小売や飲食などに適した指静脈認証装置やPC内蔵カメラでの指静脈認証SDKを提供開始
日立、非接触ニーズに対応した生体認証ソリューション第2弾発表
2021年03月03日 07時00分更新
日立製作所は2021年3月2日、新しい非接触型の生体認証ソリューションとして、生体認証デバイス「日立指静脈認証装置 C-1」と専用装置不要でPC内蔵のカメラを利用できる生体認証ソフトウェア開発キット「日立カメラ生体認証 SDK for Windows フロントカメラ」を発表した。3月9日より提供を開始する。
日立では昨年(2020年)10月、利用シーンに合わせてさまざまな生体情報や付加価値を選択できる「生体認証統合基盤サービス」の提供を開始。今回の製品は同サービスに続く、ニューノーマル時代に向けた生体認証サービスの第2弾と位置づけている。同社は生体認証関連事業において、今後5年間で累計500億円の売上規模を目指す計画。
コロナ禍での非接触ニーズに対応する「手ぶらで認証」の第2弾発表
日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニットセキュリティ事業統括本部 セキュリティソリューション本部 本部長の池上隆介氏は、これまでの生体認証への取り組みについて次のように説明した。
「日立は2001年から指静脈認証入退室管理システムの提供を開始、2006年にはPC接続用指静脈認証装置『H-1』を市場投入している。H-1は多くのベンダーが認証精度と認証スピードの高さを評価し、PCのログインセキュリティ、勤怠管理での打刻、POSレジの本人認証などで採用されている、国内シェアナンバーワンのロングラー製品」(池上氏)
また、Lumada事業を支える重要な分野としてセキュリティ(サイバーセキュリティ、フィジカルセキュリティ、認証ソリューション)を位置づけており、金融機関をはじめとした幅広い分野での導入実績も持つことも強調。2007年からはグローバル展開を強化し、生体認証事業の2019年度の海外事業比率は60%になっているという。
今回新たに発表した指静脈認証装置 C-1は、装置に触れることなく3本の指をかざすだけで本人認証を可能にする生体認証デバイス。キャッシュレス決済や入退管理、会員管理といった用途でBtoBtoC市場に提供する。
同装置の開発にあたって、日立では専用装置を使った反射型の赤外線を使用し、複数の指を非接触で検知、認証する新たな技術を開発した。装置から2cm離れた距離でも認証ができ、サーバーの性能にもよるが、たとえば数百万人規模の登録者がいる場合でもおよそ2秒で照合作業が可能だという。さらに店舗などでの利用を想定し、同じ装置でQRコードの読み取りにも対応する。
日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニットセキュリティ事業統括本部 セキュリティソリューション本部 部長の夏目学氏は、同装置の開発背景として、新型コロナウイルス感染リスクを回避する意識から非接触デバイスのニーズが高まっていること、また全国展開する小売店などで少額決済や会員管理に生体認証を活用したいという声があることなどを挙げた。
「小売店や飲食店での決済や、イベント会場および施設の入退管理、レジャー施設での会員管理など、手ぶらで利用できる生体認証のニーズに対応できる」(夏目氏)
もうひとつの新発表であるカメラ生体認証 SDK for Windows フロントカメラは、Windows PC内蔵カメラや外付けカメラを使用して指静脈認証を行うためのソフトウェア開発キット。かざした複数の指(親指以外の4本の指)の位置を正確に検出し、なおかつ可視光画像から静脈パターンだけを抽出して照合する生体認証技術を開発した。PCカメラから約7cm離れた手の位置でも認証が可能だ。今後はWindows以外のOSにも対応していく方針。
こちらについては、急速なリモートワーク拡大にともなって、新たに専用装置を配布することなく業務PCをそのまま利用してセキュリティを向上させたいというニーズに最適だと説明する。
「たとえば会社の業務システムにアクセスする際、タッチレス、パスワードレスでログインできるようになる。独自の『PBI技術(Public Biometrics Infrastructure、後述)』を採用しているため、生体情報そのものがPC本体に格納されることがなく、生体情報漏洩のリスクから解放される。電子署名と組み合わせることで“ハンコレス”システムも実現でき、従来のように他人が(IDやパスワードを悪用して)署名することなく、本人確認をしっかりとできる」(夏目氏)
同SDKについては、すでに欧州のパートナー企業などと活用に向けた実証実験を開始しており、海外事業展開を加速していく方針。また、日立コンサルティングとの連携により、導入効果のシミュレーションやPoC、導入計画策定などを行う「生体認証を活用したDX推進コンサルティング」も提供する。
生体情報を保存せずに生体認証を実現する独自技術「PBI」とは
日立の生体認証関連事業において、ベースとなっている独自技術がPBIだ。これは生体情報そのものではなく、生体情報を復元できない形に変換したうえで“鍵”を生成する仕組みで、高いセキュリティを確保できることが特徴。同社ではPBIを「本人を安全・確実に特定する技術」と位置づける。2010年には PBIの特許を取得、そして2020年10月にはPBI技術を盛り込んで生体認証統合基盤サービスを発表した。
このPBIを核とし、日立ではニューノーマル社会に対応した生体情報関連事業に注力していく。昨年の生体認証統合基盤サービス発表時には同サービス単体で「5年後に100億円を目指す」としたが、ここに製品やシステムインテグレーション、サービスも付加し、今後5年間で累計500億円の売上規模を目指す。
今回発表した指静脈だけでなく、顔や虹彩といったさまざまな生体情報の活用も推進し、Lumadaソリューションとして提供するとともに、パートナーとも連携しながら企業や社会の課題解決に貢献すると語る。具体的には今後、POSベンダーの業界最大手である東芝テック、セキュリティゲートで業界トップシェアのクマヒラと連携し、C-1と組み合わせた新たな生体認証ソリューションを展開することも明らかにした。
「日立は、生体認証が新しい社会インフラになることを目指し、国内外を問わず、様々な用途で、実証実験や商用化をスタートしている。研究開発、ソリューション提供、パートナーとの共創などにより、シームレスな認証基盤を提供し、人々の暮らしのQoL向上、安心、安全な社会の実現を目指す」(池上氏)