麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第47回
そして、この連載の楽曲は、ミュージックバードでも聴けます!
いま聞くならこのハイレゾ音源! 久石譲の「春の祭典」からガルパンまで麻倉先生推薦盤
2020年03月11日 16時01分更新
評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
●麻倉先生から、皆様にお知らせ
~この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!
私の新番組のお知らせ。高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、この4月から「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」がスタートする。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。
ASCIIの連載と連動し、タイトルもこの連載と同じだ。(共同通信社のサイト時代を含めて)これまでの5年間で600作品以上をレビュー、紹介してきたが、私が選び、インプレッションを書いた記事の楽曲をぜひ聴いていただきたいと思い立って、番組を始める運びとなった。e-onkyo musicの祐成秀信氏と二人で番組をお送りする。4月5日の第1回放送をお楽しみに!
『American Standard』
James Taylor
ジェイムス・テイラーの5年ぶりの新作だ。キャリア50年、72歳にして初めてアメリカン・スタンダードに取り組んだ。彼の音楽性と人間性とスタンダードの音楽的なリソース、コンセプトがまさに完全合致しているのが素晴らしい。
ジェイムス・テイラーの声質がグロッシーで、ちょっとした懐かしさもあり、過去名曲とよく似合う。「1.My Blue Heaven」のスゥイングヴァイオリンとの共演は榎本健一を彷彿させる愉しさ。「2.Moon River」のちょっとした訛り調の語りもいい。「5.Almost Like Being In Love」のバックコーラスとの掛け合いもラブリー、アコースティックギターの響きも素敵だ。「12.Ol' Man River」の自身も72歳のOLDMAN)だから、共感して歌える。「13.It's Only A Paper Moon」のしっとりとしたテンポで、朗々と歌う。バックコーラスとのハモリもとてもきれい。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Fantasy、e-onkyo music
『薬師丸ひろ子 2019コンサート (Live at Bunkamura Orchard Hall on October 26, 2019)』
薬師丸ひろ子
2019年10月26日の東京Bunkamuraオーチャードホール公演のライブ収録だが、音調はひじょうに明瞭だ。薬師丸ひろ子のワン・アンド・オンリーの艶艶した声質が、クリヤーに捉えられている。「1.野の花」の優しさ、潤い感、「10.時代」のしなやかな突き上げ感、「16.探偵物語」「17.セーラー服と機関銃」のバンドを睥睨するような器量感……、薬師丸の魅力的な声のディテールが十全に収録され、同時にライブならではのノリのよさも感じられた。
薬師丸の音色は、とろけるように甘い。テレビ朝日は土曜の午前番組「食彩の王国」では、朝からあまりのまろやかで、潤いのある声にうっとりしてしまう。艶がたっぷり乗っているが、決して色気過剰ではなく、健康的なメローさが特徴だ。加えて、音の表面のグロッシーさだけでなく、声の密度が高く、その内部にもまろやかな声質が充填されている。エッジが濡れて、キラメキと光沢感が耳に心地良い。flac 48kHz/24bitでも十分楽しめたが、さらに高いパラメーターでも聴きたかった。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Fantasy、e-onkyo music
『Mahler: Symphony No. 4』
Otto Klemperer、Elisabeth Schwarzkopf
20世紀の大巨匠、クレンペラーはマーラーを特別に尊敬していた。22歳の時、マーラーの交響曲第2番『復活』を彼がピアノ版に編曲した楽譜をマーラーが見て、感心。プラハのドイツ歌劇場への推薦状を書き、見事、クレンペラーはその地位を獲得したというエピソードがある。
そんなクレンペラーが振るマーラーは遅いテンポで、表現と表情が緻密で濃密だ。今の時代では考えられない。第1楽章冒頭の鈴のゆったりとしたテンポ、フルートの美しく深い響き、第1ヴァイオリンの一音一音の表情づけ、ホルンの悠然さ……には、音符を一つ一つ噛みしめた深みと暖かみがある。その後のソロヴァイオリンやソロホルン、ソロフルートの夢見るような濃い表情、第2楽章の弦のポルタメントも絶品だ。第4楽章、エリーザベト・シュヴァルツコップのソプラノの神々しさ。
