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現代の企業が「パーパス」にこだわるべき理由。パナソニック コネクト発足インタビュー

2022年08月25日 18時00分更新

文● 貝塚/ASCII 取材・編集● 大谷イビサ

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パーパスによって企業価値を再定義する

 「パーパスブランディング」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

 「パーパス:Purpose」という英単語は「目的」と直訳することが多いが、より掘り下げると、「特定の目的のために何かを意図する」といった意味合いを持っており、動詞としても活用できる。そのニュアンスを汲み取れば、日本語で言う「目的」「志」「意義」が融合したような単語とも言えるだろう。

 すなわち、パーパスブランディングとは、その企業が存在している意義、そして、それを持ってどのように社会とつながっていくかという側面から、ブランドや企業の価値を定義するブランディング手法である。

 2022年4月に、BtoBソリューションの事業会社として発足されたパナソニック コネクトも、このパーパスブランディングを経営に取り入れている。パナソニックといえば日本を代表する大企業。「グループ内でBtoBを担う会社」と説明すれば、誰もがその意味するところをすんなりと飲み込めるはずなのに、なぜ、敢えてパーパスの側面からブランディングをするのか?

 その意図を、パナソニック コネクト 執行役員 常務/CMOの山口 有希子氏と、電通でプロジェクトを担当した執行役員/チーフ・クリエーティブ・オフィサー佐々木 康晴氏、パーパス開発、戦略立案を担ったI&COTokyo 共同代表の高宮 範有氏(以下、敬称略 インタビュアー・大谷イビサ)にきいた。

企業が大きくなると、存在意義がわからなくなる

ーーパナソニックグループが持株会社制へ移行したことに伴い、パナソニック コネクティッドソリューションズ社が新会社「パナソニック コネクト株式会社」に生まれ変わりました。まず、事業内容を教えていただけますか。

山口「BtoBで製品やソリューションを提供する事業会社です。自治体様などを対象とした「公共サービス」や、鉄道会社向け機材などの『生活インフラ』、プロジェクションマッピングをはじめとした『エンターテインメント』に加えて、米Blue Yonderの買収によって強化した『サプライチェーン』の分野など、領域は多岐に渡ります。飛行機の中で映画を見るための『航空機内エンターテインメントシステム』や、スマホなどの基盤にチップを実装する『実装機』等で、世界ナンバーワンのシェアを誇っています」

ーーパナソニック コネクトという社名は、どのようなコンセプトを含むものですか。

山口「他のグループ会社が、社名から事業内容を想像できるのに対して、コネクトという社名は独特だと思います。言葉から、何をしている会社か全然想像がつきませんよね。新社名を決めるときには、たくさんディスカッションをしました。『私たちの会社ってなんの会社だろう?』と考えたときに、事業内容よりも、存在意義に重きを置いて言葉を選ぶことを考えたんです。

 『What』よりも『Why』に注目したときに、現場のプロセスにイノベーションを起こすことで、現場をよりよく変えていくことに、私たちの存在意義があると考えました。それは、お客様とつながること、お客様を通じて社会とつながることです。そのコンセプトが、「コネクト」という言葉に集約されています」

パナソニック コネクト 執行役員 常務でCMOの山口 有希子氏

ーーなるほど、WhatよりもWhyですね。発足にともなって「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパスを策定されています。これも、新社名を受けたものでしょうか。

山口「並行して、発足発表の1年ほど前からI&COさんと協議を重ねていきました」

高宮「パナソニック コネクトの多岐にわたる事業領域を象徴し、現場の皆さんの気持ちをひとつにするようなパーパス、スローガンを策定していきたいというのが、出発点でしたね。パナソニック コネクティッドソリューションズ社の時代からお付き合いのある現場の皆様にインタビューをし、ディスカッションを重ねながら決めていく作業でした」

飾りのパーパスはもう通用しない

電通の佐々木 康晴氏

ーーパーパスブランディングの考え方は、事業にどう活きていきそうでしょうか。

佐々木「パーパスブランディングという考え方は従来からあるものですが、私は、コロナ禍以降に、パーパスブランディングの価値が大きく変わったと思っています。コロナより前は、『企業が向かう方向を示す』という部分が大きかったのです。例えば、『素敵な明日をつくる』というような正しいパーパスを提示する。でも示すだけで、なぜそのパーパスなのか、どう実現していくのかが見えにくいものが多かったと思います。

 でもいまは、『この不安定な社会の中で、この企業は私のために何をしてくれるのか』を、みんなが気にしていますよね。そんな状況の中で、例えば『素敵な地球の明日のため』と言われても、漠然としています。リアルに感じてもらえません。“飾り”のパーパスが通用しなくなり、きちんと企業の価値や実態を反映したものが求められるようになったといいますか」

ーー企業の存在意義を、消費者にきちんと感じてもらうためのブランディングが必要になってきたということですね。新たなパーパスを受けて、コマーシャルムービーも制作されていますね。その中には、どのような挑戦が詰まっていますか。

