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最初のRISC、PowerPCの採用
そして、初代の登場からちょうど10年後の1994年に発売されたPower Macintoshシリーズから、MacもRISCプロセッサーを採用した。IBMとモトローラとアップルが共同開発したCPU、PowerPCだ。もちろん、Power Macintoshの名前に含まれる「Power」とは、この場合、高性能を意味する形容詞であると同時に、CPUの名前を部分的に借用したものとなっている。それほどに、このRISCプロセッサーの採用によるMacの高性能化への期待が大きかったことを示している。
RISCプロセッサー採用の背景には、CISC方式のCPUの性能の伸びが頭打ちになってきたのを打破するという目的があったことは疑う余地がない。ただし、CISCがRISCに対して原理的に劣っているかと言えば、必ずしもそうではないのも確かだ。その反証としては、Windows PCは、登場以来一貫してインテルが設計したCISC方式のCPUを採用し続けていることを挙げれば十分だろう。CISCかRISCかという区分は、あくまでも命令セットの特徴であって、必ずしもCPUの中身のアーキテクチャを特定するものではないとも言える。実際にインテルのCISCは、多段パイプラインなど、当初はRISCのアーキテクチャに特徴的なものと思われていた機能を取り込んで性能を向上させた。
それでも、RISCが登場した当初は、確かにCISCに対して構造的な利点を備えていた。それによって当時のMacは大きな性能向上を果たしたのも間違いない。しかしCPUの性能は、命令セットの特徴だけで決まるものでもない。RISC登場後のCISCも、休むことなく進化を続け、RISCとCISCは熾烈な性能向上競争を継続することになる。その過程の中で、RISCかCISCかといった命令セットの違いよりも、製造プロセスの違いが性能に与える影響が相対的に大きくなっていく。そしてその結果、PowerPCの性能向上にも陰りが見られるようになっていった。
Windows PCと同じインテル製CPUへの転向
そんな中、Macが2度めの大きなCPU変更に踏み切った。こんどはこともあろうに、Windows PCと同じインテル製のCPUに乗り換えることを発表したのだ。ジョブズがアップルに復帰して、再びアップルがかつての栄光を取り戻し始めていた2005年のことだった。これは前回とはまったく逆に、RISCからCISCへの転換だった。この発表は、少なからず驚きを持って迎えられた。実際の製品として登場したのは、そのショッキングな発表の翌年、2006年に発売された現在のフォルムに近い平板タイプのiMacが最初だった。
最初の68000シリーズの時代がほぼ10年、それからPowerPCの時代もだいたい10年続いたのに対して、インテルCPUの時代は15年ほども続いたことになる。今のところMacが同じ系列のCPUを使用し続けた年月としては最長のとなっている。この間も、もちろんCPUと、それに伴うMacの目覚ましい性能向上は続いた。しかし、Macの性能向上の主な要因であるCPUは他社製だった。しかも、それを製造、供給しているインテルは、アップルにとってはライバルとなるPCメーカーにも同様のCPUを提供している。
仮にインテルが、アップルに対して優先的に新しいCPUを供給してくれることがあったとしても、多少の時間差があるだけ。それほど時間が経たないうちに、CPU性能に関しては、どのパソコンメーカーも同じになってしまう。これではいつまで経っても性能面でアップルが絶対的な優位に立つことはできない。また生産量が限られる高性能CPUの供給量や価格を考えると、パソコンの性能が技術的な問題よりも、むしろ政治的な駆け引きで決まってしまうという状況を避けることが難しくなるのは必然だった。