オイルとクーラントが漏れていた部分を分解
先におわびを。前回(「米軍車両ハンヴィーの整備、漏れていたのはオイルだけじゃなかった」)、次回は燃料タンクをなんとかするみたいなことを書いていたんですが、すみません、そこまでたどり着きませんでした。まだエンジンのフロント部分をバラしています。
というわけで、オイル、クーラント(冷却水)、燃料のトリプル漏れを修理中のハンヴィー。水漏れというとホースが劣化して亀裂が入ったとか継ぎ目から漏れるとかが多いと思うんですけど、チェックしてもらったところ、エンジンのフロント部分にあるギヤのケースとカバーの接合部から漏れていました。
ケースの名称はタイミングギヤカバー。ケースなのにカバーとはややこしさ満点ですが、中にタイミングギヤというギヤが入っているのでそういう名前になっています。カバーの方はアダプタープレート。こちらはウォーターポンプを取り付けるアダプターも兼ねているためそんな呼び名に。
この2つの隙間から漏れていたので、修理のためにアダプタープレートを外しました。
ラジエーターで冷やされたクーラントはラジエーターの下に付いているロワホースを通ってウォーターポンプに入り、そこからフロント部分のギヤの左右にある水路を通ってエンジン内部へと送られていきます。
クーラントの出口はギヤの上にある銀色のパイプで、エンジン内部の水路を通ったクーラントはここに出てきます。パイプにはエンジンが冷えている時にラジエーターへの水路を遮断するサーモスタットが付いていて、そこからアッパーホースを通ってラジエーターに戻ります。
原因は液体ガスケットの劣化です
今回オイルとクーラントが漏れていたのは入口のところ。これからエンジン内に入っていこうという場所です。
原因はタイミングギヤカバーとアダプタープレートの間を埋めているシールの経年劣化でした。金属どうしをネジやボルトで固定すると、見た目はピッタリ付いているように見えても、硬くて変形しにくいため目に見えない隙間があちこちにできています。それを埋めるのがシールで、固定部分に使われるシールはガスケット、可動部分に使われる物はパッキンと呼ばれたりします。今回の場合はガスケットですね。
ガスケットもまた大きく分けて2種類あって、そのひとつはシート状のもの。必要な形にあらかじめカットされている専用品と、大きなシートから自分でカッターで切り出して使う汎用品があります。
もうひとつは液体ガスケットという液状のもので、接合部に塗って使用します。漏れていた部分に使われていたのはこの液体ガスケットでした。経年劣化で微妙に剥がれたり穴が空いたりしたようなんですが、寿命は使われ方によって変わるためハッキリとは決まっていないみたい。漏れたら寿命って感じなのかな。
幸いだったのはオイルもクーラントもそれぞれが外に向かって漏れていたこと。それはそれで大変なんですけど、オイルとクーラントが混ざってしまっていたら、もっと大規模なメンテナンスが必要になるところでした。
水路にオイルが入り込むとホースがダメになるので交換の必要があったり、ラジエーターを洗浄しなくちゃならなったりします。逆にオイルラインにクーラントが混入した時はもっとヤバくて、オイルが乳化して潤滑不足や冷却不足でオーバーヒートを起こしかねないし、最悪の場合はエンジンが壊れる可能性もあります。それに比べたらマシだったかもしれません。
タイミングマークで燃料噴射ポンプの調整位置をチェック
外したアダプタープレートは、接合面に残った液体ガスケットを除去して洗浄しました。次はタイミングギヤカバーです。こちらの接合面も綺麗にしなくてはならないので、作業しやすいように取り外します。
が、その前にひとつやることが。タイミングギヤカバーには燃料噴射ポンプが取り付けられている<ので、カバーからポンプを外さなくてはならないのです。
ポンプごとタイミングギヤカバーを外してもいいんですけど、そのためにはポンプにつながっている燃料の配管や配線を全部外さなくてはなりません。8気筒なのでシリンダーにつながる配管だけでも8本もあるし、もちろん燃料タンクから来る配管もあります。ほかにもホースや配線がいくつも付いていて、全部外すのは超大変。しかも戻す時には漏れないようにシールをやり直す必要も出てきます。
それに比べるとポンプの方を分離させた方が断然楽で早いので、タイミングギヤカバーからポンプを外します。ここで忘れちゃいけないのが燃料噴射ポンプの取り付け位置のチェック。ポンプの動作タイミングを早めたり遅めたりという調整を、ネジツマミなどではなくポンプ自体を左右に回転させることで行なっているため、現在の位置を記録しておくのです。
