運営事務局の油井氏に「ダメ出し」「気づき」を与えるパネル
さくら小笠原氏、CAMPFIRE東窪氏がMark MEIZAN運営のモヤモヤを断つ
2019年03月26日 11時00分更新
鹿児島の「Mark MEIZAN(マークメイザン)」のオープニングイベントで行なわれた「鹿児島の事実を知り未来をつくる」というパネルディスカッション。Mark MEIZAN運営事務局の油井 佑樹氏をモデレーターに、さくらインターネット フェローで京都造形芸術大学 情報デザイン科の小笠原 治氏とCAMPFIREの東窪 公志氏が鹿児島の課題をどう解決していくべきかを語り合った。鹿児島の現状や課題、解決のために向かうべき方向性から見直す激論をダイジェストでお届けする。(以下、敬称略)
ハコを作ってもそこに核となる人がいなければプレイヤーは集まらない
油井:鹿児島やマークメイザンを、プレイヤーが来る街、プレイヤーが来る施設にするにはどうしたらいいのかというテーマで、語っていきたいと思います。どこから話しましょうか。
東窪:マークメイザンって、何なんですか?
油井:マークメイザンは、クリエイティブ産業創出拠点施設です。私たちがクリエイティブ産業として定義しているのは2つあって、1つは既存のものの価値を再定義して新しい価値を与える産業。もう1つはゼロから新しい常識をつくるような企業、スタートアップです。点在するコミュニティや経済圏をつないで、プレイヤー同士の交流を活性化することを目標にしています。一番大きな課題は、プレイヤーの数をどう増やすかということだと考えています。
東窪:クリエイティブ産業のプレイヤーには、既存の社会課題などを解く人と、新しい課題を発見して皆に問う人がいますが、どっちですか? 鹿児島にいて欲しいのはアーティストなのか、デザイナーなのか。
油井:全方位、どっちも含めて考えています。
東窪:出た、全方位。
小笠原:それ「混ぜるな危険」ですよ。
油井:どちらかに絞った方がいいということですか?
小笠原:すでにある課題を解決することにチャレンジする人と、新たな課題を見つけることにチャレンジする人っていうのは、思考が全然違うのでかみ合わないんですよ。同じ施策が通じません。
油井:それはおふたりの東京での経験から得られた知見ですか? 東窪さんは東京カーネルパニック、小笠原さんはDMM.makeなどコワーキングスペースに携わった経験をお持ちですが、そこも意図して人を集めたのでしょうか。
東窪:どっちかというと、課題を発見する側の人の方が見つけにくいですね。さらにその人たちに投資するとか、その人たちを主役にするというのは、賭けと言っていいくらいのリスクが伴います。ただ小笠原さんの場合は、彼自身がインフルエンサーなんだと思います。たとえば堀江さんみたいな知名度はないけど、そういう人たちの傍らにいて影響を与え続けています。小笠原さんがやっていたawabarに、まだ成功していない人たちが集まってくる傾向があったのも、インフルエンサーである小笠原がやっていたからだと思います。そして、彼らはプロブレムファインダーでした。
油井:なるほど、小笠原さん自身が問題を発見するようなタイプであって、かつ人を集めるタイプの人だから、問題を発見する人が集まったっていう話ですか。
東窪:私はそう考えています。
小笠原:すごくシンプルな話で、表に出るのってすごくしんどいんですよ。知名度なんていらない。いやあった方が楽なのはわかっています。何を言うかより誰が言うかで判断されることって多いので。でもやっぱり本当は何を言うかが大事っていうところに持っていきたいので、僕の意見を増幅してくれるような人の近くにいるっていうのもよくありますね。
油井:逆に東窪さんがやってた東京カーネルパニックでは、どういう感じで人が集まってたんですか?
