麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第78回
千住真理子、ピンク・フロイド、ルツェルン祝祭弦楽合奏団の最新モーツァルト
千住真理子の還暦記念アルバム、デュランティのクリアな音を聴け!~麻倉怜士推薦盤
2022年11月02日 17時15分更新
評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!
高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。
千住真理子の還暦記念アルバム。名器ストラディヴァリウス「デュランティ」の音はひじょうにクリヤー。音像が屹立し、直接音がダイレクトに進行する明瞭な音だ。もちろん会場に拡散するアンビエントも含まれるが、それよりヴァイオリン音にどれほど迫れるかに挑戦した尖鋭な録音で、高性能なストラディヴァリウス「デュランティ」を、いかに千住真理子がドライブするかを、こと細かに記録している。「来る日も来る日も、たった一つの音を研究し、弾き込んで、理想の唯一を探求したベートーヴェン作曲のロマンス》」とライナーにあるが、確かにこの一音一音に込めた執念まで、たいへんクリヤーに情報として聴ける。「6.T.A. Vitali: シャコンヌ ト短調」の、眼前のヴァイオリンのダイレクトな鳴きは、最近のホールトーン重視の録音からは得られない貴重な音景色だ。ダイレクトサウンドに喝采!! 2022年5月、グンエイホールPAL(笠懸野文化ホール)で録音。
FLAC:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
『Animals (2018 Remix)』
Pink Floyd
ピンク・フロイドの1977年の名アルバム。人間世界を動物に置き換え、当時の社会政治情勢に焦点を当て、人間世界を動物に喩えた名作だ。ロンドンのテムズ河のバタシー発電所の上空を飛行するジャケットデザインは、たいへん有名だ。2021年10月にe-onkyo musicでリリースされた旧マスタリングと比較した。「1.Pigs on the Wing 1」では旧版はリバーブがひじょうに多く、ヴォーカルもギターも音色はメタリック。音像は細い。今回の2018 Remixは旧版とは音場バランスは共通しているが、リバーブが少なくなり、ヴォーカル、ギターの明瞭度が格段に増す。ヴォーカル音像も、オリジナルは細身だったが、ボディ感がリッチになった。ひじょうにクリヤーで、S/Nがよく、輪郭もしっかりと描かれる。ヴォーカルのヌケの天井が高い。 「2.Dogs (2018 Remix)」は攻撃的なギターが印象的。まとめると、新リマスタリングでひじょうにクリヤーになり、透明感も高く、ディテールまでの見渡しが格段にすっきりとしてきた。
FLAC:192kHz/24bit
Columbia/Legacy、e-onkyo music
『Mozart: Haffner-Serenade KV 250 & Marsch KV 249』
Festival Strings Lucerne, Daniel Dodds
名門室内オーケストラ、ルツェルン祝祭弦楽合奏団の最新のモーツァルト。 同合奏団は、ルツェルン音楽祭のアンサンブルとして、指揮者のルドルフ・バウムガルトナーとヴァイオリンのヴォルフガング・シュナイダーハンが1956年に結成、戦後のバロック・ブームの一翼を担った。本アルバムでは、指揮者兼ヴァイオリニストのダニエル・ドッズがヴァイオリン・ソロを演奏。素晴らしい音であり、音場だ。ルツェルン祝祭弦楽合奏団の音色はどこまでも美しく、オーケストラ全体を総体的な捉えたマッシブな音像で、さらにホールトーンがハイクオリティだ。本録音会場のルツェルン・カルチャー・コングレスセンターはヌケの良さと、解像感の高さで定評あるホールだが、本作品はオーケストラの端正さと、ホールの響きの繊細さをみごとに捉えている。
FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical/Sony Music、e-onkyo music
