評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!
高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。
『ロマンス ~ヨアヒムの愛器でヨアヒムを聴く~』
永峰高志、久元祐子
マイスターミュージックの音の秘密が、世界に数十ペアしかない、スウェーデンのデトリック・デ・ゲアール氏の手作りになる、特殊な銅を使用した「エテルナ・ムジカ(永遠の音楽)」マイク(周波数帯域:8Hz - 200KHz)」での録音だ。その最新作が、NHK交響楽団の元第2ヴァイオリン首席の永峰高志と日本人で唯一のベーゼンドルファー・アーティスト、久元祐子が組んだ、『ロマンス ~ヨアヒムの愛器でヨアヒムを聴く~』。ヨアヒムは19世紀の大ヴァイオリニスト。ブラームスがヴァイオリン協奏曲の作曲の際に助言し、1879年、ライプツィヒでの世界初演演奏も自ら行っている。本アルバムは、そのヨアヒム愛用のストラディヴァリウス、その名も「Joachim」 (1723年製作)で演奏される。
実にアナログ的で、ヒューマンな香りに満つる。滑らかな音の表面の下層には、無限の階調をもった音の素粒子が充填されているような音構造だ。長いフレーズから醸し出される滔々たる音の流れは、まさに耳の滋養だ。「ロマンス」のタイトル名にふさわしい艶艶したテクスチャー。ファンタジーに包まれるような心地好い臨場感だ。エテルナ・ムジカによる録音は、このヴァイオリンのキャラクターを活かし、ふくよかで、血の通ったサウンドを見事に捉えている。会場の響きが適度に入り、ピアノのソノリティも輝かしい。響きの厚みと共に、ピアノ、ヴァイオリンの明晰さも同時に収録されているのは楽器と奏者、ホール、そして録音の各要素が成せる技。ベーゼンドルファー・インペリアの低音の豊潤さと雄大さも聴きどころだ。2020年2月13日14日、浦安コンサートホールで、384kHz/24bitの、いわゆるDXDでリニアPCM録音された。
FLAC:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit
マイスターミュージック、e-onkyo music
『ハープ・リサイタル5 ~その多彩な響きと音楽II』
吉野直子
吉野直子の自主レーベル“grazioso”第5弾。ハープの魅力を存分に引き出す作品を集めた。ハープ独奏はハイレゾに似合う。音域の広さ、撥音の繊細さ、直接音と間接音のバランス……など、ハイレゾでなければ出せない味わいが、本アルバムの醍醐味だ。ひじょうに繊細な音から、強靭な音までのダイナミックレンジと表現性が広く、響きが豊潤だ。でも過剰なほどではなく、明確に捉えられている直接音にて、クリヤーに聴ける。グリッサンドの美しさと、旋律の美しさが相俟って、華麗で繊細な音世界が演じられる。「10.リスト:ため息」では息苦しいようなロマンの香りに包まれる。2019年9月&10月、軽井沢の小ホールで名技師、峰尾昌男氏が録音。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
graziozo、e-onkyo music
『Franz Schubert Piano Quintet in Amajor D.667 Trout』
Juho Quintet
これまで日本国内で、ハイレゾ/イマーシブサラウンド(立体サラウンド)のアルバム制作を行ってきたUNAMAS Labelが遂に海外進出。昨年7月に、フィンランドのヘルシンキはシベリウスホールでのシューベルトの「鱒」五重奏曲のイマーシブ録音を敢行した。UNAMAS Labelは従来、軽井沢の大賀ホールにて、2013年から毎年一作のペースでハイレゾ/イマーシブサラウンドのクラシック録音を続けてきた。そこで得たイマーシブ環境でのマイキング、DAW、機材、電源……のノウハウを集大成して臨んだのが、今回のフィンランド・プロジェクトだった。
筆者は本作品のライナーノーツを書かせて戴いた関係で、2チャンネル版だけでなく、イマーシブサラウンド版も聴いた。7.1.4(平面7・1CH+ハイト4CH+サブウーファー1CH)に展開したイマーシブサラウンドを聴くと、まさに自分が舞台の上に居て、前方からピアノ、その左横にヴァイオリン、右横にビオラ、後方左にチェロ、後方右にコントラバス---と円形に展開した奏者たちの中央で、聴いている---逆にいうとリスナーを円周状に奏者が囲んでいる、目眩く感覚が得られた。しかも眼前での、その楽器からのストレートなダイレクトサウンドというより、会場の響きがたっぷりと含まれた、美しくも豊潤なソノリティが聴けたのである。
