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農林中央金庫と全国森林組合連合会が展開する「林業安全教育360VR」

VR活用した林業向け教材視聴レポート、11K映像で撮影した倒れる木の恐ろしさ

2020年10月20日 15時00分更新

文● 貝塚/ASCII

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林業安全教育360VRでは、他人伐倒における事故を疑似体験できる

人の生活に不可欠な林業

 木を育て、伐採し、出荷し、また新しく木を育てる林業。出荷された木は木材として家や家具を作る材料となったり、燃料として利用されたり、チップに加工されてガーデニング材に活用されたりする。

 また、森林そのものには水を蓄え、降雨量が多いときに、民家の多い居住エリアへ大量の水が流れ込むのを防ぐ役割もある。管理する森林の、木の育成状況を管理したり、適正なバランスに整えるのも林業の仕事だ。

 光合成によって、多くの生き物の生存に欠かせない酸素を作り出すのも、木をはじめとした植物。林業は、私たちの生活を目に見えるところでも、目に見えないところでも支えている業種のひとつである。

長年の課題は安全性

 そんな林業で長年の課題となっているのが、従事者の安全性の確保だ。労働災害の発生状況は、長期的には減少しており、15年前と比較して、半減、5年前と比較して3割減で推移している。

 しかし、2019年の死傷者千人率(従事者1000人あたり、何人が労災により死傷したか)は20.8人。これは全産業平均の9倍といい、他業種と比べて、著しく高い水準と言っていい。

 林業従事者の高年齢化も進む中、林業従事者の確保のためには、労働安全性の向上は速やかに解消するべき課題。そこで、農林中央金庫では、2015年度に「林業労働安全性向上対策事業」を開始。森林組合や、森林組合連合会に助成金を交付し、従事者へ、ヘルメット、ジャケット、防護スボン、防護ブーツといった安全装備を支給しやすい環境を整えている。

 農林中央金庫の林業労働安全性向上対策事業では、2015年から2019年の5年間で、2149件の助成(金額では、3億3900万円)を実施。この事業が開始される前の2014年度と比較すると、チェンソーによる「切れ・こすれ」の事故の件数には、139件もの減少が見られるという。

 チェンソー作業時の防護ズボンの着用は2015年から義務化されているが、金額の規模感から見ても、農林中央金庫の林業労働安全性向上対策事業による安全装備の普及活動が、従事者たちへの装備の導入をスムーズにし、また安全意識も高め業界全体の事故発生率を下げる大きな要因になっていると見ていいだろう。

VR×林業でさらなる安全性対策を

林業安全教育360VR

 2020年から、林業労働安全性向上対策事業の一環として、農林中央金庫と全国森林組合連合会が協業で展開しているのが、VRを活用した「林業安全教育360VR」だ。

 エンターテインメントの文脈で語られることの多いVRだが、産業用に活用すれば、実際には体験できない危険=重大な事故を疑似的に体験したり、現場の雰囲気を視覚で受け取り、座学よりも実際の作業に近い雰囲気の中で研修ができるなど、メリットは多い。

 2020年10月現在は、1セットにつき、VRゴーグル2台で提供。他人が木を伐り倒すシーンでの事故を想定した「他人伐倒」をプログラムとし、教育者向け、従事者向けの2種類の映像を同梱している。伐倒を作業する際は、作業者以外の人間は倒れる木の周囲に立ち入らないことを徹底し、作業者は木の切り方を守らないと、思わぬ方向に木が倒れ、他の人間に直撃してしまうことがあるのだという。

VRゴーグルは4Kでの出力に対応した「Pico G2 4K」を採用

 VRゴーグルは4Kでの出力に対応したものを採用。「映像そのものは、アルファコードというVR専門のコンサルティングや制作を手がける、スタートアップ企業に依頼して、共同で制作しています。奈良県の森で撮影をしましたが、専用のカメラを使って、映像そのものは11Kで制作されています」(農林中央金庫 佐藤 里穂さん)

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