最近珍しいオーセンティックなジャズ・ヴォーカル。21歳のSamara Joyは名門ヴァ―ヴと契約し、この『Linger Awhile』でデビュー。ガーシュウィン「Someone to Watch Over Me」やセロニアス・モンク「’Round Midnight」といったスタンダード曲から、ファッツ・ナヴァロの「Nostalgia(The Day I Knew)」まで幅広く採り上げている。ライナーには彼女のコメントが載っている。「サラ・ヴォーンやビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、ベティなど、私の最も偉大なヴォーカルのインスピレーションの源であるアーティストが多数在籍するヴァ―ヴの一員になれて、とても光栄です。この系譜の一部であることは少し畏れ多いですが、私はシンガーとしてアーティストとして、自分自身のユニークな旅を追求するために、彼女たちから得たすべてのインスピレーションを大切にしたいと思っています」
こんなジャズヴォーカルアルバムを待っていた!スタンダードを気を衒わないスタンダードなスタイルで、アコースティックを大事にして歌うジャズヴォーカルを!ジャズはこうじゃなきゃねという、安心と安寧感が嬉しい。ドスの効いた迫力のある低音、豊潤な中音、ヴィブラートの深さはサラ・ヴォーンを彷彿させる。「1.Can't Get Out of This Mood」のジャジイな躍動感、「5.Misty」の広い音域での味わいの深さ、「10.Someone To Watch Over Me(feat. Pasquale Grasso)」の、心も体も委ねたくなるような安心感は、とても22歳のシンガーのデビュー・アルバムだとは思えない,ベテラン的な貫禄だ。特に演歌的なねちっこい節回し……。ニューヨークのシアー・サウンドで録音。
FLAC:96kHz/24bit
Verve、e-onkyo music
古川展生率いる最多10人のチェロアンサンブル。あのベルリン・フィルの「12人のチェリスト」のスマッシュな現代版だ。豊かなソノリティの中で、切れ込みの鋭いチェロが咆吼する。アールアンフィニ作品はひとりの演奏でも印象的なのに、それが10人も揃えば、その迫力と進行力、輪郭力はいかがばかりか容易に想像が付くだろう。 「4.サン=サーンス: 白鳥(小林幸太郎編)」は通常はピアノでの伴奏だが、ここではチェロのピッチカートを背景に、朗々と歌われる。すべてがチェロサウンドというものも確かに重厚で、爽快だ。「9.ビゼー: カルメン幻想曲(W. トーマス=ミフネ編)」は、0:06:20の中間部高弦で演奏される「闘牛士の歌」が、たいへんセクシーだ。録音は実に鮮明で、チェロのディテールまでの音色と同時に音場の立体感が味わえる。響きの上質さ、その躍動的な飛翔というアールアンフィニサウンドの美質も嬉しい。
FLAC:384kHz/24bit
ART INFINI、e-onkyo music
『Blue Train: The Complete Masters』
John Coltrane
ジョン・コルトレーンが1957年に録音した世界遺産的な名アルバム『ブルー・トレイン』。。レコーディングから65周年を記念し、最新リマスタリングを施したオリジナル・アルバムに加えて別テイク7曲を収録。旧2014年版は解像度がいまひとつというより、音像の前にヴェールが被さっているようで、細部のアーティキュレーションが聴き取れない。ベースは雄大だが、キレ味が甘い。サックスのボディも細く、いまひとつ明確ではない。
今回の「1.Blue Train」は圧倒的な明瞭さ、進行力、そして押し出し力だ。クリヤーに音像が確実に描かれ、ベースの安定感の上に、サックスの艶艶した即興が乗る。力感がたっぷりとし、緻密な粒立ちだ。冒頭の合奏も旧版では分離がよくわからなかったが、新版ではひじょうに解像度が高く、明瞭に分かる。
FLAC:96kHz/24bit
CM BLUE NOTE (A92)、e-onkyo music
訂正とお詫び:配信フォーマットを正しいものに修正しました。(2022年11月4日)
