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アマゾン×アップル×グーグルがZigbee Allianceと組むIoT規格プロジェクト「CHIP」とはなにか

2019年12月19日 19時58分更新

文● 西田宗千佳 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

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アップルのニュースルームより

 アマゾン、アップル、グーグルという大手が関わる大きなプレスリリースが、日本時間12月18日深夜に出された。Zigbee Allianceの中に、この3社と関連企業がワーキンググループを作り、IoT機器の相互接続を簡素化する「Connected Home over IP」規格の開発を進める、と発表したのだ。

 これはどういう意味を持っていて、どんな世界がやってくるのか? 現状分かることは少ないが、解説してみよう。

今は「無線通信」だけじゃないZigbee Alliance

 そもそも、今回3社が組んだZigbee Allianceとはどんな団体なのだろうか? 簡単にいえば、「IoTのためのオープンスタンダードな技術規格を定める業界団体のひとつ」だ。

 Zigbeeといえば、その名前にもなっている無線通信規格を思い浮かべる人もいるだろう。一般に「Zigbee」とだけ言えばそちらのことを指す。Zigbeeは800MHz・900MHz・2.4GHzなど複数の電波帯を使う「短距離無線通信規格」であり、家電をワイヤレスでコントロールすることを目的としたものだ。通信速度が百数十kbps程度までと遅いかわりに消費電力が低いのが特徴だ。

 Zigbeeを使った機器は意外とたくさんあるのだが、一番わかりやすいのはフィリップスのLED電球「Hue」だろうか。アマゾンのスマートスピーカー「Echo Plus」も対応している。対応機器同士は無線接続し、相互コントロールができる。

 「なんか今だと、Wi-FiやBluetoothでもできるような気がする」━━そう思った人は鋭い。今も消費電力や互換性、実装の容易さなどの利点はあるのだが、低消費電力での接続など、過去にはZigbeeでなければできなかったことは、他の通信手段でもできるようになってきているのが実情だ。

 Zigbee Allianceも元々は無線通信方式であるZigbeeのみを扱う団体だったが、現在は複数のIoTに関わる規格を扱う団体となっている。

「プラットフォームへの各個対応」を不要にするために共通規格を開発

 実は、今回の「Connected Home over IP」(CHIP)規格も、無線通信規格であるZigbeeとは直接関係がない。それどころか、最初の実装例はWi-Fi(802.11ax)とBluetooth Low Energyといった規格を軸に、「IPプロトコル」を使ってホームネットワーク機器を相互接続するための規格になる。

 具体的になにをするか? それを考えるには、今のホームネットワーク機器がどのような状況にあるかを考えてみるのが近道だ。

 現在のホームネットワーク機器は、Wi-Fiなどで家庭内LANに接続され、そこから音声アシスタントやスマートスピーカーなどを、一種のゲートウエイとして操作するようになっている。機器に直接命令を与えるのではなく、書くプラットフォーマーが作る機器から、家電を操作するフレームワークを介して操作するわけだ。そうではない場合、独自の操作アプリをスマホなどに入れて使うことになる。これは確かに不便だ。

 独自アプリは他社機器との連携が難しいので論外として、各プラットフォームのフレームワークに依存することは、やはり問題がある。「どの機器がどのプラットフォームに対応しているか」を確認しないと購入できないからだ。開発する側も、各社の細かな仕様に合わせた対応が必要になるため、効率が良くない。

 とはいえ現実的には、多くのスマートホーム機器が「Amazon・Google・Apple対応」として売られている現状もある。どの企業も求める機能は似ており、複数社のフレームワークに対応することは難しくはない。ただ、サポート業務やアップデートを考えると明らかにマイナスである。

 そこで各社は、スマートホーム機器を作る側の企業とも協力した上で、各社のプラットフォームで利用出来る機器の規格を統一することにしたわけだ。その結果はオープンな形で公開されるため、広く多くの企業が利用できるようになる。

 そうするとメーカーが機器の開発をするのも楽になるし、消費者が機器を選ぶのも楽になる。違いを吸収するような方向で知見を出し合うことになるから、進化も進む。セキュリティ対策も一本化しやすくなってプラスになる、要はそういうことなのである。

 では、これで各社のスマートホーム・プラットフォームの使い勝手が同じになるのか? それは違う。

 少なくとも公開された文書を読む限り、統一されるのはIPベースでの接続性なので、「音声で使った時にどの音声アシスタントで使うのがスムーズか」「アプリ上でどう連動するのか」といった部分は、当然各プラットフォームが独自に差別化する部分になる。また、決められたプロトコルを家電側がどう使うかも、家電メーカーが工夫する領域だ。

 互換性がなくなるのか、というとそれもない。プロトコルをアップデートしていくことでサポートは可能だから、「すでに利用している機器が使えなくなることはなく、継続サポートする」とアマゾン、アップル、グーグル、はコメントしている。既存のフレームワークに対し新規格が補完的に働くことで、問題なく使えるようになるだろう。


西田 宗千佳(にしだ むねちか)

西田 宗千佳氏

 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。 得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬 SAPプロジェクトの苦闘」(KADOKAWA)などがある。


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