年次イベント「SUSECON 2020」開催、開発者向けのデリバリ基盤、AIソリューション計画など発表
独立企業をアピールするSUSE新CEO、マイクロソフトとの提携も強化
2020年05月25日 07時00分更新
独SUSE Software Solutions(SUSE、スーゼ)は5月20日、年次イベント「SUSECON 2020」をオンラインで開催した。商用Linuxディストリビューション市場で競合関係にあるRed Hatが米IBM傘下となったことを受け、基調講演を行ったSUSE新CEOのメリッサ・ディドナート氏はSUSEの「独立性」を強調、最新の取り組みを紹介した。
SUSEの独立性の高さは「協業するパートナーにもメリットをもたらす」と強調
SUSECONは「SUSE Linux Enterprise Server(SLES)」で知られるSUSEの年次イベントだ。当初は3月にアイルランド・ダブリンで開催される予定だったが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受けて、オンラインイベント「SUSECON Digital」に切り替えて開催された。
2019年7月にCEOに就任したディドナート氏は、基調講演でSUSEの独立性を強調した。SUSEは1992年にドイツの開発者が創業し、その後Novell、Attachmateを経てMicroFocus傘下になり、2019年3月にMicroFocusが投資会社に売却したことで、ふたたび独立企業の立場に戻った。
「(現在のSUSEは)オープンソースのイノベーションが持つパワーを信じる投資家の支援を受けており、自分たちの方向性を自分たちで決めることができる。ベンダーロックインなしに、コアからエッジまでノンストップのITインフラ運用を支援するソリューションがある」(ディドナート氏)
さらにSUSEの独立性の高さは、協業するパートナーにもメリットをもたらすと強調する。あらゆるITスタックとの組み合わせが可能であり、販売と実装、統合が容易にできると述べる。
デジタルトランスフォーメーションに向けた「簡素化/モダナイズ/加速」を推進
今回のSUSECONのキーワードは「簡素化/モダナイズ/加速」だった。もちろんその根底にあるのは、あらゆる企業を取り巻く「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の潮流だ。データやアプリケーションの簡素化と最適化、そして既存アプリケーションのモダナイズを通じて「データ主導の意思決定」を可能にし、ビジネスのスピードを加速、拡張していくという狙いである。
SUSEが独立調査会社に委託して対象に行った調査によると、企業ITリーダーの10人中9人が「アプリケーションデリバリーのモダン化が、今後24カ月間における投資の優先事項」だと回答。さらに、同じく10人中9人が「新しいアプリケーションとアップデートの迅速な提供によってアジリティ(俊敏性)が改善する」、10人中8人が「アプリケーションデリバリーのサイクルを高速化させたい」と回答したという。
こうしたアプリケーションデリバリーの課題に対応するものとして、ディドナート氏はまず、SUSEの核心となる開発者向けの取り組みから紹介した。
SUSEは今年4月、開発者コミュニティ「SUSE Developer Community」をローンチしている。ここで提供するのが、開発プラットフォームの「Cloud Foundry」とKubernetesを統合したアプリケーションデリバリー機能「SUSE Cloud Application Platform」のサンドボックス機能(「SUSE Cloud Application Platform Developer Sandbox」)だ。
これを利用することで、開発者はクラウドネイティブアプリを開発するような感覚で開発し、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドなどで動かすことができるという。ディドナート氏は「サーバー設定などの作業は不要であり、開発者はアプリケーションロジックだけにフォーカスできる」と説明する。
さらに、2020年第3四半期には新たにAIソリューションも提供するという。これはAIアプリケーションの開発を支援するもので、「データサイエンティストとITオペレーションチームの両方にメリットがあるサービスになる」とディドナート氏は説明する。
マイクロソフトやデルテクノロジーズとのパートナーシップを強調
3つのキーワードの1つめ「簡素化」については、同社 エンジニアリング&イノベーション担当プレジデントのトーマス・ディジアコーモ(Thomas Di Giacomo)氏が、SAPのアプリケーションを例にとって説明した。
SUSEは同じドイツ企業であるSAP向けのLinuxディストリビューションで約7割のシェアを誇る。そして、SUSEとマイクロソフトの提携により「Microsoft Azure上に構築した大規模なSAP向けインスタンスを利用して、既存のSAPインプリメンテーションをAzureに移行できる」と説明する。もうひとつ、数年前から提供しているライブパッチ機能(「SUSE Linux Enterprise Live Patching」)によって、システム稼働中でも脆弱性を修正するパッチを適用できると紹介した。
2つめのキーワードである「モダナイズ」領域でも、SUSEはSUSECON徳前にマイクロソフトとの協業を発表している。その1つが、マイクロソフトのハイブリッド/マルチクラウド統合管理ツール「Azure Arc」とSUSEソリューション(SLES、SUSE CaaS Platform)との連携だ。この連携によって、ハイブリッドクラウドインフラでアプリケーションやデータの管理が容易になるという。ディジアコーモ氏はそのメリットを、「マイクロソフトとSUSEの共同顧客は、自社データセンターやパブリッククラウドなど分散したIT環境に対して単一の運用環境を持つことができる」ことだと説明した。
マイクロソフトとの提携強化ではこのほかにも、Azure Marketplace経由で「SUSE Cloud Application Platform」を提供することも発表している。これは、サブスクリプション持ち込み型(BYOS)で利用可能だという。
パートナー関連ではデルテクノロジーズとの協業にも触れた。エッジや組み込みコンピューティングの分野で、デルのハードウェアとの機能統合を進めているという。
エッジ領域では今回の会期中、自動車組み込みソフトウェアメーカーの独エレクトロビット オートモーティブと自動車向けLinuxで提携したことも発表している。SUSEからはミッションクリティカルなLinux/コンテナ技術を提供し、「両社が共同で、業界初の安全性の高いLinuxを開発する」とディドナート氏は説明する。
「SUSEはLinux、Kubernetesなどのオープンソースソリューションを使ったITスタックを提供する。顧客企業はこれを利用して簡素化と標準化を進めることで、ITの管理を改善でき、セキュリティや可用性を強化し、さらにはコストも下げられる。SUSEは“ノンストップIT”を現実のものにする」(ディドナート氏)