東窪:場所をつくると、作った人に組織の形が似るんですよ。カーネルパニックも自分に似ていたと思います。ギーク性が強いエンジニアで、サブカルのノリもあって。その両極端をバリューに感じてきていた人が多かったのは間違いありませんね。コワーキングという言葉もなかった頃ですが、半ば住み込んで、寝泊まりしながらTwitterの開発をしているアメリカ人がいたり、シリコンバレー的な熱狂的で集中的なもの作りの場になっていました。
小笠原:それってやはり東窪さんがいたからそうなったんですよね。ハコモノで終わるところには、やっぱり人もいないんだと思います。特に行政が作るハコモノって、人事で担当者が変わりますよね。始めた人がどれだけ熱意を持っていても、次の人がそうとは限りません。そういう意味では民と一緒にやって、そこに必ずいるような人を作るといいかもしれません。別にいま無名の人でもよくて、ここにいて、ここに来る人を全員知っているみたいな人がいると変わると思います。
コミュニティが先かプレイヤーが先か、地方都市はどちらを優先すべきか
油井:東京でのおふたりの経験談をうかがったので、場所を九州に移して福岡について聞きたいと思います。Fukuoka Growth Nextなど福岡市がスタートアップを強烈にプッシュしていて、いま日本で新しいものが生まれる都市といえば福岡を挙げる人がすくなくありません。Fukuoka Growth Nextができて、人が集まる流れができて、20社70億円くらいの資金調達も生まれています。今度はロールモデルができて、じゃあ自分たちもチャレンジしようという流れになっていくと思いますが、どうして福岡がそうできたのか、おふたりの印象を聞かせてください。
小笠原:福岡市でスタートアップ都市宣言を行なったのが、2012年。当時、市長になったばかりの高島市長と孫さんと一緒に、スタートアップが生まれやすい都市にするって宣言して、それからもう7年もかかっているんです。ものすごく時間がかかるし、それを続ける熱量、意識みたいなものが続かない限りは難しいです。行政でそれを実現できているのは、首長である高島市長自身がずっと言い続けているからですね。だからこういう場に呼んでいただいたりすると、言うことは実はひとつしかないんです。本当にやり続けますか?と。
油井:福岡をスタートアップで盛り上げるためにこういうことをやろう、という施策のようなものがあってスタートアップ都市宣言をしたんですか? それとも福岡でコミュニケーションを取る中で結果的に後からスタートアップというストーリーがついてきたんでしょうか。
小笠原:福岡にはもともと「明星和楽」というイベントを中心にしたコミュニティがあって、コミュニティの作用として、いろいろなことは起こりました。でも私たちがそういうところまで考えていた訳ではありませんね。コミュニティってよく使われる言葉だけど、実際よくわからないものですよね。同じテーマで集まればコミュニティなのかとか、よくわからないんだけど、やっぱり情報の伝達が心地よく行なわれたり、同じような方向性に共感したりするというのは、人が集まるための必要条件だと思います。そういうものができつつあった時期だったというのが、福岡が成功した要因のひとつでしょうね。
油井:鹿児島ではプレーヤーを集めるところから始めなければいけないと思っているんですが、コミュニティがあるからプレイヤーが集まるのか、それともプレイヤー同士をつなげる人がいるから集まってくるのか、どっちなんでしょうか。
小笠原:求心力のある人がいたら、その周りに人が集まりますよね。だからそういうプレイヤーがもし鹿児島にいるなら、その周りにプレイヤーを集める施策をすればいいし、その人を知らしめていけばコミュニティができるでしょう。そういう人がまだいないんだとしたら、外からプレイヤーに来てもらうための施策をするしかないでしょう。
油井:今はプレイヤーがいないので、まずはパートナーを増やしたいと思っています。パートナーが増えて、結果的にコミュニティも増えて横断的交流が生まれて、そこからやっとプレイヤーが増えるようになるのかなと。そのプレイヤーの中からロールモデルが生まれて、それを支援するパートナーが増えて、というサイクルのエコシステムを理想として目指しています。
小笠原:順番が逆じゃないかな。プレイヤーが増えてコミュニティができて、その周りにパートナー集まってきて、結果として、あとから見たらロールモデルに見える人がプレイヤーの中から出てくるのでは。今はプレイヤーがいないというのを前提にするなら、コミュニティーからスタートでもいいと思うんですよ。何かを目指している人、たとえば鹿児島を世界に誇れるような都市にしたいという意志のある人が、日々、人とコミュニケーションを取る。その結果としてコミュニティができて、そこからプレーヤーが生まれるという場合もあります。ですが今、そんなプレイヤーが鹿児島にいますか?
油井:今の話を聞いて、そもそも母数が増えなきゃロールモデル生まれないんじゃないかみたいな勝手な思い込みがあったなと気づきました。支援する人が増えたらチャレンジする人も増えるだろうと思っていたんですけど、鹿児島以外にもパートナーがたくさんいて似たような支援をしている都市はありますし。だったらもう母数からロールモデルを生むよりも、ロールモデルになってもらうために尖りきっている少数精鋭の人を戦略的にターゲティングして引っ張ってきた方がいいということでしょうか。今回のイベントみたいに尖った人をスポットで呼ぶ場を作るのはマークメイザンとしてできると思いますが、スポットでいるのと、そういう人たちが常時いるのではだいぶ違いますよね。
小笠原:そうですね。スポットで来るのは、有名な人がお客さんで来るだけでしょう。それよりも、その場所に行けば必ずいるという人は必要で、それは別に誰でもいいんじゃないでしょうか。この場所からたとえば鹿児島をどうしたいという明確な意志さえ持っていれば。
