IPv6のローミング事業者の脱却の鍵はパートナーシップ
JPIXとの合併でなにが変わる? 鶴新社長に聞いた次のJPNE
IPv6だからといって強みを発揮できる時代ではない
大谷:この話の続きで、先日発表したJPIXとの統合についても教えてください。
鶴:JPIXはマルチISPで旗揚げして、ISPにとって中立的な運用というポリシーを掲げて25年間サービスを提供してきました。JPNEも多くのISPにご利用いただいています。今後の5G/Beyond5Gネットワークの時代においては、固定、モバイルのネットワーク融合がますます進んでいきます。
JPIXとJPNEとの合併により、われわれはこれからもマルチISPのポリシーを大事にしながら、ISPの方々とFTTH顧客、auモバイルの吸引力で、コンテンツを誘致し、トラフィックを循環させ、それぞれの顧客のインターネット体験価値を上げていくというのが大きな方向性です。
大谷:KDDIのリソースも活かしつつ、ISPとも連携しつつなんですね。
鶴:auモバイルは当然KDDIのネットワークですし、フレッツ光のIPv6ローミングは「KDDIインターネット」を使います。誘致したコンテンツはJPIXを通してISPネットワークにも配信されることになりますので、それぞれ連携が必要ですね。
また、ISP連携という意味では、FTTHの世帯カバー率を引き上げていくためには、CATVや各地域の電力系ISPの皆さんとの関係強化が必須だと考えています。こうした事業者の方々向けのエリア補完などのためにv6プラスをご提供していきたいですね。
大谷:地方ISPの場合、JPNEとはどんな組み方になるんでしょうか?
鶴:ISPネットワークを自社運営されていらっしゃるISPのFTTHエリア補完はJPNEがローミングの形で、外部接続のための相互接続点はJPIXがご提供することになるので、新会社では、お客様にワンストップでアクセスと外部接続のインフラをご提供できると考えています。自社インフラとローミングネットワークをバランスよく使うことでトラフィックの急増対策にもなりえると思います。
大谷:JPIXとJPNEとのシナジーでISPを支援していくんですね。
鶴:僕らのビジネスの強みは、チャネルとチャネルを組み合わせで、新しいビジネスを作れるところ。たまたま最初はフレッツのローミングでしたけど、VNEとしてこれからやらなければならないのも、チャネルとつながった数百万のお客さまのためになる、新しいビジネス開発だと思っています。
大谷:こうしたビジネス開発については半年間で肌感みたいなもの得られました?
鶴:はい。転職してよかったなあと思うのが、過去の人間関係が活きていること。前職も含めてJPNEが次に進む方向に力を貸して頂けるのは本当にありがたいです。お互いにウィンウィンになるように協業関係を進めていきたいですね。
大谷:トップセールスならではの話題ですね(笑)。営業先のみなさまも、現状に対する課題や成長に関する不安を持っているから、次の展開を模索するにあたって鶴さんの話に前向きなのかも知れません。
鶴:もうIPv6だから強みが発揮できるという話ではないですね。フレッツ光クロスの10Gbpsサービスが今後広がっていくと思いますが、光ファイバー、ブロードバンドを使って、なにをするのかという話が重要です。
懐かしのPDAを見ながら考えた「変わるモノ・変わらないモノ」
大谷:最後に今後のJPNEの役割や方向性のヒントをいただけますか?
鶴:今回インタビューを受けるにあたって、毎日悩んで考えたネタが2つあります(笑)。
1つはKDDIネットワークのトラフィックの1/3程度はすでにJPNEを経由しているというプレゼンスです。たとえ黒子でもいい。でも、僕らがやらないとダメなサービスをこれから出していきたいと思います。
もう1つの話をするために、今日こういうのを持ってきたんですよ。
大谷:うわー!ソニーのPDAのCLIEですね。しかも、PEG-T600Cのセレブレーションレッドレッド(関連記事:ソニー、赤の“CLIE”を限定発売)。懐かしい!!
鶴:久しぶりに掘り出したCLIEを見ながら、進化しているモノと、進化していないモノを自分なりに整理していたんです。
まず、進化しているのはハードですよね。CPUだって高性能だし、バッテリ容量やメモリも増えている、液晶、カメラ、センサー、入力デバイスも強化されています。ネットワークも進化していて、このCLIEは802.11bしか対応していないけど、今の端末の無線LANはギガビットを超えるし、5Gだって搭載しています。
一方、変わっていないのは形と大きさ。持ち運ぶにはやはり黄金サイズが決まっているし、重量はむしろ昔の方が軽かった。だから、普遍的な価値って、こういうモビリティなんですよね。われわれは固定系の事業者ですが、エンドユーザーは普遍的な価値であるこうしたモビリティのデバイスで体験することを意識する必要があると思うんです。
大谷:Amazonのジェフ・ベソス元CEOがしていた「変わるモノより、変わらないモノの方が重要だ」という話を思い出しますね。
鶴:あとベンダースペシフィックなアプリやデバイスはもうなかなか受け入れられないんだろうなと。このCLIEには「CLIE Organaizer」といういわゆるPIMが付いていました。カメラやGPSはモジュールで追加できたりします。ソニーすごいですよね。でも、結果として「CLIE」は生き残れなかった。
大谷:私も大好きでしたが、あくまで好事家のものでしたね。
鶴:やっぱり汎用性は重要だし、特にインターネットは誰でも使えなければならない。
今やデバイスはみんな同じ延べ板・文鎮みたいなもので共通していて、ユーザー接点はアプリになっていますよね。しかも、昔は異なるサービスを1アクセス回線から使えるトリプルプレイみたいなのが主流だったのですが、今はLINEのようなアプリ上に複数のサービスが乗っかってくる時代です。
大谷:プラットフォームという概念ですよね。
鶴:でも、そのアプリを快適に利用するためには、CPUやネットワークの進化が必要。その点、われわれは切れない、高速なネットワークを全体の部品の一部として提供していかなければならないと思っています。結局JPNEが提供する価値は、いつでも好きなときに、落ちないネットワークを部品化して提供し続けることだと再認識しています。
大谷:ありがとうございました!
(提供:日本ネットワークイネイブラー(JPNE)