独ライカカメラ社が全面監修したスマートフォンの第2弾「LEITZ PHONE 2」。独自機能「Leitz Looks」が強化され、同社を代表する3つのレンズの雰囲気を再現した撮影ができるなど、同社の特徴がより際立ったLEITZ PHONE 2だが、どのようにして開発がすすめられたのか。ライカカメラのスマートフォン事業の現状なども含め、開発に携わるメンバーにグループインタビュー形式で話を聞くことができた。なお、インタビューに参加したのは同社から以下の4名だ。
・ヴァイス プレジデント ビジネスモバイルユニット マリウス・エシュヴァイラー氏
・シニア ライカデザインインダストリアルデザイナー ロブ・タイラー氏
・テクニカルプロジェクトマネージャー ヨナス・デイストラー氏
・ビジネスモバイルユニット T&I部長 パブロ・ノダ・アセベイド氏
ライカらしさを維持しながら
顧客の声を反映したデザイン
──最初に、前機種「LEITZ PHONE 1」の反響はどうでしたか?
マリウス氏 日本の顧客はLEITZ PHONE 1を大変気に入ってくれましたし、ポジティブなフィードバックをいただきました。販売するソフトバンクからも、予定より早く売り切れたとの話がありましたので、その成功体験をもとに、写真を好むカメラ好きの人にスマートフォンでライカの体験ができるよう、協力を続けることとなりました。
──顧客の声をLEITZ PHONE 2に反映させた部分はありますか?
マリウス氏 LEITZ PHONEのデザインは一貫したものにしようと決めていて、カラーは大幅に変わったものの、デザインは踏襲しています。一方で、LEITZ PHONE 1はフロントパネルが湾曲していましたが、LEITZ PHONE 2ではフラットに変えました。これはユーザーの意見を聞いて実現したものです。
──今回のホワイトはインパクトが強いですが、なぜ白を選んだのでしょうか?
ロブ氏 よりインパクトを与え、進化を見せたかったためです。LEITZ PHONEでは新しい顧客を想定しているので、現代的なものへのこだわりをアピールするうえでも白を選びました。「ライカM8」というカメラで限定版のホワイトモデルを提供しており、そちらとの相関関係もありますね。
──デザイン面でほかにもLEITZ PHONE 1との違いが見られます。どのような考え方が反映されているのでしょうか。
ロブ氏 フラットディスプレーを搭載したことも含め、今回は大幅なデザイン変更になったと思っています。ただ、そうはいっても弊社が関わる製品ですので、アルミ削り出しのような成形手法や、ローレット加工は踏襲していますし、背面もカービングさせ、持ったときに使い心地が良く、手になじむデザイン設計としています。
シャープとの共同開発は画質の追及に苦労も
──(LEITZ PHONE 2の製造を担う)シャープと開発を進める上で、大変だったことはありましたか?
パブロ氏 シャープとは密にコミュニケーションしていますが、最も大変だったのはクオリティーです。ライカが写真撮影に求める品質には基準があり、そのレベルに達成するための反復作業を繰り返してきました。
ヨナス氏 スマートフォン業界はかなりのスピード感で色々なものが変わっていて、スケジュールがタイトなのも大変でした。弊社が求める非常に高い画質へのこだわりを、短期間で実装する必要があっただけに二重の苦労がありましたね。
──(ベースモデルの)「AQUOS R7」は1インチのイメージセンサーが前モデルから変更されています。センサーが変わったことでどのようなチャレンジがありましたか?
パブロ氏 アイデア出しの段階では、イメージセンサーはLEITZ PHONE 1と同じものを使うものと思っていました。ですがシャープの最新モデルが新しいセンサーを採用したことから、それを使う事に合意していますし、史上最高水準のセンサーを搭載できたと思っています。
もちろんどんな製品でも同じなのですが、センサーが変わっただけで大きな作業が発生します。センサーを変えたことで、パラメーターやISP処理などをしっかりチューニングする膨大な作業が発生したのは事実です。
──御社は直接スマートフォンを開発していないので、ベースモデルの機能・性能に縛られ実現できない機能が出てくると思います。そうした制約どう捉えているのでしょうか?
