第3回 and SORACOM

次世代エコカーのペインポイントをIoTで解消

マンションにおけるEV充電の課題に挑むユアスタンドとSORACOM

大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ソラコム

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 次世代エコカーEV(電気自動車)のためのインフラであるEV充電器をマンションに設置し、予約や利用管理まで提供するユアスタンド。そして、サービスのコアであるIoTコントローラーにはSORACOMが採用されている。開発を手がけた望月雄太氏と広報担当のデニス・チア氏に話を聞いた。

マンションでのEV充電器の設置はハードルが高い

 世界で走っている14億台の車のうちほとんどはガソリン車で、排気ガスに含まれる二酸化炭素は地球温暖化を招いている。SDGsで掲げられている「気候変動に具体的なアクションを」に基づき、ドイツとイギリスは2030年、中国は2035年、フランスは2040年までにガソリン車の新車販売を禁止すると発表している。こうした中、次世代エコカーの本命と言われているのが電気自動車(EV)だ。

 しかし、日本では電気自動車の普及率は低く、新車のうち電気自動車の割合は1%程度だ。この背景としては、高価な車両価格とともに、EV充電器の不足があると言われる。サービスエリアなどに設置された公共の充電スタンド自体の伸びも頭打ちなのだが、「基礎充電」と呼ばれる個人宅やマンション、オフィスや事務所、工場などに設置されたEV充電器がきわめて少ないのが現状だ。ユアスタンドのデニス・チア氏は、「今までの自動車のようにガソリンスタンドで燃料を入れるのではなく、携帯電話と同じく夜に充電しておくのが一般的。世界のEV充電の8~9割は基礎充電です」と解説する。

ユアスタンド デニス・チア氏

 特に日本の人口全体の約4割が住んでいるマンションでは、EV充電器の設置率はきわめて低い。EV所有者の約9割が戸建てに住んでおり、新築のマンションのEV充電器の設置率はまだまだ数%に過ぎない。住民が自ら設置できる戸建てと異なり、マンションでは管理組合や大家、住民の合意形成がないとEV充電器の設置は難しい。設置できたとしても、共用電気設備からの充電になるので、利用者に負担を按分する仕組みがないと、そのまま管理組合のコストとなってしまう。

 こうした課題に対して、今回紹介するユアスタンドはマンション向けのEV充電器を設置し、アプリから利用を管理できる仕組みを提供する。「使いたい人は事前にアプリから予約しておけば決まった時間に充電が開始され、使った時間分で決済されます」(チア氏)。加えてユアスタンドではシステム提供やEV充電器の設置のみならず、設置後の運用サポート、システム提供に加え、マンションでの導入で重要となる理事会や総会での合意形成、補助金の代理申請までトータルに対応する。

 同社は、マンションでのEV充電器の設置に負担を感じた創業者が2018年に創業。利用者はアプリから充電器を予約し、利用料もそのまま決済できる。徴収した利用料はユアスタンドから管理組合に支払うという流れだ。「使った人が使った分だけ料金を支払い、料金を回収できるので、フェアな仕組みです。EV充電器を設置することで、マンション自体の資産価値も上がります」とチア氏は語る。

マンションの駐車場にEV充電器を設置

リモートでEV充電器を制御 SORACOM採用の理由は「なんとなく」

 ユアスタンドが提供している予約アプリの仕組みは、EV充電器とマンションの分電盤の間で動作する専用のIoTコントローラーが鍵となっている。このIoTコントローラーに搭載されているスイッチングリレーをアプリからリモートで制御。電源をオン/オフすることで、ユーザーは使いたいときにEV充電器を利用できるというものだ。

 ユアスタンドの望月雄太氏は、高専時代にアルバイトとして働いていた受託開発会社のときからこのIoTコントローラーの開発に携わっている。学生時代はセキュリティ関連の技術を学んで社会とつながりを持ち、そこから仕事を始めた受託開発会社で獣害を防ぐためのIoTプロジェクトに関わったという経緯を持つ。「自分はなにかを成し遂げるための手段として技術を捉えているので、特にこだわりはないんです。最近、自分がエンジニアなのか、企画屋なのか、よくわからなくなっています(笑)」と語る。

