学生制作の2作品が社会実装化検討中!
本当に『学生さんがうらやましい』と思った――イノラボ×東大IEDPコラボを振り返る
最終発表で3作品がイノラボ賞として選ばれる
―― そしてついに最終発表の日が訪れました!
柏原 10月1日が最終発表日でした。それまでに実装をサポートする集中演習、また映像制作実習では映像を作成してみんなで見る回もありました。
9月中はいよいよ最終発表への目標を設定して、各自ひたすら作っていくプロセスです。最終発表では、3分以内の映像を含む持ち時間10分で、各自のアイデアをアピールしてもらいました。
―― では、最終発表会で各企画を審査したイノラボさんのご感想をお願いします。
渋谷 じつは面白い経緯がありまして。
我々3人は当初、学生の学びの場でもあるし、暖かく見守ろうという感じでアドバイスを出していたのですが、イノラボ内部で「イノラボがIEDPに提供しなきゃいけない価値はなんだろう?」と考えていくなかで、「企業としての視点をお伝えしないといけないのでは? 要するに、もっと厳しく言わなきゃいけないのでは?」という話になったのです。
というわけで、最終発表会では厳しめに見て、言いたいことをズケズケ言いました。私は見るポイントがある程度決まっていて、「課題に共感できるか?/着眼点に共感できるか?/解決することに価値があると思えるか?/方法が課題の解決になっているか?」を中心に審査しました。
皆さん、見せ方も含めて仕上がっていて、なかには本当に良いプレゼンをする学生さんもいらっしゃいました。普段一緒に仕事をしている電通の方々と同じくらいレベルの高さを感じさせるプレゼンもあったりして、結構感動した部分もあります。
藤木 たとえばプレゼンの上手さで言うと「目ノ戸」。デザインもキャッチコピーも良いし、小説の文章を切り出してプレゼンしてくれるので引き込まれる。ぶっちゃけクオリティー高いなと。
岡田 このときに同席していたイノラボの部長は電通出身なのですが、「電通で見かけるコピーと比べても遜色ない内容では」と。
―― プロのお墨付きですね。
佐々木 「ロゴを作ってあると、相手にやる気を感じさせたり、やりたいことを明確にできるよ」という話はしましたね。
藤木 夏目さんという学生さんの発表は、プレゼンというよりも彼女が興味を持つ身体性というテーマへの思いが刺さりました。作りこまれた感じはあまりしないのですが、伝えたい相手や内容をきちんと選んでいる。「コンセプト、課題、誰に見せるのか」これの見せ方が短くてシンプルで、荒削りだけどすごい伝わってきました。
佐々木 夏目さんの場合は、最初の段階で「皆さんの心から見たい景色は何か?」と聞いたときに、その時点で本人も身体表現をやっている方だったこともあって、個人の問題意識が最後まで通底していました。
藤木 学生の皆さんには、社会に幅広く展開・実用化していく際の応用も考えて発表してほしいというリクエストを出していました。我々が社会実装するときの参考にさせていただきたいからです。結果、たとえば「伝えたいのは中1の女の子だけど、発展させたら震災教育で幅広く展開できます」というような要素をプレゼンに盛り込んでいただけました。
岡田 じつは私も夏目さんの話をしようと思っていたところ、ずいぶん藤木さんに言われたのですが(笑) 夏目さんは当初、そこまでITリテラシーは高くなかったのですが、半年の間にArduinoやセンサーを使いこなし、最終的に自分のコンセプトをうまく表現することに成功していました。
『この期間で、このインプット量で、ここまで仕上げてくるんだ!』と素直に驚きましたね。逆に『この頑張りをどれくらい汲み取れるか。こちらの腕の見せどころだ、こちらも頑張らねば』とという気持ちになりました。
柏原 夏目さんは、前述した(イノラボさんの)講義資料を教科書的に使っていた学生さんで、資料に書かれた問いに自分の答えを書き込みながらアイデアを練っていたそうです。皆さんからのインプットを真正面から受け止めていた方なので、成長も大きかったと思います。
―― 最終発表会では「イノラボ賞」として、イノラボのお三方が1つずつ「自分が良いと思ったもの」を推したと聞きました。そのテーマと推した理由を教えてください。
藤木 自分は夏目さんの「つながる」を挙げました。「届けたい人は身近な中1の女の子」というプレゼンのほか、「何かしらの情報を伝えたいときに身体性はどう影響するのか?」という、彼女が持っている根源的なテーマに共感するところもありましたね。
岡田 私は「9次元郵便局」を推しました。「いろんな空間を共有できる、いろんな次元をつなぐ」という、リアルとバーチャルが交錯するコンセプトは、これからのトレンドのツボを押さえているなと。また、最終的に現実空間での生活に行動変容を促すような流れが期待できると感じました。
渋谷 私は「目ノ戸」です。もともと忘却に抗うためのツールとしていろいろ考えてくださったところもあるのですが、「窓」というソリューションの形が便利なこともポイントです。身近にある窓をディスプレーに切り替えるなど応用可能性が広いところ、そして課題解決になっていそうだというところで評価しました。
―― 佐々木先生のほうは、どう思われました?
