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人気のロシア製「老け顔アプリ」は危険か?

2019年07月22日 13時12分更新

文● Karen Hao

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クチコミで広がっている写真編集アプリ「フェイスアップ(FaceApp)」が所有する巨大な「顔データベース」を使ってできることは多い。

人工知能(AI)を使って顔写真に修正を加えられるフェイスアップが、ここのところ大きな話題を集めている。フェイスアップは2017年から出回っているが、年老いた顔に加工できる機能が追加されたことで、一気にブレイクした。ところが、フェイスアップがロシアに拠点を置くワイヤレス・ラボ(Wireless Lab)が所有しているという事実が、人々を驚かせている。

複数の報道によると、フェイスアップはリリース以来、1億5000万人以上の顔写真を収集してきたという。利用規約によると、ワイヤレス・ラボは写真をどのような用途にでも使用できるとしている(しかも、永久に)。ワイヤレス・ラボはすでに、大半の画像はアップロードから48時間以内にサーバーから削除され、データを第三者と共有することはないとの声明を出している。にもかかわらず、米民主党に所属する下院議員らは現在、ワイヤレス・ラボに対する米国連邦捜査局(FBI)の調査を要請中だ。また、ユーザーからは自分の顔写真が将来、顔認識による追跡に利用されるのではないか? と懸念する声も上がっている。

仮にフェイスアップが収集した写真を、ユーザーがアップロードした意図を超えた目的で使うと想定してみよう。実際に、ワイヤレス・ラボには何ができるのだろうか? ユーザーの顔を顔認識アルゴリズムの訓練のために利用するとは考えにくい。顔認識には識別情報が必要だが、フェイスアップに自分の名前をはじめとする識別情報を提供しているユーザーは少ないからだ。1枚の写真から特定の個人を認識することを学習するのは技術的には不可能ではないが、その精度は低い。さらに、対象となる特定の個人の写真は、ソーシャルメディアのプロフィール写真やオンライン写真共有サイト「フリッカー(Flickr)」のアップロード写真を入手する方がはるかに簡単なのだ。

だが、巨大な顔データベースを利用する方法はほかにもある。そのいくつかの例を挙げてみよう。

顔修正
おそらく最も明らかな用途は、フェイスアップ自身のアルゴリズムの改良だろう。顔画像を微調整したり、変化させたりするフェイスアップの機能は、すでに大量の顔写真を使って訓練したニューラル・ネットワークに基づいている。ワイヤレス・ラボが機能を調整するために、より多くの画像を供給し続けるのは理にかなっている。こういったデータベースはまた、将来の新しい顔修正機能の開発にも役立つ。

顔分析
顔認識は特定の個人を識別するが、顔分析は性別や年齢などからその人の特徴を予測する機能だ。商用の顔分析システムの多くは、フェイスアップが保持していると見られるデータベースとよく似たオープンソースのデータベースで訓練されている。

顔検出
顔検出とは、ある写真の中に顔があるかどうか、あるとしたらその場所はどこかを識別する機能だ。ここでもまた、より多くの顔写真を使うことで機能を開発したり改良したりできる。

ディープフェイク生成
最後に、顔データベースが存在しない人の顔の生成に使われるケースだ。このケースでは数多くの問題が浮上する。たとえば、偽物の顔の生成は、すでにスパイが偽装した身分の顔画像の作成に使っている

顔データベースの利用はプライバシーに関する大きな懸念を引き起こすものの、顔写真多くの人が投稿した動画のオープンソースのデータベースがすでに多数存在していることにも注目すべきだ。そこにはあなたが映っている写真や動画が含まれているかもしれないし、含まれていないかもしれない。

インターネットの公共メディアからかき集めて作られたこうしたデータベースは長らく、AI研究の基礎となってきた。たとえフェイスアップが独自に集めた画像を保持していなかったとしても、ほかにもデータベースの選択肢は数え切れないほどあるのだ。そしてこの話の要点は、むしろそこにあるかもしれない。フェイスアップは、私たちが自分自身に関するデジタル・データの管理能力をいかに失ってしまったかという事実を、単に浮き彫りにしただけなのだ。

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