日本のユーザーに感謝し、応えていきたい
発表会にはUltrasoneのCEO Michael Willberg(マイケル・ウィルバーグ)氏も来日。15年前に発売し、ブランドの礎を築いたEdition 7と同様に、イヤホンマーケットを変えるようなハイグレードな製品を投入したいという気持ちで誕生したのがSAPHIREであるという主旨の説明をした。
発表会では密閉型ヘッドホンの「Edition 15 Veritas」と「SAPHIRE」が同時に紹介された。ともに同社の最上位モデルとなり、直販価格も同じだ。
Ultrasoneは1991年の創業だが、Edition 7によって高級ヘッドホン市場でスタートアップ的な成功を収めた。日本においても前代理店のタイムロードとの17年におよぶ関係を通じて、高級ヘッドホンの代名詞的なブランドと認識されている。日本のハイエンドユーザーからの暖かい支援には常に感謝しているという。
国内の販売代理店がタイムロードからアユートに変わってからの最初の製品となる。発表会の冒頭でもアユート取締役の渡辺慎一氏から「タイムロードが作った伝統を踏襲しつつも、われわれなりの良さを訴求していきたい」というコメントがあった。
価格はオープンプライスで、アユートの直販サイト「アキハバラ e市場」での価格は39万9980円。発売日の詳細は後日発表するとしている。
SAPHIREは、メイド・イン・ドイツのハンドメイド生産となるが、その組み立ては日本人女性が1名で担当している。製造は半年ほど前から始めているが、繊細な作業が必要であるため、月産台数は50台ほどと非常に限られているそうだ。当初は品薄も予想されるので手に入れたい人は早めに予約することをお勧めする。
少し音を聴いてみた
音については素晴らしいのひとことだ。Astell&Kernの「A&ultima SP1000」と組み合わせて聴いてみたが、しっかりクッキリとした再現であると同時に、透明感や適度な温度感を兼ね備えている。そう感じる理由は中低域の再現が充実しているためだろう。
同じタイミングで「Edition 15 Veritas」の音も聴けたが、サイズも方式もまったく違うのに傾向がとてもよく似ている。Ultrasoneとして一貫した、音作りの方向性があるのが伝わってくるし、クオリティ面でも引けを取らない。さらに付け加えるなら、大口径ドライバーを採用したヘッドホンに匹敵するスケール感や開放感があり、イヤホン再生であるのを忘れてしまうほどだ。
一切の歪みがない高域が、どこまでも伸びていく感覚は静電型特有なのだが、無味乾燥な感じにならないのは、BA型ドライバーを組み合わせているためだろう。コンデンサー型は非常にフラットな特性が得られるが、振幅が確保できないので力感が得にくい側面もある。この弱点をBA型ドライバーを組み合わせることで、見事に解決している感じがした。
音調は市場にあるマルチBA機とも異なる、ナチュラル感を伴っている。感心したのは、ユリア・フィッシャーが弾く『チャイコフスキー:バイオリン協奏曲』(DSD盤)。バイオリンソロとオーケストラが掛け合う場面で、オーケストラの演奏が少し距離感と広がりを持ってぶわっと広がってくる。スケールの対比が見事だし、ダイナミックスの広さを感じる。
また、教会で収録した合唱曲の「MAGNIFICAT」では、声の滑らかさに加え、ごく小さな残響まで繊細に再現する。このあたりはスーパーツィーターの追加が利いている部分ではないか。そうかと思えば、アニソンの「Adrenalinne!!!」では、パンチの利いたビートをメリハリよく再現して、ベースからボーカルまですべてがハッキリ・クッキリ……という感じで、ソースを選ばない。印象的なのはこれらの曲がすべて、音ではなく音楽としての流れを兼ね備えている点だ。
手持ちのコンデンサー型イヤホン「KSE1500」とは対照的だ(方式も若干異なる)。情報量の豊富さという意味では非常に優秀なKSE1500だが、モニターライクで音楽というよりも音を聴いている感覚になる(これもスタジオ収録の楽曲であればいいのだが)。これに対してSAPHIREは曲の表情が音楽としてすっと耳に入ってくる。
BA型を組み合わせることによるトーンバランスの違いもあるだろうが、それ以上にリスニング向けの機種として、音の強弱や前後のつながりなどが意識される。そのため、音の善し悪しをチェックする気持ちを忘れ、ついつい演奏や表現の善し悪しのほうに関心が移ってしまう。そして試聴が終われば、脳のシワがより深く刻み込まれたようなスッキリとした気持ちに……。
数十万円クラスのイヤホンはすでに珍しくなくなってきているが、SAPHIREのような音はSAPHIREにしか出せないというのが感想だ。その価格も含めて、本当にすごいイヤホンが登場したものだと思う。