このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

STARTUP×知財戦略 第62回

「RINK FESTIVAL 2020」セッションレポート

バイオ系スタートアップは「発明の低性能化」を目指すべき 最先端特許戦略ディスカッション

2020年03月27日 09時30分更新

文● 松下典子 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●平原克彦

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

バイオ系スタートアップが広い特許にチャレンジすべき理由

 後半は、森田氏と大門氏が「広い特許にチャレンジすべき理由」「ビジネスに適した特許にするには」「他社権利への対応」の3つのトピックについて議論した。

進士氏(以下、敬称略):一括りにバイオ系といってもいろいろ分野があります。どのようなときに広い特許にチャレンジすべきなのでしょうか?

大門氏(以下、敬称略):抗体医薬は製品だから広い特許は難しいと考えるかもしれませんが、ノーベル賞を受賞された本庶教授は「オプジーボ」の製品特許を取る前に、「抗PD-1抗体によるがん治療法」という広い概念特許を取っています。バイオ系では概念特許を取れる可能性があることをスタートアップの方は強く意識したほうがいい。適切な先生に相談することを心がけていれば、広い特許を取れるチャンスはあります。核酸医薬でもターゲットが決まると製品のコンセプトが見えてくるでしょう。

進士:狭い特許が必要な部分がありつつも、チャンスがあれば広い特許を狙うべき、ということですね。

森田氏(以下、敬称略):最初の特許は、生命科学の原理が明らかになったアカデミアの段階で出ます。論文発表前の段階で、いかに特許戦略に注力し、広い概念特許を取得できるかが課題ですね。ただ、広い特許だけではダメで、自社製品を守るための狭い製品の権利も必要です。広い範囲の概念特許は先発との戦いのための特許と位置付け、狭い権利の製品の特許は後発との戦いのための特許と位置づけて、両方をやっていくといいでしょう。

進士:大学での研究では広い特許を取るように叩き込まれますが、製薬企業では製品を守るための狭い特許を取ると聞いています。今回は、また広い特許を取ったほうがいいとのことで、混乱しそうです。この違いをもう少し説明していただけますか。

大門:旧来型の製薬会社なら、製品が守れる、狭い特許でもいいと思います。しかしスタートアップの場合は事情が異なり、概念特許にチャレンジしていることは潜在的な競合他社を排除することができますので資金調達の強みになります。

ビジネスに適した特許にするには

森田:概念特許はアカデミアで生まれることが多いですが、大学内でビジネスを考えられる人材は限られています。現在、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の橋渡し研究戦略的推進プログラムで、ビジネス、薬事、特許を考えられる人材を集約し、さまざまなサポートを受けられる仕組みを全国10拠点につくっていますので、ぜひこうした場所を活用してほしいと思います。

大門:それでも大学には限界もあります。最終的にビジネスを目指すのであれば、外部に相談できる相手を求めたほうがいいと思います。VCから紹介してもらうのもお勧めです。

進士:特許庁では、いろいろな分野のスタートアップ支援をしていますが、バイオ医療分野のVCは知財に理解があるように感じます。

森田:バイオの医薬品開発の知財の重要性については、VCは一般的なレベルでは理解していても、専門的なことになるとVCだけでは難しいと思います。いい専門家を見つけて、ビジネスと結びつく特許戦略を立てていかないと、なかなか強い特許にはならないでしょうね。

大門:一概には言えないのですが、一般に金融系のVCは、あまり知財を意識していない印象があります。それに対して、海外の案件にも投資しているVCは、知財の重要性をよく理解していますので、予算規模も含めて話が通じやすい。VCもいろいろですね。

他社権利への対応

進士:先ほどの森田先生の解説では、バイオ系では他社特許を踏まないことのほうが珍しい、というお話がありましたが、実際に他社の権利を踏んでいてもビジネスを成功させた事例はありますか。

森田:米国のスタートアップは特許係争をしながら、FDA(米食品医薬品局)承認をする事例が出てきています。サレプタ・セラピューティックス社は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬を上市したのですが、FDA承認を得る前からバイオマリン・ファーマシューティカルズと特許係争しており、FDA承認が得られて半年後に、ようやくライセンス交渉が成立しています。しかも、興味深いのは、バイオマリン社が持っていた特許は自社で取得した権利ではなく、もともとほかから買った特許であり、買い取った特許を用いてライセンスで大きなビジネスを成立させたというわけです。このように、買い取った特許を用いてビジネスをすることも米国では珍しくありません。ライセンスにより自社は開発リスクを負うことなく、ライセンス収入を得ることができるという利点があったと思われます。これからは特許をツールとしてうまく活用する、よりタフなビジネスが求められるのかもしれません。

進士:大門先生は日米の訴訟経験がおありですが、権利侵害に対する考え方が日米の製薬企業では違うのでしょうか?

大門:アメリカ人は知財をビジネスゲームのツールとしてうまく活用している気がします。日本人は生真面目で、時間がかかっても特許権侵害を避けようとするあまりに権利範囲外の劣った技術を採用しようとします。しかし、それがイノベーションを遅らせている部分もあるように思います。最短最良のでビジネスにするためにはライセンスを受けるのも手です。交渉が進められるように、知財・法務の専門家を自社内またはチーム内に置くことも今後は必要になってくるでしょう。

■関連サイト

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事
ピックアップ