油井:運営側でも、来た人を知っていて、ちゃんとつなぐ人がいないといけないなと知る人が居ないといけないとは考えています。運営側だけじゃなくて、ずっとこの施設に通っている人がそういうことをやってもいいとは思っていますが。
小笠原:何をやるかだけではなくて、それが何に結びつくかという計算が立つかどうかも大事です。たとえば私がやっているawabarは、立ち飲み屋です。立ち飲み屋で3杯目を頼む人は少ないんですよ。でも「そういえばこの前こういう話をしてましたね、あの人はそういう方面に詳しいですよ」って紹介すると、50%以上の人が3杯目を頼みます。それだけで客単価が1.5倍から2倍程度も変わるんですよ。つまりawabarでは人を紹介してネットワークを作っていくことが、商売上大事だということです。スタートアップ支援施設ではありませんので。
東窪:出会いがすべてであって場所が重要ではないのだっていうくらい振り切ってしまってもいいかもしれませんね。出会いやマッチングがうまく行ったらお返しをいただくモデルで運営している場所もあるし、そういうことは成功傾向にあります。
小笠原:たとえばこういうイベントも無料ではなく、満足度合いや感謝度合いで課金したらどうですか?イベントがよかったかどうかを売上で判断できるようになりますよ。
まちとして、住民として多様な幸福を追うことができるまちが理想
油井:鹿児島に来てくれるゲストに対して何を提供できるのかという課題も抱えています。Fukuoka Growth Nextをやっている福岡でも鹿児島でも、来てもらった人たちに本当に満足を提供できているのかという不安はあります。今回はおふたりが来てくださって本当にありがたいんですけど、じゃ次に来るかっていうと、何が必要なんでしょうか。
東窪:その回答として逆質問をしていいですか。鹿児島に来るようになった人の中には、ぶっちゃけ「油井さんが鹿児島鹿児島って言ってるから来るようになった」って人が少なくないと思うんです。油井さんのようなインフルエンシャリティのある人が、なぜそんなに鹿児島にこだわるんだろうという疑問があるから、そこに興味を惹かれて来ているという部分も大きいんですよね。
油井:ユニマルさんというスタートアップがあって、さくらインターネットとGMOペパボさんを巻き込んで、鹿児島の人と交流するうちに自分の器が大きくなっていく感覚を実感したんですよね。短期的な利益だけを見る人が圧倒的に少なくて、派閥ができにくいというか、鹿児島にはムラ感を感じないんです。寛容でいてくれてなおかつ、ここままじゃ駄目なんだという課題感も強く持っているというか。
小笠原:今のだけ聞くと、鹿児島はもうそのままでいいんじゃないかと思ってしまうけど、それでも何かを目指さないといけない、もっと何かある可能性を感じてるっていうことですか?
東窪:そうですよね。鹿児島はもう幸福度が高いんじゃないかという気がしてきました。
油井:今やっと何か壁にぶち当たった感覚があるんです。僕が鹿児島で活動を始めた2014年には、鹿児島の人たちはやりたいことを明確に次のフェーズとして見ていました。そのフェーズに行くにさくらインターネットとしてできること、油井としてできることがあるなと思って、それを積み重ねてきたんですよ。県外からゲストを呼んでイベントをやりたいというところから始まって、動員数も100人、200人と増えていって。
当時は場がなかったから、次のステップとしてユニマルさんと一緒に「さくらハウス」という場も作りました。そこで限界を感じ始めたところに、鹿児島市さんが場作りの提案を公募していると知って、これなら自分たちだけではできなかったことを、行政と一緒にできるのではないかと思ってこの施設を作りました。今まではスポットでイベントをやっていましたが、この施設に人が集まって鹿児島にこんな人がいるんだっていうロールモデルを生むところまでやらなきゃいけないなと考えると、次の壁はめちゃくちゃ高いなと。
小笠原:その方向に成長したいのなら、外からプレイヤーを連れてくるよりプレイヤーになってくれる人を生み出さないと、今の話は活きてきませんよね。
油井:そうですね。でも一方で、自分たちでやっていく限界も感じているんですよね。
東窪:方向性の問題もありますよね。街として肥大して税収を大きくしたいのか、それとも幸福度のバランスが取れたコミュニティで、それぞれもの作りにコミットした人たちのコミュニティを作りたいのか。バランスが取れていてコミュニケーションが快活で、その中から自分たちがやりたいことをやる人がどんどん出てくる方が、世界的に見ても未来的じゃないかと思います。
小笠原:幸福度でもいいし、プライベートでの幸福度以上に楽しいことも仕事や自分の取り組みの中にあったりしますよね。それを取捨選択できる多様性を持つ方向に行くのがいいのかなと思うんですけどね。
油井:いろいろとお話をうかがってもう時間も過ぎてしまいましたが、まだ話し足りないし今日のゲストの方々にはぜひまた鹿児島に来て欲しいと思っています。マークメイザンにもう1回来て頂くために、こんなマークメイザンになってほしいという期待があれば一言ずつお聞かせください。
東窪:隣の芝を見れば福岡はスタートアップだとか東京もうまくいってるぞとか感じるのかもしれませんが、聞いてみれば鹿児島のコミュニティについて皆さんすごく語ることがあるじゃないですか。自覚は実はもうあると思うし誇っていい類いのものだと思うので、それを見失わない方がいいんだろうなと思いました。
小笠原:東窪さんが綺麗にまとめたので、僕はもういいです。不満をひとつ言うなら、なぜお酒がないのか。素面で出るのはすごく恥ずかしいんですよ。
油井:すみません、忘れていましたね(笑)。次回は鹿児島の焼酎を用意しておくので、それ目当てでもいいのでおふたりともぜひまた来てください。