上野優華「うわ！　これは……（言葉を失う）。すごくいい機材なので、CDの時点で音が素晴らしいとは思ったんです。でも、レコードを聴くと、音の入りから明らかに違うのがわかりました。

　濃密さというか、空気感というか。レコードだと、音楽が鳴っているときの、空間が震えている感じが、ちゃんと出ている気がします。この違いって、どういうことなんでしょう？」

小泉氏「理由としてひとつ言えるのは、CDはデジタルに変換して音を記録しているのに対し、レコードはアナログで音を収録しています。音域同士のなめらかなつながりが、複雑な音の深みを生むんじゃないかと考えられます。人の脳は、そのような微細な違いを感じ取れるのではないかと、僕は思っています」

上野優華「これは明らかに違いますよ！　こんなに違うと思わなかった……。今日は感想が『すごい』しか出てこないかも」

上野優華「小泉さんは、もともとレコードがお好きだったんですか？」

小泉氏「そうです。もともとレコードが大好きで、20代からレコード店に通っては欲しかったレコードを買い集めたり、ジャケ買いもしてみたり。僕がレコードを集め始めた時代って、レコードはすごく安くて、1枚数百円で手に入ったんですよね。

　そういうこともあって、いつか、レコードが楽しめるお店を持ちたいと思っていたんです。僕の弟もオーディオメーカーでレコードの針の開発に携わっていて、このお店でも使っています」

上野優華「すごく初歩的な質問で申し訳ないのですが、そもそも、レコードって、どういう仕組みで音が鳴ってるんですか？」

小泉氏「すごく簡単に説明すると、レコードには溝が彫ってあるんです。その溝の上を針が滑って、刻んである情報に沿って電気信号が発生します。その音をアンプで増幅させて、スピーカーから鳴らすという仕組みです。アンプを切っていても、回っているレコードに耳を近づけると、音が聞こえますよ」

上野優華「（耳を近づける）本当だ！　小さく音が鳴っています。アナログな仕組みで、いまの音楽にはない深みみたいなものが表現できることが面白いです」

小泉氏「いまは、デジタルの音源もかなり進歩してきていますよね。ハイレゾ音源のクオリティーもすごく高いです。でも、それってアナログに戻っていっているようにも思えます。ハイレゾは、従来のデジタル音源では表現できなかった音域を表現していますから、デジタルの技術で、アナログの世界を目指しているとも言えますよね」

レコーディング時の空気感が詰まってる

　続いては、ビートルズのアルバム「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」から「Within You Without You 」と、ニュー・スタン・ゲッツ・カルテットがアストラッド・ジルベルトをフィーチャーした「Getz Au Go Go」を試聴。

　いずれも1960年代に収録された音源で、Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandはスタジオで録音、Getz Au Go Goはコンサートを録音したもの。それぞれ異なった空気感と、アナログのよさが体感できる音源だといいます。

上野優華「こっち（Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band）は、レコーディングのときの雰囲気がすごく生々しく出ていますね。メンバーが演奏している様子が伝わってくるみたい。音質も楽器の音がそのまま出ています。もし自分の歌をこの音質でレコーディングしたら、すごく細かいところまで全部が出てしまいそう（笑）」

小泉氏「たしかに、当時は、いまのように音源をデジタルで処理する技術はなかったですからね。レコーディング用のテープも高額だったし、『次の演奏で完璧に仕上げないとやばいぞ』とか、話しながらレコーディングしていたかもしれませんね（笑）。当時の音源は、そういう生々しさが音になって残っているのも魅力です。60年代の音楽は、レコードとはすごく相性がいいなと思います」

上野優華「こっち（Getz Au Go Go）も面白くて、目を閉じると、歌っている人の存在が感じられるんですよね。音楽をやっていると、音楽が鳴っているときの空気感って、すごく慣れ親しんだものになるのですが、その感じがすごく出ているんです。本当に、この空間がライブハウスになったみたいに感じる。このお店の音の響き方も、すごくいいですよね」

小泉氏「ありがとうございます。可能な限りいい音で再生したいと思っているので、お店作りにはこだわりました。音質面ではところどころに吸音材を入れて、あと、お酒のボトルがディフューザーになるように、壁際に密集させて置いています。それから音楽は、音質だけじゃなくて、その場の雰囲気も聞こえ方に影響してくるので、インテリアの質感にもかなりこだわりましたね」

上野優華「（深くうなずく）うんうん、音が鳴る場所は、雰囲気がすごく大事ですよね」

小泉氏「お店を作るときも、設計の方と素材から何から、すごく話し合って、ミリメートル単位で備え付けのインテリアの位置を決めたりしましたね。喧嘩になったりもして（笑）。カウンターはお客さまが一番触れる場所なので、お店の端から端まである一枚板にしています」

上野優華「レコードにはずっと興味があったのですが、今日、こんなに素晴らしい音を聞くことができて、衝撃的な体験でした。私がいままで考えていた『いい音』というものについて、もう一度考えてみたくなりました」

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