佐々木 正直、客観的に見られなかった部分はあります(笑) みんなよくぞという感じだったんですよね。これまでコンピューターを用いた表現に無縁だった人がゲームを作ったりといったパッションに非常に感激して、うるっときてました。ただ、成績付けの際はイノラボさんとは別の評価軸を当てました。「表現としてどうか?」と「社会実装の可能性があるか?」は違いますからね。
―― 参加された学生さんの最終発表を終えての感想はいかがでしたか?
柏原 自己評価では、「やりきりました。自分では満足です」という人と、「50点でした」という人、「考え続けたい」という人に分かれました。自分では満足しているという人は、5月8日の時点から同じことを考え続けてきた人で、当初からやりたいことが明確に見えていた人ですね。
一方で50点と言っていた人は、イノラボさんや佐々木先生からご指導・ご指摘を貪欲に受け止めてどんどんアイデアを展開させた一方、時間的な制約があるなかで、自身の技術レベルと照らし合わせて、最終的にステップをちょっと低めに設定したことの不満が残ってしまったようです。
それでも、多くの人がスタジオで得られたスキル・知識だけでなく、今回「表現」に取り組んだことで、「やればできる」にマインドセットが変わったと言っていたことが印象的でした。
社会実装を目指して継続中!
柏原 最終発表会で選ばれた3作品を、再度イノラボさん内部でご検討いただき、2作品をピックアップいただきました。
渋谷 パートナーを含めて社会実装できそうなものを内部で議論したうえで、作者本人に詳しく話を聞きました。企画の背後にある考え方も含めて知りたかったからです。実際、先ほどの夏目さんが身体性や生体データの計測をしている学生さんだとわかったのはこのときです。最終的に、夏目さんが所属する研究室を巻き込んでコラボレーションしようという話にまで広がりました。
藤木 現在は、社会実装するための現実的な課題をどう解決していくかをイノラボで考えています。学生さんが考えた企画をもとに再度検討しているステップが2段階になっている印象ですので、今後は講義のなかで社会実装との接続を検討するためのノウハウを解説する要素を取り入れて、シームレスに社会実装に移行する工夫の余地があるのかなと感じていますね。
「学生さんがうらやましい」と思った
―― プロジェクトを通して得られた気付きや新たな知見について何かございましたら。
佐々木 授業全体を通して伝えたかったことは伝えられたかなと思っています。まずは「考えて、ものを作って、みんなと共有」という一連の流れを体験してもらえたこと。そして2つ目はイノラボ賞を創設したことで、「みんなで共有した後は、ある評価軸によって勝ち負けが出てきてしまう」という現実を体験してもらえたことです。
そして本当に『学生さんたちがうらやましいな』と思いました。
自分は表現という観点から授業に取り組んでいましたが、通常は「賞を獲る」「展覧会に出展する」といった実績の積み上げ方になります。しかし今回はイノラボさんが関わることで、社会実装というある意味一番贅沢なプロセスが先に見えていました。これは学生にとってラッキーというか幸せなことだったなというのが、こちらから見た景色の1つです。
―― 皆さま、ありがとうございました。今後の活動にも期待しています!