燃料噴射ポンプがどのくらい回転して取り付けられているかがわかるように、取り付け部分にはタイミングマークという線が刻まれています。
タイミングマークがあるのは取り付け部の上面。写真の上側がポンプなので、ほんの少しポンプが右にズレた状態になってるのがわかります。0.2mm〜0.3mmといったところですかね。
噴射タイミングはほんの少し遅れ気味にしてありました
ポンプの取り付け部は三角形をしていて各コーナーに取り付け用の長穴があり、タイミングギヤカバーから出ている3本のボルトに差し込まれてナットで固定されています。
このナットを緩めてポンプを時計回りに回すと噴射のタイミングが遅れ、反時計回りに回すとタイミングが早まります。1度回転するとタイミングマークが0.8mm移動するようになっているので、現状では1/4〜3/8度ぶんぐらい遅く調整されているということですね。
燃料噴射のタイミングは早過ぎても遅過ぎても不具合が起きてしまいます。早い時によくあるのはディーゼルノックと黒煙の発生。
ディーゼルエンジンは圧縮されて高温になった空気に燃料を噴射して爆発させています。噴射タイミングが早いと着火温度まで上がらないうちに燃料が噴射されてしまうため、いざ着火温度に達した時には必要以上の燃料がある状態になってしまいます。
その燃料が一気に燃焼するので異常な高圧になり、叩くようなガタガタという音が発生します。これがディーゼルノック。いつものディーゼルエンジンのガラガラという音が酷くなったみたいな感じですかね。また、多過ぎる燃料は不完全燃焼を起こし、黒煙が発生しやすくなります。
逆にタイミングが遅い時も黒煙が出たりしますが、めっちゃ遅いと燃料が燃え切らず、余った燃料が白煙となって排出されます。
ちなみに白煙はエンジンが正常でも冷えている時には出やすいので、クーラントの温度が90°F(摂氏32度)より低い場合はHPCA(Housing Pressure Cold Advance)というシステムが噴射タイミングを約3度早めて白煙の発生を抑えるようになっています。軍用車はそんなの気にしないかと思ったのに、意外とちゃんとしてるみたいです。
現状で問題なく動いているので、このほんの少し遅れている状態がうちのハンヴィーが調子良く動くデフォルト設定ということになります。
燃料噴射ポンプを外す時はギヤの合わせマークを合わせます
燃料噴射ポンプの取り付け位置をしっかりチェックした上で、まだ注意しないといけないことがあります。それは燃料噴射ポンプを駆動するギヤと、そのギヤを回転させるポンプドライブギヤの合わせ位置。
ポンプドライブギヤはピストンの上下やバルブの開閉と連動して回転するので、燃料噴射ポンプギヤが正しい位置で噛み合っていないと、噴射タイミングがピストンやバルブの動きとズレてしまうのです。
そこで用意されているのが合わせマーク。ポンプドライブギヤ、燃料噴射ポンプギアの歯の部分に両方に丸いマークが刻印されているので、それを合わせた状態で燃料噴射ポンプを脱着すれば正しいタイミングになるようになっています。
ギヤを回転させて合わせマークどうしを合わせたら、ようやくタイミングギヤカバー取り外しの準備完了です。
ようやくタイミングギヤカバーが外れました
燃料噴射ポンプギアと燃料噴射ポンプ、タイミングギヤカバーの前に付いているクランクシャフトプーリーを外すとタイミングギヤカバーを外すことができます。
カバーを開けるとポンプドライブギヤの後ろにもギヤが見えます。これがタイミングギヤ。ポンプドライブギヤと一緒にカムシャフトに固定されていて、クランクシャフトのギアとチェーンでつながっているのがわかります。
ここから先は漏れとは関係ないのでバラすのはここまで。タイミングギヤカバーは、接合面に付いている液体ガスケットを剥離して掃除します。
エンジンとの接合面からはオイルやクーラントの漏れはなく、見た目もきれいでした。半円形の部分に三角に並んでいる3本のボルトが燃料噴射ポンプの取り付け用ボルトです。
タイミングギヤカバーのフロント側もアダプタープレートと同様に、漏れた部分が変色していました。この部分を重点的に清掃し、次回は液体ガスケットを塗って元どおり組み直していきます! 今度こそ燃料タンクも!
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