ここでは2チャンネル版のインプレッションを記す。実にナチュラルで、高品位なサウンドだ。UNAMAS Labelらしい高解像度にして伶俐、そして音場情報がひじょうに豊かな「鱒」だ。本来はイマーシブサラウンドで聴くのがレコーディング的にも正しい音場再生だが、2チャンネルのハイレゾでも、豊かなソノリティと、各楽器の解像度の高さが、十分に分かる。特にピアノの音が立っている。明確で、明解なピアノサウンドだ。一般的な「鱒」録音では、弦楽器とのバランスを考慮して、蓋を半開きにするところを、イマーシブサラウンドを考慮して全開にしたということだ。サラウンドの各チャンネルに楽器を配置しているので、ピアノは明瞭に録音したかったという。本録音の特に素晴らしい点は、音の立ち上がりが俊敏で、鋭いところ。それはUNAMAS Labelが大賀ホールで何作も録音して得たノウハウだろう。e-onkyo musicには5.1チャンネル版も用意されている。
FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
5.1ch FLAC:192kHz/24bit
5.1ch WAV:192kHz/24bit
5.1ch Dolby HD:192kHz/24bit
UNAMAS、e-onkyo music
『RoundAgain』
Joshua Redman、Brad Mehldau、Christian McBride & Brian Blade
現在のジャズ・シーンを牽引するサックス奏者のジョシュア・レッドマン、ピアニストのブラッド・メルドー、ベーシストのクリスチャン・マクブライド、ドラマーのブライアン・ブレイドのカルテット。彼らは実は90年代前半の若者時代にコンボを組んでいた。1994年にはアルバム「MoodSwing」を発表。それから26年後に再び、集結したのが本ニューアルバムだ。
「1.Undertow」はセンターのブラッド・メルドーの印象的なつま弾き的フレーズから始まり、ジョシュア・レッドマンのサックスが左チャンネルで参加、センターのピアノが美しいタッチを聴かせる。「2.Moe Honk」ではブラッド・メルドーの熱きピアノが聴き物だ。楽器の音像は大きく、ボディ感はしっかりとしている。安定したベースの低音感の上に載った各奏者間のインタープレイが聴きどころだ。録音は器量が大きく、堂々としたもの。Nonesuchらしい、ナチュラルにして、熱い音だ。2019年9月、ニューヨークのSear Sound Studio Cで録音。
FLAC:96kHz/24bit、MQA studio:96kHz/24bit
Nonesuch、e-onkyo music
『東京交響楽団 Live from Muza!’’ モーツァルト・マチネ 第 40回』
金子三勇士、原田慶太楼、東京交響楽団
コロナにより世界中で、音楽のステージ実演がストップ。しかし、ファンになんとか音楽を届けたいという思いから、クラシックからポップス、J-POPに至るまで、あらゆるジャンルの音楽ライブが無料、もしくは有料で配信(音楽&映像)され始めた。この流れはリモートワークのように、コロナ後も定番の音楽鑑賞手段として定着するに違いない。自宅で世界中のステージライブが楽しめる、新しい音楽メディアの誕生と言っても過言ではない。
3月8日にミューザ川崎シンフォニーホールで開催された東京交響楽団の無観客コンサート配信の受信者は、事前の予想を遙かに上回り、約10万人にも達し、3万件を超えるコメントも寄せられた。あまりに反響が大きいので、その後、ハイレゾ配信、CD制作と急ピッチで進行した。その第2弾が、今回の3月14日 の「モーツァルト・マチネ 第40回」。これも“ニコニコ生放送”にて生中継された。
各声部が明瞭であるのと同時に、音場的な声部の間の距離感や遠近感、空気感も生々しく捉えられている。観客がいない大会場ならではの響きの豊かさが捉えられ、同時にその空気感もとても透明だ。音色もカラフルで、各楽器でさまざまな色彩感が聴ける。ソノリティの豊かさと、細部までの音の明瞭さが両立した名録音といえよう。3月8日の第一回より、個個のパートの音のディテール、明瞭度、舞台上の奥行き感、そして音の粒立ち、伸び……など、かなり向上している。考えてみると、この録音が演奏を届ける唯一の手段であり、そうであるから相当、力が入ったことが分かる音だ。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、2.8MHz/1bit
EXTON、e-onkyo music
『Rough and Rowdy Ways』
Bob Dylan
ボブ・ディラン 8年振りのニュー・アルバム 『ラフ&ロウディ・ウェイズ』。初の全米シングル・チャート1位を記録した約17分の大作「最も卑劣な殺人」(Murder Most Foul)に加え、ノーベル文学賞受賞後初となる新曲全10曲を収録している。
「10.Murder Most Foul」。センターの大きな音像でボブ・デュランが定位する。しっかりとした輪郭感を持ち、音像の中味も緻密だ。ピアノやボンゴ、チェロ……などさまざまな楽器が伴奏に加わっているが、それらは、背景に溶け込み、明瞭な音像を持たない。それと対照的にボブ・デュランは、実に明確でサイズの大きい音像だ。「1.I Contain Multitudes」も同様だ。「2.False Prophet」は、ヴォーカルとバンドが対等な存在感を持つ。
FLAC:96kHz/24bit
Columbia、e-onkyo music
『LOST 2 (96kHz/24bit)』
マシュー・ロー
