業務を変えるkintoneユーザー事例 第143回
ボンボンだった社長はなぜ自らアプリを作ったのか?
社員の大量辞職で大ピンチ! 建設会社の二代目社長が復活を賭けたアプリ開発
2022年07月21日 09時00分更新
致命的に遅れていた請求書 あふれる赤字案件
顧客要求書アプリにデータを蓄積していくうち、同社の業務には大きく二つの問題があることがわかり、その原因も見えてきた。
一つ目は、資金繰りだった。塚本氏が社長に就任して以来、入金が大きく遅れていた。経理を担当する塚本氏の妹が「会社の口座にお金が残っていないけど、大丈夫なの?」と毎日のように電話をかけてくるようになった。なぜ、いくら働いてもお金が入ってこないのか。塚本氏はアプリで分析した。すると、請求のし忘れや遅れによる「未回収金」が、実に約3億円も存在していた。
「年商8億円の会社で3億円も未回収金があっては成り立たない。請求書をちゃんと上げなければ利益にならないという当たり前のことが、このとき骨身に染みてわかった」(塚本氏)。これ以降、社員に対して請求書を早期に出すよう伝える指示にも、自分としての説得力を持つことができたという。口で言うだけでなく、小まめにアプリで未回収金を確認することで管理が徹底され、今では未回収金は多くても約1億円にとどまっているという。
二つ目の問題は、工事案件の質の悪さだった。前出のパート事務員からは、ある日「工事の8割~9割が赤字案件です。そのうえ、工事が終了しても報告がもらえないので請求書が遅れます。なんとかしてください」と厳しく指摘を受ける。そこで塚本氏は工事部長と共に、毎月の終わりに全ての案件の精査をすることにした。
すると、付き合いが長い取引先だからと、事前の見積もりをせずに工事に入っていたり、「サービス施工」という名の無償の追加工事を多数行なっていたという、信じられない実態が明らかになった。この問題を解決するため、受注時の契約書の徹底、施工前に実行予算を設定すること、さらに追加工事が発生するときは、見積もりの提示と確認を徹底するという三つの改善策を実施した。
経営者が先頭に立ってアプリ開発する意義
塚本氏は、「普通の企業では当たり前のことが、長年のどんぶり勘定と、アナログの管理だったため改善ができなかった。アプリの数字を根拠にすることで、説得力が増して社内で危機感が共有できるようになり、会社全体の意識改革につながった」と、改善に手応えを感じている。
さらに塚本氏は、社員同士のコミュニケーションが増え、社員の成長があったことを嬉しく思っている。「パート事務員だった女性が、現在は正社員の総務課長として働いている。また工事部長は当社の執行役員統括部長になってもらった。2人の成長は、この7年のなかで一番の喜びだ」(塚本氏)。
とはいえ、一番変わったのは社長である自分自身だったと塚本氏は語る。経営者が自らkintoneを学び、仕組みを作ることで、本気の姿を社員に見せることができたと考えている。
なぜ、社長が自らアプリを作ったのか。塚本氏は、会社のビジョンに合わせたいと思ったからだと話す。「誰かに頼むと、どうしても意識のズレが出るので、その修正にかえって時間を取られることが予想された。ならば自分で開発の前面に立って進めるべきだと考えた。また内容を詰めていく過程で、社員と直接コミュニケーションが取れたこともよかった」(塚本氏)。
今後は、休日の取得増加や残業時間の見直しなど、経営と社員が一体となって働き方改革の検討を進めていくという。塚本氏は「社員が心身ともに成長できる会社になることが目標。そのためには、会社が利益を出し続けることが必要で、その仕組み作りが重要になる。切磋琢磨しながら、最終的には関わる全ての人が幸せになる会社を目指していきたい」と語った。

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