多数の人気店を展開する店主の新たな一杯は、鶏とホンビノスの“足し算” ごっちメン(神奈川県・平塚市)【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第17回
2021年04月20日 18時00分更新
今から12年前の2009年1月7日、上大岡で「G麺7」を創業した店主・後藤将友さん。その後、「啜磨専科(すすりませんか)」「ロ麺ズ」「G麺7-01」「川の先の上」と、系列店を次々と立ち上げ、今回6店舗目が「ごっちメン」だ。コロナ禍でスタッフ不足のなか、後藤店主はグループを取りまとめつつ、泊まり込みで新店を切り盛りしている。
後藤さんの最初の店「G麺7」に伺ったのは、まだ「啜磨専科」と2店舗で営業していた頃。長年ラーメンを食べ歩いてきた方からのお勧めだった。その方も実は、今は亡きラーメン評論家の北島秀一さんから、面白いラーメン屋があると聞いて通い始めた口だ。北島さんは、「彼、これからもっと伸びるよ」と後藤さんのことを語っていたという。
「本当ですか? 僕には、そんなこと話してくれなかったけど、嬉しいなあ。もともと僕は『ラーメン屋になろう!』とか熱い志があったわけではなくて。イタ飯屋から始まって、友人からラーメン屋をやるから手伝わないかと誘われて、『おう、手伝うよ』って感じで(笑)、横浜鶴屋町『麺場 浜虎』のメニュー開発など立ち上げから入ったんです。オープン2年前から赤坂の高級広東料理店『海皇(閉店)』で厨房を1年間借りて、毎週日曜に試作してたんですね。そこの総料理長が、今の『しゅうまい屋』の近藤幸弘さん。僕のラーメンの師匠です。その時、近藤さんから学んだことが未だにラーメン作りに活かされています」
「浜虎で7年経った頃、月商1000万円の目標を達成して、支店を出すための物件を探してたら、妻の実家近くにずっと空いてる物件があってね。実家も近いし、いい物件だけど、浜虎の支店としては狭いねって、妻に話したら『それなら自分の店をやりなさいよ』って(笑)」
――奥さんに言われて独立(笑)。
「そうです(笑)。最初は夜営業だけで、製麺からすべて一人で手作り。お客さんから昼もやってほしいと言われたけど、家族を食べさせられればいいかなと思ってたんですよ。でも、最後はやっぱり妻が『昼やれば?』って(笑)。そこからは昼夜営業で、最初の1年は一人でやりましたね。2年目からはスタッフを入れて、近くに2店目の『啜磨専科』を出したんです。『G麺7』は洗い場が遠くて、つけ麺ができなかったんですよ。だから『G麺7』はラーメン、『啜磨専科』はつけ麺で、2軒で1軒のイメージですね」
「実は北島さん、浜虎の店長時代から僕のこと知っていてくれて。浜虎で僕が初めて限定の冷やしラーメンを出した時、ラーメン検索サイト『超らーめんナビ』で絶賛してくれたのが北島さんなんです。その頃、『マタドール』の岩立くんがラーメンスクエアで優勝して、『らあめん元』の元ちゃんも独立してすぐ話題になってて。同時期に開業した彼らみたいに有名店出身ってのが、ぽっと出の僕にはなくてね。ラーメン界の人たちって全然知らなかった。それを北島さんが『69'N'ROLL ONE』の嶋崎さん(現・尼崎『ロックンビリーS1』)をはじめ、ラーメン界の重鎮の方々を紹介してくれたんです」
――そこから「G麺7」で独立して、北島さんの食べ歩き30周年記念で、嶋崎さんが作るラーメンのために、後藤さんが麺を打つところに繋がるんですね。
「あの時は、嶋崎さんから何回もダメ出しされて。でも、やるしかないなあと思って、がんばりました!」
――その後、6店舗まで急展開ですよね。
「『啜磨専科』が狭くて家族連れが入れないと悩んでいたら、駐車場もあるいい物件の話がきて弘明寺の『ロ麺ズ』を進めていた矢先、ららぽーと湘南平塚店からお声がかかって。『G麺7-01』も同時進行になっちゃったんですよ。すっごく大変でしたけど、何でもやってみようと思って。だから、同時期に香港オーナーからオファーを受けて、3ヶ月ほど香港でコラボ出店もやりました。ただ、上大岡の家族連れに来てもらうために弘明寺で出店した『ロ麺ズ』だったんですが、遠くて(笑)。それで上大岡にも家族向けに『川の先の上』を出したんです」