マリウス氏 LEITZ PHONE 2の独自性はインダストリデザインであり、UIやUXであり、Leitz Looksです。制約はありますがそれを理解した上でプロジェクトを始めていますし、大変なことも弊社とシャープ側で意見を出し合って乗り越え、いい製品に仕上がったと思っています。
Leitz Looksのレンズはどうやって実現している?
──LEITZ PHONE 2ではLeitz Looksが大きく進化し、ソフト処理で3つのレンズの体験を新たに実現しています。これはチップ性能の進化で実現できたものなのでしょうか。
パブロ氏 1つはチップの性能が変わったことですが、もう1つはカメラのセットアップが変わったことです。メインカメラだけでなく、距離を測定するセンサーが搭載されたことが大きいですね。
──Leitz Looksでは、なぜフィルタよりレンズを優先したインターフェースになっているのでしょうか。
マリウス氏 我々の製品を購入する人は間違いなく写真好きです。そうした人たちにはレンズの方が人気になるだろうと考え、レンズを優先することにしました。クラシックカメラでもレンズをどれにするかを選んでから撮影に入るので、そのアプローチをインターフェースに取り入れています。
──コンピューティショナルフォトグラフィーでボケ味をデジタルで実現するアプリは多く存在します。そうした中でLeitz Looksの強みはどこにあるのでしょうか。
パブロ氏 我々のアプローチは他社と違っていて、レンズの物性を正確に反映させ、形をぼかす、歪ませるなどの曖昧な表現を実際のカメラレンズと似たものにできるのが強みです。そのアルゴリズムは社内で独自開発しており、ユーザーが実際のカメラで撮影しているのと同じ感覚が得られるパフォーマンスを出せるようにしています。
──「Monochrome」「Cinema Classic」「Cinema Contemporary」という3つのフィルタを用意した理由について教えて下さい。
ヨナス氏 弊社ではフィルタを「トーン」と呼んでいますが、Monochromeはライカカメラの歴史的に重要であり、ライカを語る上で必須の存在なので最初に搭載しました。そして2つのシネマティックトーンですが、こちらもアナログ時代を考慮した、ライカの特性を示すモードになると考え搭載することに決めました。
──Leitz Looksを実際に使うと撮影時後の処理にやや時間がかかるように感じます。どのような処理に時間がかかっているのでしょうか。
パブロ氏 レンズに関して言えば、メインカメラともう1つのカメラを同期させる処理が発生しますし、ボケを綺麗に出せるようレンダリングエンジンも動いています。またレンズほどではありませんがトーンにも処理がかかっています。
──新しいLeitz Looksの機能は、LEITZ PHONE 1では利用できるようになりますか?
パブロ氏 ハードの設計が2つのマシンで違っています。LEITZ PHONE 2で実装した性能やユーザー体験をLEITZ PHONE 1では実装できないので、その予定はありません。
──フロントカメラでLeitz Looksが使えないことが残念です。今後のアップデートで対応できないのでしょうか。
ヨナス氏 フロントカメラを対象外としているのはハード上の制約です。Leitz Looksは距離を測定する2つのカメラでボケ感を出す処理をしていますが、フロントカメラにそれがないのでテクニカル上実現できず、ハードウェアでの改善を検討する必要があります。
──Leitz Looksは今後どうなっていくのでしょうか。レンズの種類が増え、よりカメラに近づけていくのでしょうか?
マリウス氏 レンズのポートフォリオを増やしたい思いがありますし、トーンももう少し改善したい。カラースキームを改善したいと思いますし、過去のカラーの経験やサイエンスを活用してもう少し進化させたいです。
画質もまだまだ追求できるところがありますし、精度を高めることも研究課題です。被写体と背景をよりクリアに分ける技術や、逆にボケ感の度合をもう少し改善してシャープに見える部分と背景の具合を変えるなど、R&Dへの投資を続けていきたいですね。ただ、LEITZ PHONE 2のLeitz Looksにレンズを追加するかどうかは決まっていません。
──操作性の進化や改善などに期待はできますか?
