業務を変えるkintoneユーザー事例 第103回
大阪のサエラ薬局グループは総務部と人事部のペア登壇
ツールのために仕事をするのはもうやめた kintoneで抱いた野望
2021年06月03日 09時00分更新
2021年4月21日、大阪のなんばHatchにて「kintone hive osaka vol.9」が開催された。今回は5社がエントリーし、今回は3番目に登壇したサエラのプレゼン「『ツールのために仕事をする』のは、もうやめました」の様子を紹介する。なんと、総務部の田中良和氏と人事部の西川智美氏が一緒に登壇するという異例のスタイルとなった。
採用のために膨らんだExcelファイルとの格闘を経て
サエラ薬局グループは調剤薬局業務を手がけており、店舗数は73店舗、従業員数は約900名で、女性従業員の割合が約84%と高い職場になっている。田中氏は自社の情報発信やデジタル化推進、社内システムの管理・運用などを担当。西川氏はサエラを志望する新卒学生へのイベント企画や告知、開催などを担当している。
毎年、薬剤師を採用するのだが、1年度あたり1000人の学生となにかしらの接点を持っているという。そして、以前はその学生の情報をたったひとつのExcelファイルで管理していた。
蓄積する情報は増え続け、最終的には最大250列×1000行という巨大なデータになっていたそう。当然、そうなるとさまざまな問題が発生する。同時に複数人で編集できないので、ファイルが分裂したり先祖返りしたりする。どこのセルをいつ誰が更新したのか分からないうえ、「最新」「修正」のようなファイル名を付けてしまう人も出る。全角・半角を気分で使い分けたり、表記が揺れているのでフィルタリングがしづらいなど、本来の業務をする時間がどんどん削られていった。一度はこのExcelファイルが破損し、2日以上かけて修復したということも。
その困っている姿を見た田中氏がヒアリングを行ったところ、Excelで数字ではない情報を扱っていたり、Excelを継ぎ足して使っているので肥大化しているという課題が浮き彫りになった。つい、「Excelって……ほんまは表計算ソフトやねんで?」と口から出てしまったという。
「田中さんからこの言葉をかけられたときに、「じゃぁ、どうしたらいいんだろう」と思いました。私たちがExcelで管理を続けていた理由は、単純に他の手段を知らなかったからです」(西川氏)
「3年後のkintone hiveに登壇してもらいます」
学生にとって就職活動は人生の中の一大イベントなので、トラブルを起こさないためにも、進捗状況の可視化や細かい情報の共有化、学生情報のカルテ化、次の行動の明確化、他部署連携の土台構築、過去データの分析・活用という環境の整備を実現したいと考えたそう。
田中氏は西川氏たちにヒアリングを実施し、ユーザー像を想定した。Excelで一般的な表を作り、グラフを出せる人やExcelの簡単な関数が使える人、そしてマクロは自分で組むより、詳しい人に任せたい人、というイメージだ。
そこで、ノーコードで設定でき、更新ログが残り、外出先からも閲覧/入力ができ、設定が簡単に壊れず、検索結果のヒット数が多く、導入・運用費用が安価というサービスを探したという。特にノーコードであるということを重視し、見つけたのがkintoneだった。
「kintoneを導入するに当たり、ひとり1500円というコストは提案しても通りにくかったので、ライトコースで始めました。そして、『kintoneってなに?』という顔をした西川やその周りのスタッフのために、ユーザーに制限を設けずに権限を開放しました」
田中氏はみんなに興味を持ってもらえるように、kintoneでできることを積極的に発信し続けたという。とにかく知って、触れて、慣れてもらうことを目標にした。
西川氏はExcelファイルをカテゴリー別に分割し、kintoneに読み込ませて14個のアプリを作成した。アプリは作成できたが、そのままでは運用に耐えられるものではなかったそう。そこで、西川氏は2019年3月にサイボウズのワークショップに参加した。フィールド全種の個性をつかむところからトレーニングを開始したのだ。
「たとえば、チェックボックスとラジオボタンのような、よく似たフィールドはどういう使い方が適しているんだろう、と試していきました。並行して、自分たちが使いたいと思っている項目は本当に必要なのか、運用フローは正しいか、というところも徹底的に見直しました。その結果、14個あったアプリを半分の7個に統合できました」(西川氏)
導入して2ヵ月後、田中氏はみんなの前で西川氏に「3年後のkintone hiveに登壇してもらいます」と宣言した。西川氏は「なんてことを言うんだ」と焦ったそう。
