Webサイト管理者のための2020年版“IPv6対応入門”第5回
IPv6化が進むNWインフラからのIPv4アクセスを可能に、「IPv4 over IPv6」が必要な背景
サイト管理者や開発者が知っておきたい「IPv4/IPv6共存技術」
本連載第1回でも説明したとおり、現在はIPv4アドレスの枯渇を背景とした、IPv4インターネットとIPv6インターネットの“共存期間”にあたる。IPv4を使うノード(サーバーやクライアント、ルーター)とIPv6を使うノードが混在し、共存しているインターネット環境だ。
ここで重要なのが、IPv4とIPv6という2つのプロトコルには互換性がなく、異なるプロトコルのノードどうしは直接通信することができないという点だ。そこで、どちらか一方のアクセス手段だけを提供するのではなく、両方のプロトコルを効率よく提供するための「IPv4/IPv6共存技術」が必要とされる。
このIPv4/IPv6共存技術は今まさに、多くのインターネットユーザーが利用するようになっている。本連載はWebサイト管理者やアプリケーション開発者に向けたものだが、そうした業務において留意すべき点もある。そこで、まずは基本的な部分を理解しておこう。
なぜいま「IPv4/IPv6共存技術」を学ばなければならないのか
なぜいま、多くのインターネットユーザーがIPv4/IPv6共存技術を使うようになっているのか。まずはその背景から説明したい。
日本国内でも近年、家庭や企業からのインターネットアクセス回線の「IPv6化」が急速に進んでいる。たとえば、IPv6普及・高度化推進協議会の集計結果(2020年6月現在)を見ると、NTT東西「フレッツ光ネクスト」においてIPv6接続が可能なアカウントの割合は74.5%※注、KDDI「auひかり」や中部テレコミュニケーション(CTC)「コミュファ光」に至っては100%となっている。
※注:NTT東西の次世代ネットワーク(NGN、いわゆるフレッツ網)はIPv6ネットワークだが、それを利用したインターネット接続サービスは別途ISPが提供するものであり、IPv6インターネットへのアクセスが可能かどうかは選択するISP/サービスにより異なる。なお上記資料では、NTT東西「フレッツ光ネクスト」のIPv6普及率に関して、厳密な集計が難しいため「実際の普及率よりも値が低く出る」との注釈が書かれている。
また総務省による国内動向調査(2019年版)においても、大手ISPを中心としてIPv6接続サービスの提供が進んでおり、全体ではおよそ4割弱のISPがすでにIPv6サービスを提供中、さらに試行中/検討中までを含めると5割を超えることがわかっている。IPv4アドレスの枯渇、そして5GやIoTの普及といった社会の将来像を考えると、通信事業者がIPv6を中心としたインフラ投資やサービス提供の方向性をとるのは自然な流れだろう。
しかしその一方で、WebサイトやWebサービスといったコンテンツ提供側のIPv6化は、残念ながら大手のグローバルコンテンツサイト以外ではそこまで進んでいないのが実情だ。
ユーザーがIPv6接続サービスを利用する際に、「IPv4インターネット(IPv4コンテンツ)にはまったくアクセスできない」のでは困る。そこで、ISPではさまざまなIPv4/IPv6共存技術を導入し、IPv6ネットワーク経由でIPv4インターネットへのアクセスを可能にしている。こうしたアクセスサービスを総称して「IPv4 over IPv6」と呼ぶ。
Webサイト管理者や開発者にまず認識していただきたいのは、こうした2020年の現状だ。たとえIPv4アクセスにしか対応していないサイトやサービスでも、実はIPv6ネットワークからIPv4 over IPv6を使ってアクセスしているユーザーが増えているのである。
そしてそのアクセス手法は、次項から説明するとおり、旧来のIPv4アクセス(IPv4ネットワークからのアクセス)とは異なる部分もある。そのため、Webサイト/アプリの開発や運用においては留意すべき点が生じることになる。