「今回は、廃業するラーメン屋さんの跡地に店を出すことになって。最初、平塚の人にはどういうラーメンが合うのか悩みましたね。よくよく考えたら僕が合わせるんじゃなくて、平塚の人に合わせてもらったほうがいいかなと。自分が作りたいラーメンを作りました! ただ、地産地消というか、地元の食材を使いたいというのはありましたね。食材にホンビノス貝を使うようになったのも、昨年、庄太(『麺屋庄太』店主・下里庄太さん)が亡くなって、庄太の遺志を継ぐ店、北久里浜『Tokyo Bay Fisherman's noodle』をサポートした時に、そこの漁師さんと知り合ってから。一次産業の人に会える機会ってめったにないんですが、直接ホンビノス貝を仕入れることができることになったんですね。うちのラーメンにホンビノス貝を使っているのは、そういった出逢いがあったからなんです」
――いろいろな人との繋がりで、今までとは違った、新しい店やラーメンが生まれたと。
「その時その時で考えが違うんですよ。『川の先の上』では、北海道産小麦粉を使ってみようと思ったんだけど、よく考えたら小麦粉の本場は海外だろうと。オーストラリアの小麦粉で作ってみたら、きめ細かくつるっとした麺ができたんです。きめの細かいのがオーストラリア小麦粉のいいところだけど、ちょっと弱い。そこに北海道内で0.7%しか作られない小麦粉を入れてみたのが、今回の『ごっちメン』の麺。その希少価値の高い小麦粉は、灰分(食品中のミネラル総量)が高くて、味が濃いんですね」
――らーめん塩と正油、つけ麺も頂いたんですが、同じ麺なんですね。
「麺は1種類です。味噌には平打ちか太麺かと考えたんだけど、細麺の味噌ってないじゃない。意外といいかと思って。『川の先の上』では2種類だし、できなくはないんだけど、今回は一本にしました」
「スープも今までと全然違いますよ。コロナ禍で焼鳥屋が休業して、手羽が余ってるって聞いて。じゃあ使ってみようと、大量の手羽で塩ダレを作ってみたら、なかなかの出来で。『G麺7』だともっとクセのある塩ダレだけど、『ごっちメン』は素直にできたかな。スープはつくば鶏を炊いて、そこにホンビノスを入れてます。でも、貝を前面に出したくなかったんですね。量を減らさず旨味を残して貝を抑えるために、とり方を変えるというか、貝は最初に入れて鶏より先にあげて馴染ませるようにしています。
正油は、鶏とホンビノスのベースに和出汁をちょっと入れたWスープです。鶏と水だけのスープも美味しいんですけど、今回は引き算じゃなくて足し算のスープにしました。まあ、足したり引いたりするんですけどね。『川の先の上』と『ごっちメン』は足して、『G麺7』は引き算」
――北島さんが「伸びるよ」と語っていた、今の自分は?
「どうですかね、伸びたかどうか自分ではわからないですね。格好いい進化じゃなくて、その時その時思ったことをそのままやってるかな。僕ら世代のラーメン屋の中には、『春木屋理論』っていうのがどっかにありますね。オープン時は30代の時に作ったラーメンだし、今は材料も変わってるけど、大元は変えてない。枠は変えちゃだめだってのがあって、やっぱり春木屋理論だな。基本は『G麺7』。あそこに立てば目をつぶっても作れる。しっくりくるのがあそこなんですよね。
この先、年をとって、もしやるとしたら、店を縮小してカウンターだけで、嶋崎さんみたいな“一人一人真剣に向き合って作る”、そういうのをやってみたい。ただ、僕は黙ってられないんだよね。シーンとしてたらしゃべりたくなるから(笑)」
ごっちメン
神奈川県平塚市東八幡1-1-3
11:00~20:00(通し営業) 木曜休
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/showamengyo)をご確認ください。
大熊美智代 Michiyo Okuma
ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。
本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna