評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!
高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。
『Beethoven: Symphony No. 7 in A Major, Op. 92』
Teodor Currentzis、musicAeterna
人口に膾炙した名曲を、誰も聴いたことのないような新鮮な切り口で、鮮鋭に聴かせるテオドール・クルレンツィスとムジカエテルナ。前回のベートーヴェン「運命」も凄かったが、第2弾のベト7はさらに凄い。それはまさに物理的な衝撃だ。
冒頭のトゥッテイでのティンパニの一撃が発する音響は、実に鋭角的で雄大だ。スコアに忠実にして、底知れぬほど生命力と推進力、そして爆発的なエネルギーを聴かせる---というより体験させるショッキングなベト7だ。 こまかなフレージングのひとつひとつに、溌剌とした活気が宿り、大トゥッティではまさに鮮鋭な切れ味と俊敏さ、前進力を聴かせる。メインメロディと対比する副旋律もしっかりと表現し、対位法的な面白さが、明確に再現されている。フィナーレはまさに火の玉となって大団円を迎える。ベト7には天下に名盤が溢れているが、その最新作に加えられる個性的で、ワン・アンド・オンリーの衝撃作だ。
録音も高解像度。前作の「運命」よりはるかに細部まで明瞭に記録されているので、クルレンツィスのディテールまでの解釈が、こと細かに分かる。ウィーンコンツェルトハウスの長い響きが、俊速演奏に潤いを与えている。録音作でもこの昂奮なのだから、生はさらにエキサイティングだろう。彼らは立って演奏しているが、観客もオールスタンディングで、踊り出しそう。2018年、ウィーンのコンツェルトハウスで録音。
FLAC: 96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music
『Fearless (Taylor's Version)』
Taylor Swift
数奇な運命のアルバムだ。大物音楽プロデューサー、スクーター・ブラウン氏の企業が、スウィフトの以前所属していたレーベルを買収、デビュー・アルバム『Taylor Swift』からアルバム『Reputation』までの6枚の原盤権を獲得したことに、スウィフトが反発。この6アルバムを再レコーディングする計画をスタートざた。
まずは2008年に発売したセカンド・アルバム『Fearless』からリリースされる。 こうした経緯の末に制作されたアルバムだけあり、自信に満ちた堂々たる歌唱に圧倒された。当時から10年以上経過し、音楽的な成熟も加わった。もとより楽曲自身の完成度も高い。ヴォーカルは大きな音像で、センターに安定的に定位する。バックのキーボード、ベース、ドラムス……などの個個の楽器の音像イメージも立体的にして輪郭が明確で、張りがある。高解像度にしてメタリックな音調が耳に心地よい。
FLAC: 96kHz/24bit、MQA: 96kHz/24bit
Taylor Swift、e-onkyo music
気魂と気迫に溢れた渾身のブルックナーだ。パンデミック真っ盛りの2020年11月28日&29日、ムジークフェラインザールにおけるウィーン・フィル定期演奏会でのライヴ・レコーディング。本曲だけのコンサートだった。ウィーン・フィルとしては1988年のハイティンク盤以来32年ぶりの録音だ。
ひじょうにスケールが大きく、雄大で雄暉、そして細部まで丁寧に磨き込まれた、研ぎすまされたブルックナーだ。録音も素晴らしい。偉容な体積感で、細部まで緻密にして雄大だ。ムジークフェライン・ザールならではのシルキーでグロッシーな音色と共に、ディテールまでの音の練達が、美しく伝わってくる。
FLAC: 96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music
『ティル・ウィー・ミート・アゲイン ~ベスト・ライヴ・ヒット[Live]』
ノラ・ジョーンズ
ノラ・ジョーンズの初のライヴ盤にしてベスト盤だ。2017年から2019年の間のアメリカ、フランス、イタリア、ブラジル、アルゼンチンなどの各地のライブ録音から、「お気に入り」を集めたアルバム。日本の配信では2017年の来日ツアーで収録された「サンライズ」がボーナス・トラック。 「1.コールド・コールド・ハート」はハンク・ウィリアムズの有名なカントリー曲。ノラはソウルフルな歌唱にて、心の底からの叫びを発する。ライブだが、ヴォーカルもバックのバンドも音が太く、剛性が高い。「2.イット・ワズ・ユー」は低音感が強く、ピラミッド的な安定音調だ。ノラのドスの効いたパワフルなヴォーカルが、まさに文字通りスピーカーから飛び出す。「13. ドント・ノー・ホワイ」は、溜をたっぷり効かせた名唱。レコードとは違うソウルフルで粘っこい歌唱が心に染みる。ノラのピアノは、厚いバンドサウンドの中で、ブリリアントに輝く。世界各地でのライブが収録されているが、総じて録音のクオリティは高く、低音からしっかりと支えるピラミッド的な特性だ。
