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docomo MOBILE EVOLUTION 2019

働き方改革を推し進める3つのセミナー講演とソリューション展示

2019年11月11日 14時30分更新

文● BookLOUD 根本

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イノベーションをデザインする
~センシングデータ流通市場が創る未来~

 3つ目のセミナーの講師はオムロンソフトウェア株式会社の代表取締役社長やドコモ・ヘルスケア株式会社の代表取締役社長を歴任し、現在はオムロン株式会社のインキュベーションセンタ長と京都大学経営管理大学院客員教授を兼任している竹林一氏である。竹林氏の講演はイノベーションとそれを生み出す人材と組織をテーマにしている。

 まず竹林氏は「イノベーションとは何か?」と聴衆に問いかけた。これがわからないと、イノベーションを生み出そうと思っても生み出すことができないが、きちんとした定義をしていない企業も少なくない。ある企業では新規事業を立ち上げることであるし、別の企業では社内構造を変えろという話だったりする。これをきちんと定義してから進めないと、反対勢力の抵抗にあってつぶされてしまうといったことも起こりかねない。

 オムロンでは、これを「ソーシャルニーズの創造(社会的課題の解決)」と定義した。オムロン社内では、イノベーションを起こしたかどうかは社会的課題を解決したかどうかで評価され、製品も社会的課題を解決するために開発される。

 例えばオムロンは1960年代に信号機を開発・製造していた。これは単に赤や青のランプを点滅するだけのものではなく、地中のセンサーと連動して自動車の流れを見て、信号の制御を行っていた。すなわち、交通渋滞や交通事故を減らすという社会的課題の解決のための製品であった。

 1967年に開発した自動改札機も駅員の方々を切符切りという労働から解放するという目的のために開発した。磁気カードによる自動改札機は、2000年には東京圏のすべての鉄道路線をつなぎ、1枚のカードで乗り継いでいけるようになった。

 そしてそれをさらにイノベーションしたのが自動改札機を活用した新たなサービスである。これは磁気カードによる自動改札機が一番儲かっているときに、当時のトップから「これから駅が変わっていくから何か考えろ」と指示を受けて検討を開始したもの。いろんなアイデアを持って行ったが、トップからは枝葉を検討するのではなく新しい幹(軸)を考えろと言われた。

 そこで視点を変えて生み出した世界観が「駅は街への入り口」というものだった。それまで駅は鉄道への入り口であったが、それを安心・安全・快適な街への入り口という視点に切り替えた。これにより、事前登録したユーザー情報と鉄道カードによる位置や時間の情報を組み合わせて、ユーザーに情報を提供するアウトプットのサービスが生まれた。その一つに、子供の見守りサービス(改札を通ったらメールが発信されるサービス)がある。

 オムロンはもともとハードの会社で、サービスは作っていなかった。例えば血圧計は作っていても、そこで得られたデータを使ったサービスなどは提供していなかった。しかし、血圧のデータと気温のデータを掛け合わせると、そこに相関関係があることがわかった。そうすると、血圧とエアコンの設定温度を少し上げる、といったサービスが考えられる。

 オムロンはそれまで獲得したユーザーデータを自社内でのみ活用していたが、気温・室温・エアコンの設定温度のような社外のデータと組み合わせると、新たな価値を生み出す。そこでセンシングデータ流通市場というアイデアが出てきた。イノベーションは業界のはざまを超えたところに出てくるのではないか、そういう危機意識があり、2017年に一般社団法人 データ流通推進協議会を作った。

 自動運転と信号機を組み合わせたら、新しいソリューションが生まれるかもしれない。協議会には自動車メーカーも保険会社も入っており、データを流通させることにより、いろんな企業がいろんな儲け方をしていくことができるのではないかと考えている。オムロンでは良いセンサーを安く売るというところから、その先にある新しい世界観のデザインを進めている。

 イノベーションを起こすには新しい仕組みを考える人材が必要であるとして、竹林氏は「起承転結」人材モデルを提唱している。「起」は0から1を生み出す人材、いわばイノベーションのトリガーを引く人材と言えよう。「承」は「起」が見つけたコンセプトを受けてビジネスのグランドデザイン描く人である。ここで事業の肝、儲けどころが見えてくる。そして「転」の人材がそのグランドデザインを分析して事業計画に落とす。最後に「結」の人材がきっちりオペレーションを実行する。

 ここで重要なのは、起承と転結ではマネージメントスタイルが違うということ。ソフトウェア開発でいうなら、転結は失敗が許されない安定性重視の開発を行うモードであり、ウォーターフォール型の開発手法が適している。一方で起承はスピード重視で時代の変化にいち早く対応する開発を行うモードで、アジャイル型の開発手法が適している。これら二つのモードを共存させることにより、初めてイノベーションは生まれる。

 とかくイノベーションというと起承に目が向きがちであるが、転結なくして起承を結実させることはできない。そのために竹林氏はイノベーションをクリエーション(起承)とオペレーション(転結)という2つのパートに分け、いずれもがイノベーションを生み出すために不可欠なものと再定義した。

 これら2つのパートが相互に活用しあい、コラボレーションして新しい世界観を作っていく状態に持っていくことがイノベーションを生み出す組織を作るカギであると述べた。

 オムロンのイノベーションの定義が、他社を巻き込んだイノベーションの種火となっていると感じた。データの取得・活用は日本が遅れている分野でもあり、それが業種の垣根を超えた協議会活動により、大きな炎となることを望む。

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