ポップスとクラシックの両手を掛けるマシュー・ロー。ドビュッシーを中心としたピアノ曲集『Melange(メランジェ)』は2020年7月に配信され、『LOST2』はポップアルバムだ。素晴らしい才能の燦めきを感じさせる歌であり、ピアノだ。「1.Portable Sunshine」はテンションの張り方、硬質な声質の輝き、俊敏の音進行など……聴きどころが多い。「2.Want Money」は高域にピークを持たせるイコライジングで、裏声も交えた声の伸びもいい。「3.(Can't) Take This」はポップなブルース。声は快調だ。高域の音の張りが快感的。ポップアルバムだが、クラシックも得意というマシュー・ローの今後が楽しみ。音もとても良い。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
日本コロムビア、e-onkyo music
『ヘンデル:合奏協奏曲 作品6より第7番~第12番』
ベルリン古楽アカデミー、ベルンハルト・フォルク
名人集団ベルリン古楽アカデミーが、PENTATONEレーベルからリリースしたヘンデルの合奏協奏曲だ。このソノリティの厚さ、音のしなやかさ、音のカラフルさは、まさにPENTATONEの音だ。「合奏協奏曲第7番 変ロ長調 作品6-7 HWV 325 第2楽章:アレグロ」を聴く。冒頭の第1ヴァイオリンのテーマが、響きが豊かな会場に拡散し、直ぐにカノン的な同旋律を別声部がフォローするバッセージでは、会場の響きの豊潤さ、声部ごとの重奏感が聴ける。声部が複数になっても個個が聞き分けられる、響きの解像度の高さ。奏された音が、教会の広い空間に解き放たれ、カラフルな音の粒子となって飛び散る有様はまさに、音場の美だ。バランス&レコーディング・エンジニアのジャン=マリー・ヘイセン(ポリヒムニア・インターナショナル)の名技だ。2019年2月、ベルリン・ニコデマス教会でセッション録音。
FLAC:96kHz/24bit
PENTATONE、e-onkyo music
『Dvořák: Symphony No. 7, Op. 70 & Legends, Op. 59』
John Barbirolli
2020年7月29日はイギリスの大指揮者、ジョン・バルビローリの没50周年。それを記念して全録音がソニーミュージックとワーナーミュージックでハイレゾリマスターされ、ディスクでリリースされている。ワーナー版は旧EMIとPYEが制作したバルビローリのすべての録音作品の109枚組だ。 LPで最初にリリースされたすべての録音はオリジナル・マスターテープから、78回転SP時代の録音は入手可能な最高のソースから、すべてを192kHz/24bitリマスターされた。本ハイレゾはここで作成された。1943年に音楽監督に就任し、27年間関係を持ったマンチェスターのハレ管弦楽団とのドボルザーク。
1957-1958年録音のハイレゾンリマスターだがら、歴史的な古さはそれなりに感じるが、この時代ならではのアナログ的な質感と、緻密感、すべらかな表面性……など、現代に聴いても、実に説得力のある音であり、演奏だ。交響曲第七番冒頭の緊迫感、それとは対照的な第3楽章のラブリーな付点旋律も楽しい。巨匠ならではの濃密な音楽性が聴ける。1957-1958年録音。マンチェスターのフリートレードホールで録音。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
MQA Studio:192kHz/24bit
Warner Classics、e-onkyo music
『Just Coolin'』
Art Blakey & The Jazz Messengers
2019年10月に生誕100周年を迎えたアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの未発表スタジオ録音を含む、モダンジャズ黄金期の発掘アルバム。「3.Jimerick」、「4.Quick Trick」が初お披露目だ。残りの4曲は本作の録音から5週間後の1959年4月15日、バードランドでのライヴで、すでに『アット・ザ・ジャズ・コーナー・オブ・ザ・ワールド Vol. 1 & 2』に収録されている。
左のリー・モーガンのトランペット、右のハンク・モブレーのテナーサックスがまさにステレオ音場を成す。ハイレゾでのリマスターだが、きれいにまとめるのではなく、50年代後期の音が、その時に生まれた音として新鮮に甦った。温度感が高く、この時代のモダンジャズに熱気を今に伝えてくれる。発掘音源の「3.Jimerick」の中央右よりのボビー・ティモンズのピアノの名技。これほどの名演奏がこれまで未発売だったとは信じられない。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
MQA:192kHz/24bit
Blue Note Records、e-onkyo music
訂正とお詫び:ご指摘により、内容を一部改めました。(2020年8月16日)
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