FLAC: 96kHz/24bit、MQA: 96kHz/24bit
Blue Note Records、e-onkyo music
『Live at “OurDelight”』
石田衛、宮川純
本記事でもお馴染みのDays of Delightのサブブランドが「Naked. powered by Days of Delight」。もともと本拠地、岡本太郎記念館での気軽な(あまりマイクアレンジなどに凝らない)ライブ録音を行うレーベルとして始まったが、本ハイレゾは蕨市のジャズクラブ「アワデライト」での本格収録だ。
ピアノとオルガンという組み合わせを聴くのは初めてだが、意外に(?)いいではないか。時間軸で縦方向に音が切れ、打鍵感で聴かせるピアノと、横方向に音が持続するオルガンの組み合わせは、とても心地好い。 「1.Minor」、「2.チャッチャー」ではピアノが明瞭に即興を繰り広げる背後で、オルガンが和音と対旋律を心地好く奏でる。蠢きのような、表にでない厚いオルガンサウンドと、くっきりと明確に主役を張るピアノとの対比がダイナミックだ。「3.Waltz for Ms. Baker」はオルガンソロから始まり、ピアノはしつとりとしたオブリガードにて、オルガンを立てる。ファットなオルガンサウンドと、キレのよいピアノとのコントラストがいい。「5.My Ship」のオルガンのペタルの低音が心地好い。ピアノもオルガンもセンターに定位し、音調はとても明瞭だ。
FLAC: 96kHz/24bit
Days of Delight、e-onkyo music
『J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ』
アルテュール・グリュミオー
今年生誕100年を迎えた、「フランコ=ベルギー派」の大ヴァイオリニスト、アルテュール・グリュミオー(1921 - 1986年)。ヴァイオリン評論家の、タワーレコード・板倉重雄氏はこう解説している。「グリュミオーの奏法で特徴的だったのは、左の二の腕から筋肉を震わせる豊かなヴィブラートでした。また左指の圧力は非常に強く、かつ右手の弓も強く張り、ボウイングにも圧力をかけて弾いていたそうです。こうした奏法がヴァイオリンの名器をこの上なく美しく鳴り響かせ、グリュミオー独特の明確で艶やかで輝くばかりの音色を作り出していました」。
1960~61年にステレオ録音された、バッハの無伴奏。アナログ時代からの希代の名演奏として令名の高い世界遺産的な記録だ。ポリフォニー音楽としての構築力の確かさに加えて、眼差しの暖かさ、温度感の高さは他の追随を許さず、現代でもハイエンドなパフォーマンスとして、生き続ける名演奏だ。フランコ=ベルギー楽派の伝統が色濃く感じられるヴァイオリン音が美しい。 まるで昨日、録音されたかのような鮮明で、クリヤー、そして尖鋭な音調だ。最新のDSDリマスタリングの効果が最大限に発揮されている。ヴァイオリンの直接音のスケールの大きさ、体積の大きさ、その内実の緻密さに加え、録音会場の響きの厚み、透明感、倍音感がきれいにハイスピードで拡散する様子が、ビジュアルのように見える様子も感動的だ。オリジナル・マスターから英Classic Soundで2021年に制作したDSDマスターが音源。
DSF: 2.8MHz/1bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
『CHAMBER MUSIC PLAYERS OF TOKYO in 紀尾井ホール presented by 100万人のクラシックライブ』
チェンバー・ミュージック・プレーヤーズ・オブ・トウキョウ
ヴァイオリニスト須山暢大を中心に若手音楽家が集う、CHAMBER MUSICPLAYERS OF TOKYOの紀尾井ホールライブ。DSD11.2MHzの録音は珍しいが、最新のDSD11.2MHzは、これほど音楽的な魅力に溢れているかと再認識する。DSDの良さは、臨場感と優れた音楽描写性だが、特に11.2MHzまでサンプリング周波数が上がると、ホールのプレゼンスの豊かさ、弦の倍音の豊潤さ、演奏のディテールまでのイメージ喚起力……が抜群だ。 音場が奥に深いだけでなく、リスニングポイントまで迫ってくる。合奏構造の情報量がひじょうに多く、パート間だけでなく、同一パートでも楽器の違いによって異なる音色が発せられ、それが融合して行く様子がリアルに捉えられている。さすがは、EXTON録音のクオリティだ。チャイコフスキー、メンデルスゾーン、モーツァルトのそれぞれに対する深い愛情と尊敬も演奏から聴き取れる。2020年12月14日 東京・紀尾井ホールでのライブ収録。
