を感じます。ただ、そこまで台湾風とは思いませんが……というか、何を持って“台湾風”とするのかはわかりませんよね。八角の香りだろうか。
筆者は台湾を訪れたことがないので、もしかすると、台湾通の人からすれば「これだよ、これ」という何かがあるのかもしれません。
なにはともあれ、これは“まぜ”牛めしです。よく混ぜないといけないでしょう。結果的に、まぜダレが丼の全体にまんべんなく行き渡ります。
牛めしのタレとまぜダレの味も混ざり合いますし、そこにキムチも入ってくる。さらに、半熟玉子のまろやかさも加わる……。それが、まぜ牛めし。
結果的に、「牛めしに、キムチとネギと半熟玉子が加わり、鶏白湯風味のタレの風味もちょっとプラス」になるわけです。普通の牛めしにさまざまな薬味が加わって、にぎやかな味わい。
まぜダレも、しっかり味が付いているとはいえ、よく混ぜれば丼の中で分散されます。丼全体になじみますし、半熟玉子の味などで角がなくなる。そもそも、それほど辛味や香りは強くありません。
なので、いろいろな味が混ざり合っていながら、悪目立ちする要素がない。な余計なものがないというか、「この具材が邪魔だ」というものがないわけです。うまくまとまっているな……と感じました。
ただ、“台湾感”は薄いですね。まぜダレ自体は確かに個性的な味なのですが、混ぜ合わせた分だけマイルドになるのは否めない。
その点では、もうちょっと台湾的な味がほしい……と思う人もいるかもしれません。そういった香りや味の“ヤミツキ”感はないものの、その分、バランスはよいと思います。万人受けする方向を狙っているという感じでしょうか。
牛丼チェーンのメニューに「中庸」というのもおかしいだろうと言われそうですが、そんな感じの味なのです。つまり、牛めしらしさもあり、キムチやまぜダレの刺激もある。いつもとはちょっと違う。でも、過度な香りや辛味があるわけでもなく、まろやかだけど、ぼやけてもいない。過不足なく、偏りのない、ちょうどよい味。中庸の美学。
めちゃくちゃ個性的かと言われれば、「いいえ」という感じ。「台湾っぽい」とわかりやすく感じる点は、あまりないのです。だけれども、まとまりがあります。突出した部分は少ないですが、「濃すぎる」「食べにくい」ということがありません。
いつもの牛めしのバリエーションとして、あるいはビビン丼の進化系として、多くの人にオススメできる味になっています。590円という価格も、とってもお安いというわけではないにせよ、比較的、試しやすいかと。良い意味で、中庸感のあるメニューでした。
モーダル小嶋
1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。一人めし連載「モーダル小嶋のTOKYO男子めし」もよろしくお願い申し上げます。
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