「心疾患に対するオンライン管理型心臓リハビリテーション医療機器」の承認に向けた医師主導治験を開始
リハビリでの遠隔医療に進展 在宅心臓リハビリシステムの医師主導治験を国内初で実施
2020年07月27日 08時00分更新
大阪大学 大学院医学系研究科 循環器内科学の坂田泰史教授らによる研究グループは、心疾患の治療に有効とされる心臓リハビリテーションを在宅で行なえる「心疾患に対するオンライン管理型心臓リハビリテーション医療機器(通称:RH-01)」の承認に向けた医師主導治験を開始することを発表した。リハビリ領域における遠隔医療としては国内初の医師主導治験となる。機器の開発や患者宅への設営は、大阪大学発の医療スタートアップの株式会社リモハブが担当する。
治験で使用する機器「RH-01」は「遠隔心臓リハビリシステム“リモハブ”」と名付けられ、患者の負荷状態をモニタリングする「アプリ」を搭載したタブレット、心電波形を取得する「ウェアラブル心電計」、運動量を計測するIoTを搭載した「スマートバイク」で構成される。リハビリを行なう患者の状態をタブレットの画面とシステムの両方でモニタリングしながら、専門医や理学療法士がリアルタイムに問診、指導することで適切な運動負荷量が調整できるのがポイントだ。
再入院率を約4割下げる効果があるリハビリだが、
通院が継続の大きな壁になっている
本治験は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施する、アカデミアにおける基礎研究成果を用いた革新的な医療機器および医療機器プログラムの研究開発を行ない、産学官連携により実用化を目指す事業「医療機器開発推進研究事業」からの支援を受けて2019年にスタートした。
坂田教授の説明によると、日本人の年間総死亡数の15.2%にあたる約120万人が心疾患を原因としており、全体の第2位を占めている。再入院率も年35%と比較的高く、その場合の入院期間は約30日間、1回の入院費用は約120万円かかるという。
再入院を減らす方法としては、投薬や食事制限、栄養管理、適切なタイミングでのカテーテル手術などがあるが、昨今注目されているのが、患者の心肺機能を改善する「心臓リハビリテーション」である。専門医や理学療法士のもとで適切な運動を行うもので、再入院率を約4割下げる効果があると報告されている。
しかし、急性心不全で入院した5万人の患者を調査したところ、実施率はわずか7%で、入院中も33%程度に留まり、60%はまったく行なっていなかったという。坂田教授は「医療機関側のスタッフ不足、設備が無いこと、施設基準を取得していないなどの要因もあるが、『通院が難しい』『高齢のため疲れる』など患者側の理由も大きいことがわかった。自宅でリハビリができる機器があれば実施率が上がり、指導医不足といった問題も解消できる」と述べる。
治験を行なう前に在宅運動療法を必要とする高齢の心不全患者を対象にしたパイロットスタディも実施されている。70代から90代の男女10人(登録は11人)に週3回、3ヵ月利用してもらったところ、リハビリに適切とされる6分間で歩行できる距離が約50mアップした。この結果を元に今回、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験届を提出した。
医療機関と在宅をつなぐハブ・システムを目指す
今回の治験ではリハビリに力を入れている全国8施設を通じて心疾患患者の自宅に機器を設置し、機器の有効性と安全性検証する。狭心症、開心術後など心不全以外も含む全体で128例の患者を対象に、通院と在宅の両方でリハビリを行ない、それぞれ6分間歩行距離の運動量の変化を決められたプロトコルに基づいて調査する。
坂田教授は「コロナの影響で予定が遅れているが、来年中ごろまでに治験を終えて2~3年先には製品化を目指したい」と話す。価格は在宅医療機器としてレンタルでの提供を想定し、価格はこれから検討するという。
発表会場では治験に使用する機器やモニタリングに使用するアプリも紹介された。バイクとタブレットは別々に設置でき、イスは患者自身が使いやすいものを用意する。ウェアラブル心電計やタブレットの設置などは既製品を使用し、リハビリの効果測定に集中するため、あえて機器の特徴を出さないよう設計されている。
自身も循環器内科専門医で、週に一度は臨床を行なっているというリモハブ代表取締役社長の谷口達典氏は「トレッドミルや自転車などいろいろなタイプの機器があり効果も異なるが、イスに座って漕ぐエクササイズタイプのバイクを選んだのは安全性重視のため。実用化する際には部屋に置いて違和感がないようにするなど機器全体のデザインを変更するよう準備を進めている」と説明する。
アプリからのモニタリングデータは病院側にだけ見えるようにし、患者側は指導医の顔だけが見えるようにしているが、この点についても治験を参照にしながら変更する。
谷口氏は「今回のシステムは在宅でのリハビリを対象にしているが、会社としては服薬管理や患者指導など遠隔診療を行なうなど、医療機関と在宅を繋ぐハブ・システムの開発を目指している」と話す。
患者の状態がわかるリモート医療機器は遠隔診療の質を高めたり、医者不足を解消するのに効果があると期待されており、コロナの影響もあってこれから開発が進むと見られている。また、今のところは在宅がメインだがニーズ次第で規制緩和が進み、フィットネスジムや公共施設などに機器を設置して診療が受けられるようになるかもしれない。今回の治験の結果が遠隔医療の後押しになるのか、今後動きに注目していきたい。