FLAC: 192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV: 192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF: 11.2MHz/1bit、 2.8MHz/1bit
EXTON、e-onkyo music
コロナの新しい環境は世界的に多くの作品を生み出しているが、本作もそのひとつだ。 チェリスト、溝口肇は2年ぶりとなるソロアルバム『hopeness』で作曲、アレンジ、演奏、ミックス、マスタリング(配信)を全て一人で行ない、ゲストミュージシャンたちはリモート録音での参加となった。
溝口アルバムはこれまで、心地好い音の流れを聴かせる作品が多かったが、今回はドラムスがリズムを明確に刻み、エレクトリックピアノが副旋律を奏でる……と、新機軸が加わり、より都会的な雰囲気を醸し出している。溝口本人は「マスタリングはCDではイギリスMetropolis StudioのTony Cousins氏が行なっておりますが、ハイレゾデータに関しては溝口本人がなるべく原音に近い形を望んで、再度行なっています」と述べている。各楽器が有機的に融合する様子が生々しい。
FLAC: 96kHz/24bit、WAV: 96kHz/24bit
GRACE MUSIC、e-onkyo music
民俗音楽、バレエ音楽、シシリエンヌ、ワルツ、タンゴ……古今東西のクラシック音楽の「舞曲」をコンパイルしたアルバム。チェリストの新倉瞳は「幼少期から踊ることが好きだった私は、音楽のジャンル問わず「舞曲」と名前のついた曲がかかるとだいたい身体が動き出してしまっていました。今回のアルバムを創るにあたり、テーマは「ダンスしかない!」と思いました。三拍子の曲でも多少の揺れがあってほぼ五拍子に感じた方が踊りやすかったり、頭で理解するだけでなく身体中で感じることで、ようやくその踊りのグルーヴの波にのれるように思います」とコメントしている。 演奏も録音も暖かく、楽曲への深い理解と愛情が感じられる。「1.フォーレ: シシリエンヌ」の麗しさ、「2.チャイコフスキー: 眠れる森の美女・ワルツ」の軽快さ、溌剌さ、「3.ショスタコーヴィチ: ワルツ第2番」のロシア的な憂愁、「19.ポッパー: スペイン舞曲」の色彩感、「21アルベニス:タンゴ」の優雅さ、高貴さ……と、個個の曲の感情が麗しい。録音もホールトーンをたっぷりと採り入れているが、チェロは明瞭だ。ピアノはもっと立ちが欲しいが。2020年8月27日&28 日 DSD 11.2MHzレコーディング。
FLAC: 384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV: 384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF: 11.2MHz/1bit、5.6MHz/1bit、2.8MHz/1bit
ART INFINI、e-onkyo music
2019年に発売された2つのセルフカバーアルバムに続く第3弾。「無縁坂」「案山子」「関白宣言」「道化師のソネット」「いのちの理由」など数々の代表曲が網羅された、まさにベスト・セルフカバー・アルバム。 オリジナルの雰囲気にストリングスが加わり、ゴージャスにして、華麗なオーケストレーションが堪能できる。「1.北の国から~遥かなる大地より~」は、ハミングのみという旋律構造は変わらないが、まるでグランドオペラが始まるような大編成で、壮大な音響が聴けた。「案山子」「道化師のソネット」「無縁坂」……と続く名曲も、大きなアレンジとスケールの大きさが聴ける。「8.関白宣言」はギターとシンプルなオーケストラ伴奏。リコーダーが良い味を出している。ヴォーカルはセンターに大きな音像で定位し、背後のオーケストラがワイドにそして緻密に広がる。 さだまさしはオリジナル版から表現力が豊穣だったが、それに年の功が加わり、味わいが深い。
FLAC: 96kHz/24bit、WAV: 96kHz/24bit
Colourful Records、e-onkyo music
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