「私の方では、いつでも質問できる環境を作りました。もやもやを抱える時間を最小限にすることで、分からない、が理由でkintoneを嫌いにさせない、ということに力を注いだのです」(田中氏)
西川氏は最初こそ、自分にはkintoneを使いこなせない、というマインドだったが自分でハードルをクリアしていくうちに、「できるかもしれない」というように思考が変化していった。
「彼女たちの本業はkintoneでアプリを作ることではなく、採用業務です。30分も悩むのであれば、早めに誰かを頼ってもらうことで、本業に時間を割けるようにして欲しかったのです」(田中氏)
kintoneでアプリを作成したり改善していると、同時に自然と業務のPDCAサイクルを回すことになる。そうして結果が出始めると、その成功体験や達成感、満足度などから「できない」「耐える」というマインドから「試す」「変える」という発想に変化していった。
「アプリの作成や改善には時間を要しますが、自分たちがこうしたい、不便さをなくしたい、変えていくんだ、というとてもポジティブな時間消費です。未来投資にもつながると思っています。以前のように、業務が止まってしまうかもしれない、誰かに迷惑をかけてしまうかもしれない、というネガティブな時間消費ではない、というところが大きな変化でした」(西川氏)
そんなポジティブな循環が回り始めたのを見た田中氏は、kintoneのプランをスタンダードコースに変更した。さらには、メールワイズも契約して、kintoneと連携できるようにした。
「知恵は貸しても手は出さない。これは私が自分の中で決めたルールです。『使う人が作る』が欲しいものに一番近いから。自らの気付きこそ、最大の学習です」(田中氏)
巨大なExcelファイルはたった2つのkintoneアプリへ
現在では、もともと250列×1000行あったExcelファイルは、たった二つのアプリに集約できたそう。フィールド数は相変わらず多いものの、タブをうまく使って見やすく表示している。
メールワイズとも連携させた。例えば、会社説明会の案内を送る際に、アプリの中に持っている日時のフィールドをそのまま自動挿入することも実現したそう。リマインダー機能も活用しており、採用担当者同士で、伝達事項として伝えておきたいことを、学生個人のレコードと紐付けて、通知できるようにした。業務の効率化に加え、ヒューマンエラーのリスクを低減するという効果も得られたという。
「スキルアップ後の落とし穴には注意が必要です。スキルが高くなると、ついつい初めから完成度の高いものを目指すようになってしまいます。そこで、まずは最低限運用可能なものをひとまずリリースするとか、ハードルを自らあげることをやめる、ということをアドバイスしました」(田中氏)
田中氏のアドバイスに従い、ステップアップすることで、西川氏は、kintone導入時には想像もしていなかったいろいろなことができるようになった。その結果、本来の業務に専念する時間が大幅に増えたという。
「決して現状に満足しているわけではありません。今後、かなえたいことがまだまだあります。ツールのための仕事をやめるために手にしたkintoneは、こんなにも野望を抱けるツールでした。そして、この野望をひとつひとつ実現していき、よりよい採用活動を行なっていけるようにレベルアップしたいと思っています」と西川氏は締めた。
この連載の記事
-
第251回
デジタル
これからは“攻めの情シス”で行こう! 上司の一言でkintone伴走支援班は突っ走れた -
第250回
デジタル
誰にも求められてなかった「サイボウズ Officeからの引っ越し」 でも設定変更ひとつで評価は一変した -
第249回
デジタル
3000人規模の東電EPのkintone導入 現場主導を貫くためには「危機感」「勇気」「目的」 -
第248回
デジタル
入社1年目の壁を乗り越えろ!新卒社員が踏み出したkintoneマスターへの道 -
第247回
デジタル
Zoomを使わず「全国行脚」 振り返ればこれがkintone浸透の鍵だった -
第246回
デジタル
kintoneで営業報告を5.5倍に 秘訣は「共感を得る仕組み」と「人を動かす仕掛け」 -
第245回
デジタル
限界、自分たちで決めてない? 老舗海苔屋が挑んだkintoneの基幹システム -
第244回
デジタル
予算はないけど効率化はできる 山豊工建がkintoneアプリ作成で心掛けたこと -
第243回
デジタル
本社の100人全員がアプリを作れるケアパートナー kintoneをExcelのような身近な存在に -
第242回
デジタル
ヘビーなExcelをkintone化した阪急阪神不動産 迷っても「ありたい姿」があれば -
第241回
デジタル
頼られるってうれしい! やる気なかった若者がkintoneで変わった、成長した - この連載の一覧へ