2015年に結成されたアイスランドの室内合奏団、Barokkbandid Brakのバロックと現代作品集だ。CDでは2枚組として、1枚目は ヴィヴァルディなどのバロック、2枚目はアイスランドの新進作曲家カールソンに委嘱した新作を収録。なので『Two Sides』というアルバムタイトルが与えられている。 キレ味がシャープだが、ピリオドアンサンブルとしては尖鋭すぎない、バランス感覚が伺え、愉悦に満ちた音色感が愉しい。DXD録音/マスタリングだけあり、細部の粒立ち、音場のクリヤー感は抜群だ。躍動的な弦の響きが広い音場にきれいに拡散する様子はとても生々しい。直接的な弦の調べに加え、アンビエントの音色も美しい。アイスランドのHarpa Concert Hall and Conference Centre in Reykjavikで録音。 アメリカのバージニア州の高音質インディレーベル、Sono Luminusの作品。
FLAC:352.8kHz/24bit
Sono Luminus、e-onkyo music
9月に逝去したシカゴのジャズ・ピアニスト、ラムゼイ・ルイスの1974年作。あの「The In Crowd」のようなカクテルミュージックの大家だと思っていたら、何とカラフルなフュージョンピアノではないか。Earth, Wind & Fireのドラマーの モーリス・ホワイトを起用して、プロデュースも任せた。攻めまくった時代のラムゼイ・ルイスの代表作だ。クロスオーバーというか、ファンクなテイストが全面に横溢する、前進力の強い音楽だ。ジャズとファンク、R&B、さらにはプログレッシブ・ロックが融合したアレンジにて、まるでEarth, Wind & Fireサウンドそのもの。ラムゼイ・ルイスに、エレピを縦横に操る、こんな攻撃的な側面があったのかと驚いた。ラムゼイ・ルイスの変身に驚く愉しみを味わう一作だ。コーラスはホワイト節。EWFの主要メンバーが参加し、EWFのジャズ的、雰囲気的な側面が反映された作品である。
FLAC:192kHz/24bit
Columbia、e-onkyo music
イギリス出身のチェリスト、シェク・カネー=メイソンが、ジャンルの垣根を超えた“歌”をテーマにしたアルバム。民謡から、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ストラヴィンスキーなどのクラシック作品、ジャズの名曲、そして彼自身が作曲したオリジナルのポップソングまで多彩に聴かせる。
冒頭のソロチェロ「1.Star of the County Down (Arr. for Solo Cello)」で、シェク・カネー=メイソンの叙情性が聴ける。高域旋律の歌いの情感もとても豊かだ。チェロの音色のわずかな暗さと、鳴きの感情振幅の大きさのアンビバレンスが魅力的だ。ピアノと合奏する「6. Mendelssohn: Songs without Words, Op. 62 - No. 1, Andante espressivo」は、密やかで慎ましい感情表現が心地好い。落ち着いた、穏やかな音色が、心に染みる。「21. I Say a Little Prayer (Arr. for Solo Cello)」はバート・バカラックのポップだが、優しく弾ける音は、どこまでもジェントルだ。2021年10月14日-2022年4月14日、ロンドンのMaster Chord Studioで録音。
FLAC:96kHz/24bit
Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music
『Making Us Alive[Live]』
桑原あい ザ・プロジェクト
ジャズピアニスト桑原あいデビュー10周年記念作。2022年4月から7月にかけて全国4ヶ所で開催した「Recording Tour 2022 “Live Takes”」の中からベスト・テイクを収録している。自身の代表曲のセルフ・カヴァー、クラシック~ジャズ~ロック~ソウルと、ジャンルレスの選曲だ。トリオにとってステージが最も本領を発揮できる場であることからの ライブ収録。でもそれを感じさせない鮮明さ、高解像度、押し出しの強さが聴ける 「8.She's A Rainbow[Live]」はローリング・ストーンズのオリジナル版と同じピアノソロで始まり、千変万化に変化。ベースの活躍も聴きどころだ。ジョニ・ミッチェルの「10.Both Sides Now[Live]」はしっとりと奏でられ、、キータッチが美しい。
FLAC:48kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
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