ワークスペースという『コト』づくりにデータをフル活用、日本MS「IoT in Action Tokyo」講演
オフィス家具のオカムラ「IoTでオフィスと社員の関係を進化させる」
2020年02月10日 07時00分更新
日本マイクロソフト(日本MS)は2020年2月6日、東京・有明でプライベートイベント「IoT in Action Tokyo」を開催した。「インテリジェントエッジ(デバイス)」と「インテリジェントクラウド」を連携させたマイクロソフトの最新ソリューションをはじめ、パートナーエコシステムの取り組みや、顧客企業における先進的なIoT事例などが紹介された。
IoT in Actionは2017年から開催されているグローバルイベントで、今年は世界33都市、参加者1万人以上の規模となった。日本での開催は今年で3回目となる。
同日午前の基調講演では、オフィス家具メーカーのオカムラが登壇し、新しい“オフィス家具のIoTサービスモデル”である「OKAMURA Office IoT構想」を紹介した。
オフィス家具にセンサーを内蔵、データを収集する「OKAMURA Office IoT構想」
OKAMURA Office IoT構想は、オフィス家具などから収集したIoTデータに基づいてオフィスのファシリティ管理や働き方改革支援を実現するサービスだ。新しい顧客サービスの実現と同時に、収集したデータ活用によってオカムラの営業力、製品力、提案力の強化も可能にする狙い。オカムラでは、実証実験を経て2021年のサービスリリースを予定している。
具体的には、オカムラ製のオフィス家具にサトー製センサーを搭載し、オフィス家具の設置場所や使用頻度、ワーカー(従業員)の着座/離席や移動、さらにオフィス空間の温度や湿度、照度、騒音といったデータを収集する。このデータをMicrosoft Azureクラウドに蓄積/分析することで、さまざまな価値提案を可能にしていく。
たとえば座席単位/部屋単位/テナント単位でのオフィス使用状況を可視化して、使用状況に応じたレイアウト変更や、オフィス家具の消耗度合いの把握などを可能にする。ほかにも会議室の占有率、フリーアドレススペースの拡散率などを分析し、適正な会議室の大きさや部屋数の配分見直しといったことを可能にする。この実データに基づくファシリティ管理によって、企業のファシリティコスト適正化や戦略的なファシリティ投資の実現、さらにはより効果的なオフィス家具の配置提案、消耗度合いに基づくメンテナンス対応も行えるという。
オカムラ マーケティング本部 DX推進室 室長の遅野井 宏氏によると、センサー搭載はまずオフィスチェアからスタートする予定。センサーはオフィス家具の生産過程で組み込む前提だが、すでに流通/導入済みの家具や他社製家具にも対応するために「外付けのセンシングユニット」も用意する予定。そのほか、電源確保(バッテリーレス技術の採用含む)、通信対応、家具デザインを損なわないセンサーサイズなども検討していく。
“オフィスからワークプレイスへ”の価値転換と「コトづくり」メーカーへの変革
オカムラ 上席執行役員 マーケティング本部長の荒川和巳氏は、「オカムラは2018年に岡村製作所から社名を変更し、モノづくりの会社から『ソリューションを提案する会社』へと転換を図っている。OKAMURA Office IoT構想は、その取り組みのひとつになる」と説明した。
ソリューション提案の会社への転換を図る背景として、荒川氏は、「働く場」に対する企業や社会の捉え方の変化を指摘する。
「従来のオフィスは『事務作業を行う部屋』という考え方だったが、ワークプレイスは『仕事をする場』と位置づけられる。これからはITやデバイスの進化、働き方の進化によって、このワークプレイスという考え方が広がっていくことになる。魅力的で効率的、かつ創造性を発揮できる場という要素が必要になる」(荒川氏)
こうした“オフィスからワークプレイスへ”という価値観の変化に伴って、オカムラ自身のビジネスにも大きな変革が求められることになる。
「オフィス家具づくりは『モノの売り切りビジネス』であり、売ったら終わりだった。しかし、ワークプレイスづくりはそれとは異なり、生産性向上や健康を含めた働き心地への配慮も必要だ。ITを駆使した『コト』の提案になる」(荒川氏)
その実現のためには、IoTの活用が欠かせないという。遅野井氏は、企業のオフィス管理部門がオフィスの実態や状況を把握できておらず、経営層もワーカーのための戦略的投資対象として捉えにくいのが現状だと指摘。さらにオカムラ自身も、オフィス利用の実態がわからないために「手探りの提案にならざるを得なかった」と語る。こうした現状を、IoT活用による「オフィスのデジタルツイン化」で打破するのがOKAMURA Office IoT構想の狙いだ。
さらに将来的には、社員のスケジュールデータに基づいて仕事内容を把握し、たとえば「資料作成のために集中したい」といった場合に、AIがサポートして集中可能な部屋を推奨するようなサービスにもつなげたいと述べた。
「オフィスの状況を可視化することで、人の働き方にフォーカスでき、経営者や管理部門は、オフィス家具や空間に対する戦略的投資や、戦略的意思決定が可能になる」「将来的には、オフィスが社員のパフォーマンスを最大限に発揮できるようにサポートする。オフィスと社員の関係性が進化することになる」(遅野井氏)
蓄積したオフィスデータでコンサルティング型ビジネスも目指す
前述したとおり、オフィス家具やオフィス空間に設置されたセンサーから収集されるデータは、Microsoft Azure上に蓄積される。このデータを、機械学習技術も用いて分析/予測に活用する。
Azureを採用した理由について、遅野井氏は「セキュアな環境を実現していること、IoTサービスが続々と追加されていること、『Office 365』と連携していること、デジタルコミュニケーションのプラットフォームにも統合されていること」などのメリットを挙げた。
収集したデータはプライバシーを守りながら蓄積するが、同時に、同じ規模/業界/成長段階にある企業の事例に基づき提案を行う「コンサルティング型ビジネス」への進化も視野に入れているという。
さらには“オフィスのAPI化”にも乗り出す考えを示した。オフィス家具のセンサーデータだけでなく、入退出管理や空調、照明、複合機など他社製品とも接続してデータを収集することで、オフィス管理だけでなくヘルスケア分野など幅広い領域へのサービス展開を目指すという。
オカムラでは2020年春から、東京・丸の内のコワーキングスペース「point 0 marunouchi」において、OKAMURA Office IoT構想の実証実験を開始する計画だ。この実証実験を通じて、精度の高いデータの収集方法やデータの活用、可視化に関する知見を蓄積していく。このコワーキングスペースにはダイキン工業やパナソニックも参加しており、空調や照明との連携についても実証を行う。
現時点では、OKAMURA Office IoT構想の具体的なビジネスモデルについては最終決定していないが、実証実験の成果をふまえて、2021年からサービスを開始する見込みだという。遅野井氏は、日本ではまだ同種のサービスは存在しないが「今後、オフィス家具のIoT活用はスタンダードになっていくと想定している」と述べ、業界に先駆けて新たなオフィスを提案していきたいとまとめた。
なお、日本マイクロソフトのIoT in Actionは今後、大阪・梅田クリスタルホールでも2020年3月11日に開催される。