パブロ氏 答えはイエスです。我々は継続的搭載するフィーチャーを進化させるよう、常に努力をしており改善の努力をしています。アルゴリズム処理やユーザー体験の改善、画質の改善など我々ができる限りの範囲内でアップデートしていきたいです。
ライカ監修の他社製品とLEITZ PHONEの違いとは
──ライカカメラの中で、モバイルビジネスユニットはどのようなミッションがあるのでしょうか?
マリウス氏 ライカカメラにとってスマートフォンが重要と認識したことから、専任の組織をを立ち上げるに至っています。モバイルビジネスユニットでやるべき仕事は3つあり、1つ目はレンズなどの光学的開発。2つ目はソフトウェアによるイメージプロセッシングで、次世代のイメージ改良などもこちらでやっています。
そして3つ目がイメージクオリティのチューニングで、対象物に対して最終的な微調整をしています。LEITZ PHONE 2の開発にはそれらすべてが関わっていますが、もう1つインダストリアルデザインチームのチームの貢献も忘れてはいけません。彼らはライカカメラのすべての製品に関わっており、UI・UXに至るまで深く関与しています。
──画質に求める品質は数値なのか、それとも目で確認するものなのでしょうか。
ヨナス氏 2つあると思っています。1つは画質を数値的に測定した値からの判断で、ラボの中で数値を見てチェックするやり方です。そしてもう1つが主観、要は目になるのですが、実際に外に出て色々なシナリオで撮影し、求めるクオリティかどうかを判断しています。
──シャオミなどからもライカカメラ監修のスマートフォンが発表されています。LEITZ PHONEシリーズ以外のスマートフォンもモバイルビジネスユニットが担当しているのでしょうか?
マリウス氏 ほかのパートナーシップのモデルも担当しており、担当者も分けています。彼らとは緊密にやり取りして、経験やアイデアを出し合い画質だけでなくUI・UXなどに関しても知見を共有しています。
──一方で、御社が監修したシャオミの製品にはライカカメラのロゴがなかったと思います。
マリウス氏 協力関係に違いがあります。LEITZ PHONEシリーズは我々が責任をもってデザインしていますが、シャオミとの提携製品は我々がエンジニアリングを手伝っているものの、あくまでシャオミの製品なので扱いが違うのです。
──スマートフォンはカメラと違って製品寿命が短いですが、そこに力を入れることが長く利用されることが多いライカカメラの価値を落とすという危惧はないのでしょうか。
パブロ氏 我々はそこは不利な点ではないと思っていて、むしろメリットだと思っています。なぜなら画質処理などをスピード感をもって日々改善し、それをLEITZ PHONEシリーズのユーザーに新しい知見を頻繁に、かつタイムリーにアップデートできるので、ユーザーがどんどん良い体験を手に入れられるからです。
ロブ氏 デザインもライフサイクルの短さは意識して心がけています。スマートフォンはカメラと比べスピード感が違うことがわかっていますから、プロダクトデザインをする際は何年間で買い替えるものかを判断し、それに応じて責任を持ってリサイクルできる素材を用いることを重視しています。
──LEITZ PHONEシリーズの日本以外での展開はどう考えていますか?
マリウス氏 LEITZ PHONEは1も2も日本向けに開発していて、ハードやアンテナも日本の電波に合わせていることから、ヨーロッパや中国で販売するとなれば作り直しになるでしょう。ただ海外の顧客からの反応は大きく「ぜひ欲しい」と直談判されることもありますので、タイミングはわかりませんがいつかは日本以外でも出したい。3が出た時に海外を視野に考えないこともないですが、あくまで“将来”のことですね。
──ありがとうございました。