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誰でもAIが使える!「Azure Cognitive Services」をみんなで学ぶ 第1回

AI活用の高いハードルを引き下げるコグニティブサービスについて学ぼう

AIと「Azure Cognitive Services」の基本を理解する

2021年04月07日 08時00分更新

文● 三木拓海/FIXER 編集●大塚/TECHASCIIjp

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 本連載「誰でもAIが使える!『Azure Cognitive Services』をみんなで学ぶ」では、FIXERの若手エンジニアたちがマイクロソフトの「Azure AIの基礎(AI-900)」ラーニングパスに沿いつつ、「Azure Cognitive Services」を実際に使ううえでのノウハウをまとめます。ハンズオンもありますので、皆さんもぜひ一緒に学んでいきましょう。
(※ 本連載はAI-900試験の受験対策を目的としたものではありません)

連載のはじめに

 近年、AIによって世界は急速に変わりつつあります。顔画像からの本人確認(顔認証)、チャットボットによる応答や会話、自動車の自動運転まで、かつては人間しか行えなかったような高度な技能ですら、今やAIが自動的に行ってくれるようになり、私たちもそんな世の中を徐々に受け入れ始めています。

 そんな中で「AIの民主化」という言葉もよく耳にするようになりました。AIの民主化とは、専門家だけでなく誰もが簡単にAIを作り、使えるようにするという意味の言葉です。「本当にそんなことができるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、マイクロソフトもこの言葉を掲げて、AIの民主化を実現するために「Microsoft Azure」クラウドを通じてさまざまなAIソリューションを提供しています。

 本連載で取り上げる「Azure Cognitive Services」(以下、コグニティブサービス)もその一つです。連載第1回ではまず「AIとは何か」についていくつかのキーワードに触れつつ説明し、そのうえでAzureのコグニティブサービスでは何ができるのかを簡単に紹介していきます。

AIを学ぶうえで知っておきたい最低限のキーワード

AI(人工知能)とは?

 さて、そもそも「AI」とは何でしょうか。辞典の定義を見ると次のようになっています。

AI:Artificial Intelligence(人工知能)の略、今まで人間の知能によって行ってきたことをコンピューター上で実現すること、またそれを試みる分野のこと。[出典:日本百科全書(ニッポニカ)-「人工知能」より]

人工知能とは?

 人間が行ってきたことをコンピューター上で再現する試みであれば何でもAIと呼べてしまうため、実は「AI」という言葉は非常に広い意味で使われてきました。言葉そのものが生まれたのは1956年と言われており、そこから実に50年以上にも及ぶ議論と研究の歴史があります。

 AIという言葉が誕生してからおよそ半世紀、過去にも何度か“AIブーム”が起こりましたが、ここ数年で再びブームが起こり、脚光を浴びるようになっています。現在はどんな会社でも、AIを製品/サービスや業務にいち早く組み込もうと取り組んでいます。なぜ今ごろになってAIが再び注目を集めているのでしょうか。

機械学習の進化によるAIブームの到来

 そこには、AIを実現する技術分野の1つである「機械学習」(ML:Machine Learning)が関係しています。今、世間で「AI」と呼ばれて急速に実用化が進んでいるもののほとんどが、機械学習による成果物です。それでは機械学習とは何でしょうか。先ほどの例にならって辞書的に定義してみましょう。

機械学習:機械(コンピューター)にデータを与えて「学習」(トレーニング)させること。大量の学習データから一定のパターン(特徴)を導きだすことで、機械は新たな情報に対しても予測や識別を自動的に行えるようになる。なお、機械が学習した結果は「モデル」と呼ばれる。

 この「モデル」は、具体的にはアルゴリズム(数学的な計算手法)なのですが、人間で言うところの「経験則」に近いものと考えてよいと思います。

 以下の画像の例では、ECサイトが持つ顧客の購入履歴データを機械に学習させることで、ある顧客がほかにどんな商品を購入したいかを予測するモデルを作成しています。学習するデータには、購入履歴から顧客の属性(年齢や性別、配偶者の有無、子供の人数など)と購入した商品のカテゴリが列挙されています。

機械学習のステップ1「学習」。学習データを使ってモデルを作成する

 大量のデータから学習することで、機械はそれぞれの属性と購入製品カテゴリの間にある結びつき(相関)の強弱をだんだんと把握していき、最終的にそれをモデル化します。新たな顧客が登録されたときには、このモデルを適用すれば「この顧客こういう属性を持つので、このカテゴリの商品を欲しいと思うはず(確率が高い)」という予測を導き出します。

 なお、学習で得たモデルを使ってこうした処理(予測や識別の処理)を行うことを「推論」(inference)と呼びます。機械学習は、大きく「学習」と「推論」の2つのステップで構成されると覚えてください。

機械学習のステップ2「推論」。事前に用意されたモデルに基づいて予測や識別といった処理を行う

 人間の店員であれば、「小さな子供がいる顧客は定期的に紙おむつを買う」「この年代の女性には今、こういう洋服が売れている」といった経験則を持っており、新しい顧客が来たらその経験則から予測して商品をおすすめ(レコメンド)するわけです。機械学習は、与えられた学習データから経験則(=モデル)を得て、同じような予測をするわけですね。

 ただし、ここには機械ならではの強みがあります。単純な推論であれば人間よりも速く一瞬で処理できますし、昼夜を問わず24時間働き続けることも可能です。ECサイトに組み込んで、大量に訪れる顧客一人ひとりにおすすめ商品を紹介する作業ならば、機械学習にお任せしたほうが有利なわけです。

 また、大量のデータを学習させられる点も機械学習の強みです。人間には無理でも、機械ならば過去数年間分、数万件や数十万件の購入履歴データを短時間で学習できます。人間のような認知バイアス(いわゆる“思い込み”や“偏見”)もありません。より多様な属性データ(上述した例の場合、たとえば年収、居住地など)も一緒に学習させることで、今まで人間が考えつかなかったような側面からデータ間の相関を導き出す場合もあります。

 とはいえ機械=AIは、人間とは違った意味で間違うことが多いのも事実です。与えられたデータだけで学習/推論を実行しており、人間が備える「一般常識」のようなものはありませんから、たとえば「雨が降っていない日は傘があまり売れないので、傘を売らなければずっと晴れる」といった、おかしな予測をしてしまうこともあります。

ディープラーニングとは?

 さらに近年では、機械学習領域で「ディープラーニング」(DL:Deep Learning)という手法が登場し、実用化されています。機械学習そのものは半世紀ほどの歴史を持ちますが、ディープラーニングはこの機械学習にブレイクスルーを引き起こしました。

 ディープラーニングとは、人間の神経回路を模倣して作られるニューラルネットワークというモデルを用いた機械学習の手法で、より複雑な推論ができます。このニューラルネットワークの層が深いことから“ディープ”ラーニングと呼ばれるのですが、なぜ層が深いことで高度な推論ができるかについては、現在も議論中のことが多く、今回の説明では割愛します。

 ディープラーニングが実用化された背景には、コンピューターの能力向上と合わせて、インターネット社会、デジタル社会の進展があります。皆さんも含め、現在ではあらゆる人がメールやチャットでメッセージを交わし、会員登録したECサイトで買い物をし、またスマートフォンで写真やビデオを撮影しています。これらはすべてデジタルデータです。さらに現在では、人間だけでなく身の回りのあらゆるモノも、大量のデジタルデータを生成するようになりました。

 こうして現在の世界に存在する大量のデジタルデータは、機械学習のための格好の“餌”となりました。日進月歩でデジタル化が進む現在の世界で、AIはいくらでも学ぶことができるわけです。

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