佐々木「今回の制作には、小さな挑戦と大きな挑戦、ふたつが入っていると思います。まず小さな挑戦は、海外で、ワンカット撮影での制作を取り入れたということです。『Why』を主役にするための表現方法を模索した結果、ダンスをしながらみんなの想いがつながり、それぞれの願いがかなえられていくというコンセプトになりました。さまざまな要素を考えた末、海外での撮影がもっともマジカルな結果になるだろうと考えました。  大きな挑戦は、パナソニック コネクトという新会社の発足を象徴する、大きなムーブメントにするということです。新しく生まれ変わる企業の意思を生み、これから継承されていくマインドを生み出す礎にするという意味ですね。社員の方も、取引先の方も、一般の方も、その意思に共感し、みんなが動き出せるようなキャンペーンを目指しました」

山口「お客様である企業に協力をお願いして制作をしたムービー(事例動画)もありますが、実際の映像を見ていただくとわかるように、私たちでなく、お客様を主体にした仕上がりになっています。通常、こういうことをしようとすると、企業間で承認をとっていくことが、ものすごく大変になります。ところが今回、お話しを持っていくと、お客様からも『ぜひやりましょう』とすんなりお返事をいただけました。これは、これまでに大きな信頼関係を作れていたということだと思いますし、『コネクトしていく』という私たちの姿勢も、うまく表現した映像ができあがっていると思います」

パーパスは、社内の意志統率にも作用する

ーー外向けにパーパスを発信するだけでなく、会社全体、従業員全体で常に意識するべき意志を共有していくような意味合いもあったのでしょうか。従業員の皆さんからは、どのような反応がありましたか。

山口「そういった意味では、今回のパーパスブランディングは、『キャンペーン』と銘打ちつつ、実際には『企業の意思の見える化活動』だったと考えています。社外向けに、私たちの存在意義をはっきりとお伝えすることに加えて、内向けにも作用したと感じているんです。パーパスから派生して、社内のコミュニケーションが代わり、プロジェクトが生まれ、アワーストーリーにつながっていく。その状況を作るための、コアとしてパーパスが作用することを意識しました。結果的に、誇るべきものが、自分たちの会社の中にあるということを、社員のみなさんが気づくきっかけにもなったと思っています」

I&COの高宮 範有氏

高宮「今回は、海外地域向けにも英語で制作をしていますが、先行して制作した日本語のパーパスを、海外のニュアンスに置き換えていくプロセスは印象に残っています。日本語をそのまま翻訳しても、ニュアンス、感じ方に違いが生まれてしまうんです。各地域のメンバーにヒアリングをし、ディスカッションを重ねて、それぞれのバックグラウンドを反映した英語版パーパスを作っていきました」

山口「いま、パナソニック コネクトは国内で約1万2500人、国外に約1万6000人の従業員を抱えています。日本人だけでなく、いろいろなカルチャーバックグランドがあるグローバル社員にとっても、ひとつのパーパスをコアとして、『自分たちの会社はどういう会社なのか』という意識を共有しておくことは、重要だったと感じています」

企業が大きくなると、存在意義がわからなくなる

ーーパーパスブランディングという考え方が、企業の存在意義を強固なものにしていくだけでなく、企業の外にも内にも働いて、パーパスに則った企業姿勢が生まれていくというイメージが腑に落ちました。

山口「大企業も、創業時はみんなベンチャーだったわけですから、パーパスというものを持っていたと思うんです。『社会のために、自分たちができること』を自然に定義づけていたといいますか。ところが、そこから時間が経って大企業になり、事業も多角化して、当初のパーパスというものが忘れ去られてしまう。私たちにとっては、『ここが自分たちの存在価値です』と言語化して、みんなが意識していくタイミングとして、パナソニック コネクトの発足は、とてもいいきっかけになったと思っています」

ーー今回はありがとうございました。

パナソニック コネクト 執行役員 常務/CMO
山口 有希子

 パナソニックのB2Bソリューションビジネスを担うパナソニック コネクト株式会社のマーケティングおよびデザイン部門の責任者として、国内外のマーケティング機能を強化しつつ、ビジネス改革・カルチャー改革に取り組んでいる。複数の国内企業・外資系企業にてマーケティング部門管理職を歴任。日本アドバタイザーズ協会 デジタルメディア委員会 委員長。一般社団法人Metaverse japan 理事。

I&CO Tokyo 共同代表
高宮 範有

 2019年7月にI&CO Tokyoを立ち上げ、共同代表に。新規事業開発とそのブランディング、体験設計を得意とする。これまでに「UNIQLO IQ」「StyleHint」のコンセプト・UXデザインをはじめ、「メルカリ上場時のコーポレートブランディング」「PANTENE #この髪どうしてダメですか」などを手掛ける。あわせて、スタートアップの事業拡大を数多く担当し、広報戦略立案にも携わる。

電通 執行役員/チーフ・クリエーティブ・オフィサー
佐々木 康晴

コピーライター、インタラクティブ・ディレクター、クリエーティブ・ディレクターなどを経て、2011年から2013年まで電通アメリカ(ニューヨーク)に出向。帰国後は第4CRプランニング局長などを経て現職。カンヌライオンズ、D&AD賞、クリオ賞をはじめとした国内外の主要な広告賞を多数受賞し、審査委員長経験や国際キーノート講演経験も多い。

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