ユアスタンド 望月雄太氏

 Arduinoベースの初代コントローラーは1台のEV充電器を制御するのみだったが、最近は駐車スペースの全区画に設置する場合もあるため、Raspberry Piベースの2代目は最大15台を制御できるように再設計した。また、昨年末にリリースされた「Multi Charging Control」という新機能を使うとブレーカーの電気容量を超えないように同時充電できる台数を制限でき、輪番充電を実現できる。「全区画で同時稼働すると間違いなくブレーカー落ちますし、電気容量を上げようとすると基本料金自体が上がってしまう。だったら、一度に充電できる台数を絞ってしましょうということで、搭載した機能です。とてもご好評いただいています」(チア氏)。

 コントローラーの通信を担ってきたSORACOMを選択した理由について望月氏は「なんとなくです(笑)」と答える。その上で、「IoTと言えばSORACOMを選んでおけば間違いないという知名度を確立させているんです。だから、これを選んでおけば大丈夫だろうというのがファーストインプレッションでした」とフォローする。その他、閉域網が使えるのでセキュリティも高いし、一枚単位で導入できるというのも大きかった。「また、SORACOMの場合、パートナーであるSPSでの検証も含め、対応製品が公開されているので、安心して利用できます」と望月氏は語る。

IoTの最大の課題「障害の切り分け」でSORACOMを活用

 結果として、ユアスタンドでのIoTコントローラーではSORACOM SIMを搭載したUSBドングル型の「AK020」を用いている。SORACOMを使った感想については、「コンソールも使いやすいし、IoTにおいてセキュリティをあまり考えないで済むというのは、ありがたい。通信料は別として、トータルコストではSORACOMは他社に比べても圧倒的に優位だと思います」(望月氏)は振り返る。

安価なUSBドングル型を採用

 IoTで一番大変なのが、問題が起こった際の障害の切り分けだ。ユアスタンドのIoTシステムに関しても、いったん障害が起こっても、原因を特定するのは一苦労だ。「大分類だけでも、電気か、ハードウェアか、ソフトウェアの3種類、小分類で言えば20~30種類になると思います。うちだけではなく、IoT共通の課題です」と望月氏は語る。

 こうした障害に対して、望月氏もSORACOMの機能を活用している。「タグ付けの機能を使ってSORACOMのSIMに対して、ラズパイのIDを書き込んでいます。これによって、どのSIMがどのラズパイに対応しているかすぐにわかるようになっています。遠隔からログを調べれば、とりあえず問題が本体なのか、通信なのかは判断できます」と望月氏は語る。

 また、トラブルシューティングでお気に入りなのはインターネット側からデバイスに対してセキュアにリモートログインできる「SORACOM Napter」だ。「その都度課金というのが気に入っています。年に1回のメンテナンスや緊急対応のたびに現地に行っていたら、コストかかりますが、500円で家からメンテナンスできます。とてもコスパがよいです」と望月氏は語る。ユアスタンドではEV充電器の設置を行なう電気工事士も1つずつドングルを持ってもらい、困ったときはSORACOM経由でリモートログインしてトラブルシュートしているという。

東京・横浜から全国へ拡大 コントローラーも信頼性をより重視

 サービスを開始した2018年以降、ユアスタンドのビジネスは拡大を続けている。現在は首都圏を中心に150棟位のマンションにEV充電器を設置。今後、大阪や名古屋にも進出するほか、マンションだけではなく企業や商業施設への展開も進める。「いまわれわれが目を付けているのは機械式駐車場。駐車と充電がワンストップで実現できる仕組みを目指しています」とチア氏は語る。

 こうしたビジネスの拡大にあわせてコントローラーも、手弁当のDIY製品から、信頼性の高い工業製品への脱皮が必要になっている。そのため、現在はSORACOMにも強い北海道のエコモットと新しいコントローラーを共同開発している。「動作の信頼性を高めるべく、Raspberry Piから、より安定度の高いエコモットの産業コンピューターをベースに作り直しています」(望月氏)とのことだ。また、シンプルなスイッチリレー方式に加え、HEMS通信で一般的なECHONET Liteや充電器制御用プロトコルのOCPPへの対応も進めている。

 国内市場では数社の競合がいるが、戸建ての多い欧米では、そもそもEV充電器を共用するというニーズがないため、グローバルでもこうしたビジネスを手がけるプレイヤーは少ないという。とはいえ、都市部に集合住宅の多い中国などでは、今後のEVの普及でニーズが高まるため、将来的にも有望なビジネスと言える。環境負荷の軽減やEVの普及が大きなテーマとなる昨今、未来を見据えたIoTの活用だと感じられた。

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(提供:ソラコム)

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