障害を理由に活躍の場を外されてしまうという苦しさ
弱みだけでなく強みも知って、環境を整えられるかがカギ
たま氏、なおや氏とも、以前の会社で感じていたのが、「障害があるから普通の仕事はできない」という先入観を持たれることだ。確かにできないことはあるものの、できる事も含めて「切られてしまう」ことが息苦しいかったという。
「普段の遅刻やポカミスがあるため、信用がなくなってしまい、仕事を任せてもらえないという状況に陥ってしまいました。本当はできるハズなのに、「あれができないんだから、これができるわけない」と思われてしまう事に、会社勤めのやりづらさがありました」(たま氏)
「前職では社内SEとしてエクセルでマクロを組んでいたのですが、「目が見えないからこれ以上は無理」と見られてしまうことが多かったですね。就職活動でも同じで、100社に書類を送って選考に通るのは30社くらい。最終選考には2社も通れば良い方ではないでしょうか」(なおや氏)
ePARAでたま氏は営業として働いているだけでなく、海外との交渉を行なったり、eスポーツチームのキャプテンを務めるなど、多岐に渡って活躍中。また、なおや氏もeスポーツプレイヤーとしてだけでなく、声優・ナレーター業、ゲームに関する記事の執筆、そして最近では実況配信にも興味を持っていると、多方面にアクティブだ。
比較するのは筋が違うとは思うものの、いわゆる健常者で、ここまで活動できる人がどれだけいるだろうか。
「多くの企業では、ひとつ弱みがあるとそこだけが注目されてしまい、仕事を任せてもらえなくなります。そうではなく、強み弱みがあることを分かったうえで、できるだけ強みを活かせる環境が整えられれば、すごいパフォーマンスを発揮できる人が沢山いるんだということを知ってもらいたいんです。障害者との接点がないため、単純に知らないという状況が今だと思っているので、こういった仕事の実績をどんどん積み重ね、世の中に出していきたいと考えています。ePARAが実現したい世界観は、そこです」(加藤氏)
実績を積み重ねていけば、本人の自信につながるのはもちろんだが、企業側からも「こうすればこの人はパフォーマンスを発揮できるんだ」という理解が得られやすくなる。そうすれば、弱みだけで判断されず、強みも含めて評価してもらえるようになるだろう。
サイコムからのPC提供で、ゲーム環境が大幅に改善
全盲がゆえのトラブルも!?
サイコムはAny%CAFEだけでなく、eスポーツプレーヤー向けとして、なおや氏、たま氏にもPCを提供している。
実は、なおや氏はサイコムからPCを提供してもらう前はノートPCを使用。一応は鉄拳7が動くものの、ウィンドウを切り替えると固まるという、非常に不便な思いをしていたそうだ。
「サイコムさんから提供しただいたPCだと、性能が段違いだというのはもちろんですが、Alt+Tabでウィンドウを切り替えても固まらない、重たくならないという安心感が何より実感したところです。以前のPCだと、最悪、鉄拳7に戻ってこれなくなってきていたので……」(なおや氏)
ゲーミングPCとしての評価ではない、もっと低いレベルでの話とはいえ、頻繁に起こっていた根本的な(そして致命的な)問題が解決できたというのは間違いない。
なお、提供されたPCは「G-Master Spear Z590」。空冷PCとなるが、CPUにCore i7-11700K、ビデオカードにGeForce RTX 3070 Tiを搭載し、ゲームだけでなく、動画編集やストリーミング配信もこなせるだけの実力があるPCだ。
ゲーミングPCとしての実力はもちろん高く、フルHDどころかWQHDでも多くのゲームが快適に遊べるだけの性能があるのは間違いない。実際、すでにOBSを使った鉄拳7のテスト配信も行なっていて、何の問題もなく快適に配信できたとのことだった。
ただし、配信テストをしていたというのはインタビュー参加者の誰も知らなかったようで、なにかやるときは事前に教えて欲しいと、その点を突っ込まれていた。
「半分テストだったんです……。仲間がやってて、ちょっと、自分でもやりたくなっちゃって……」(なおや氏)
「全盲の人がやりたい!ってなったときの参考になるとおもうので、ぜひその設定とか解説とか、動画でアップしてください」(山田氏)
実際に動画や記事がアップされるかはわからないが、期待して待ちたいところだ。
もちろん新しいPCを使うとなれば、今までなかったトラブルが起こることもある。新しいPCで困ったことはなかったのかと聞いたところ、ひとつ問題があったとのこと。それが、Windowsのライセンス認証だ。
ライセンス認証を行なうには、PCに貼られているプロダクトキーを入力する必要がある。メーカー製PCであれば自動で行われることもあるが、BTOパソコンであれば、初回に自分で入力するというのも珍しくない。
問題は、全盲の人は肝心のプロダクトキーが読めないことにある。目の見える人が近くにいれば読み上げてもらうこともできるが、必ずしもそうしてもらえる人ばかりではない。こういった当事者じゃないと分からない部分は、言ってもらえるまで気づかないものだ。
なお、この貴重な意見は山田氏がすぐにとりあげ、今後対応できるようにするとのことだった。
こういった、障害者でなければ気づかない部分は、一般のゲームでもあるという。
「ゲームでも対戦は1人で出来るんですが、そもそもルームに入れない、という問題があります。メニューやキャラクター選択などが画像だけになっているものですと、読み上げソフトが対応できないため、そこで操作が止まってしまいます。これも、実際に言われるまで気づきませんでした」(加藤氏)
ちなみに、競技でそういった場面がある場合は、Discordなどで画面を共有してもらい、目の見える人から「下2回で決定押して」といったように指示してもらうそうだ。
実はこの話は、最初の「Alt+Tabで固まる」という話に繋がっている。以前のPCでは鉄拳7を起動した後、Alt+TabでDiscordへ切り替えて画面を共有。操作のために鉄拳7に戻れるかどうか、毎回ドキドキしていたという状況だったのだ。
最初話を聞いたとき、「せっかくゲームを起動しているのに、何でAlt+Tabで切り替えるのだろう?」と不思議に思っていたのだが、納得。切り替えの安心感が違うということの意味が、考えていた以上に重要なものだった。