ハイレゾへのリマスタリングもそんな演奏の深い意味合いを活かしたもの。明瞭度が高く、空気感が濃い。音の重なりもクリヤー。ステージングが明確だ。手前の弦だけでなく、奥に居る木管、金管が距離感を持ちながら明瞭に"見える"。第2楽章のソロヴァイオリンの浮かび上がり方も華麗だ。1961年10月6-8, 10&25日、ロンドン、キングズウェイ・ホールで録音。このホールの響きは暖かく、すがすがしい。96kHz/24bitへのデジタル・リマスタリングは、2012年、アビイロード・スタジオにて。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Fantasy、e-onkyo music
『ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」』
久石譲、東京交響楽団
久石譲といえば「ジブリの……」が前置詞だが、最近はクラシック音楽のライブ作品を続々リリースしている。フューチャー・オーケストラ・クラシックス(ナガノ・チェンバー・オーケストラ)を振ったベートーヴェン:交響曲全集は、「ベートーヴェンは、ロックだ!」とのコンセプトと推進力と活力に溢れた演奏で、話題を呼んだ。
本アルバムの説明文に「ストラヴィンスキーの複雑なリズムとハーモニーを、作曲家である久石ならではの視点で緻密に解析」とあるが、私はそれは表現での「野性」さ、アンサンブルでのメイン楽器だけではなく、主旋律を支える副旋律やハーモニーも明瞭に描きだすことと、聴いた。
「大地礼賛 序奏」では異様なほどのバスーンが強調され、「春のきざし - 乙女たちの踊り」は速いテンポで、弦が野蛮で荒々しい。リズムの輪郭を強調した野性的な鋭角感が特異だ。「春の踊り」のトゥッティの咆吼の野性感、不協和音の凄み、ティンパニの恐怖感が凄い。「大地の踊り」の金管のおどろおどろしい疾走感、猛り立つリズム、強烈な不協和音……。
録音は響きが透明で、各楽器の分離感も優秀だ。オクタビア録音は音場のなかにあるオーケストラというステージングが多いが、本アルバムではストラヴィンスキーのスコアを微視し、各楽器、パート、特に木管楽器の描写がひじょうに明解だ。弦にも「肉迫」という形容がふさわしく、オンマイクで迫る。まさにオーケストラは各楽器、パートの集合体であるとの原則が、音で描かれる。2019年6月3~4日、サントリーホールでライヴ収録。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:2.8MHz/1bit
EXTON、e-onkyo music
『アルプス交響曲 ~トラップ一家のその後~』
マスターズ・ブラス・ナゴヤ、鈴木竜哉
『アルプス交響曲 ~トラップ一家のその後~』とは、なかなか洒落た切り口だ。もしもアルプス交響曲の登山者がトラップ一家だったとしたら?というユニークな発想で企画されたという。映画「サウンド・オブ・ミュージック」は雄大な山々の描写で始まり、山を越えスイスに逃げるトラップ一家のヘリコブター撮影で終わる(ザルツブルグからスイスは本当は行けないが)が、そのエッセンスが冒頭の3曲「R.ロジャース: サウンド・オブ・ミュージック(長生淳編)」に、込められている。
マスターズ・ブラス・ナゴヤは東海地区のオーケストラ奏者、音楽大学講師、フリーランス奏者によって構成される、2016年に結成された吹奏楽団。本アルバムは、2019年4月28日に愛知県芸術劇場コンサートホールで行われた第4回定期演奏会のライブ録音だ。
「R.ロジャース: サウンド・オブ・ミュージック(長生淳編)」はマーラーの交響曲 第1番の第2楽章が「一人ぼっちの山羊飼い」に変わる愉快な編曲。「ドレミの歌」はサンバのリズムで。まるでリオのカーニバルみたい。フィナーレの「すべての山に登れ」では、「アルプス交響曲」の「日の出」のモチーフが出る。そのR.シュトラウス: アルプス交響曲。「夜」の変ロ短調の暗い夜の動機が、次の「日の出」でイ長調の歓喜と感動の太陽の動機に変わる転調技には、衝撃!以外に形容の言葉が、ない。
ライブ収録だが、素晴らしい解像度、ホール感、音色感だ。透明度が高く、ホール録音ならではの響きのクリヤーさ、響きの臨場感も愉しい。
FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
Master Brass Nagoya、e-onkyo music
『Ravel & Debussy: Works (Live)』
Nobuyuki Tsujii
ウィーンの名門「トーンキュンストラー管弦楽団」の自主レーベル「トーンキュンストラー・オーケストラ」からの新譜だ。ウィーンのムジークフェライン・ザールでのライブ収録。このホールならではのソノリティの豊潤さ、暖かくクリヤーな響きと、細部への描写力が両立している。オーケストラは細部まで明瞭だが、ラヴェルのピアノ協奏曲ではピアノの音像はややスケールが小さく、まるでオーケストラの一員のような控えめな存在感。
一方、ピアノ抜きの「ボレロ」、「ダフニスとクロエ」のオーケストラ作品の音は一変し、ひじょうに鮮明で、高解像度。ムジークフェライン・ザールらしいグロッシーさを残しながら、ディテールにどこまで迫れるかに挑戦したと聴けた。
FLAC:48kHz/24bit
Tonkunstler Orchestra、e-onkyo music
「ガールズ&パンツァー」の音楽を作曲者の浜口史郎が全六楽章に再構築した交響曲。 ガルパンのストーリーを濃く感じられるよう、提示部~展開部~再現部という交響曲のソナタ形式に倣って選曲し、「戦車道行進曲」を循環動機のように全体に配置し、全曲の統一感を追求した。演奏はチェコ・フィルハーモニー管弦楽団のメンバー、プラハのドヴォルザーク・ホールで収録。指揮はチェコの作曲家・指揮者のAdam Klemens氏。
さすが日本が世界に誇るコンテンツならではの、ゴージャス制作だ。音調はアニメ的ではなく、正統的なクラシック調。各楽器、各パートのバランスがよく、ドボルザークホールのソノリティもきれいに収録されている。響きも厚い。音楽も旋律とハーモニーが豊かなので、初めて触れる人にも違和感はまったくないだろう。ハイレゾ的にはビットは32bitなのに、サンプリング周波数が96kHzというのは、少しもったいない感も。
FLAC:96kHz/24bit
WAV:96kHz/32bit、96kHz/32bit
Lantis、e-onkyo music
『LUX』
Nidarosdomens jentekor & TrondheimSolistene, Anita Brevik
以前にもこの欄で紹介したことのある作品だが、今年の第62回グラミー賞:プロダクション・イマーシヴ・オーディオ部門「最優秀イマーシヴ・オーディオ・アルバム賞」の受賞を祝い再度、採り上げよう。
ハイレゾの元祖ノルウエー2Lは、ソノリティ豊かな音場録音をレーゾンデートルとしている。最新技術にも積極的に取り組み、DSD11.2MHz、MQACD、MQAファイル、Auro-3Dなど、2Lがいち早く手掛けてから、人口に膾炙するようになったフォーマットは数多い。
『LUX』とは「光」のこと。トロンハイム大聖堂所属のニーダロス大聖堂少女合唱団が、イギリス生まれでノルウェーで活動する作曲家、アンドルー・スミス Andrew Smith(1970~)に委嘱した作品。 少女合唱に管楽器とオルガンを加えたレクイエムだ。
実に素晴らしい音響だ。カノンの輪唱が、教会の広い会場に広がり、音の重なりが、さまざまな文様になり、空気を震わせていく。オルガンの低音のオスティナート(音型反復)に乗り、少女合唱団の透明で無垢な声が、空中を幾重に交わりながら飛翔する。サックスと合唱の絡みが、不思議な音色感を引き出す。響きの深さ、空気の透明感、弱音の美しさ、音色の多彩さは、まさに2lならではワン・アンド・オンリーの音響世界だ。2017年10月、2018年5月、ニーダロス大聖堂にてDXD(24bit/352.8kHz)録音。
FLAC:352.8kHz/24bit、176.4kHz/24bit、88.2kHz/24bit
DSF:11.2MHz/24bit、5.6MHz/24bit、2.8MHz/24bit
MQA Studio:352.8kHz/24bit
5.1ch(FLAC、WAV、Dolby HD):192kHz/24bit、96kHz/24bit
2L、e-onkyo music
『素敵な出逢い~Precious encounters~』
石塚まみ
「ピアニスト&ボーカリストである石塚まみが、音楽と共に歩んできた50年を振り返り、ピアノがもたらしてくれた“素敵な出逢い”への感謝を込めて紡いだ、珠玉のメロディ集」と本アルバムの解説にある。エンジニア・高田英男+ディレクター・苫米地義久という豪華陣による制作だ。「1.Shadows in morning light」のピアノは燦めき感と質感がよい。実際のピアノ調律から始まるワルツ、「2.ピアノ調律師(Two piano tuners)」は、こじゃれたフランスの小唄みたい。「10.夕間暮れのうた(Yumagure no Uta ~ an evening song ~)」では暖かく、懐かしい歌声が聴ける。「11.素敵な出逢い~Precious encounters~」、アコースティックギターとピアノとのデュオ。アルバム全体は落ち着いた大人らしい音調だ。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
Studio Master Sound、e-onkyo music
『ZARD Forever Best ~25th Anniversary~』
ZARD
今だ人気の高いZARD のハイレゾ・リマスター。ハーフインチのアナログマスターテープを、96kHz/24bitでデジタルに変換した。Philewebのエンジニア・インタビューによると、当初48kHz/24bitだったが、途中で96kHz/24bitに変更したという。また、96kHz/24bitだと高域方向の情報が増え、全体的なバランスが高域方向に行くので、低域を補強することで、“ロックっぽさ”を出したとしている。
「18.揺れる想い」はキラキラした、メタリックサウンド。坂井泉水の声の力感と透明感が体感され、突きぬけ力に溢れる。「16.君がいない」は切れ味が鮮明で、くっきりとした質感。「52.負けないで」も、エネルギー全開だ。ヴォーカルとバックの関係でいうと、ヴォーカルはそれほど輪郭的に浮き上がらず、バンドとミックス的にバランスしている。あたかも対等の関係のようだ。もっとヴォーカルの明瞭度を上げるミックスも欲しい気がした。「51.あなたを感じていたい」はドラムの活躍が聴きどころ。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
B-Gram RECORDS、e-onkyo music
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