ドイツの水冷パーツメーカーAlphacoolは、数多くの水冷パーツをラインナップし、カスタマイズの幅が広いことから日本でもファンが多い。今年発売されたオールインワン水冷キット「Eisbaer LT360 CPU」は、コストパフォーマンスが高いことからたちまち話題になった。
そんなAlphacoolのセールスマネージャーがドイツから来日したので、いろいろ質問をぶつけてみた。ドイツが誇る工業製品の品質の高さと技術力の秘密について探ってみた。
――Alphacoolといえば、本格的なカスタム水冷メーカーというイメージが強いので、オールインワン水冷を発売したのは驚きました。なぜオールインワン水冷を発売したのでしょうか?
【Walter】 オールインワン水冷は、水冷クーラーを使ったことがない人に対して、Alphacoolブランドを印象づけるために開発しました。そのままの状態ですぐに使える水冷クーラーとDIY水冷の中間に位置する製品です。これからDIY水冷を始める人にとっての入門機になる製品を市場に投入したかったのです。
――他社のオールインワン水冷は、冷却液の補充やパーツ交換がほとんどできませんが、Alphacoolのオールインワン水冷は、冷却液の補充や、ウォーターブロックの追加、チューブの交換ができますね。
【Walter】 冷却液の補充や交換ができないオールインワン水冷でも冷却液は徐々に減っていきます。これらの製品のライフサイクルは4~5年に設定されています。PCをまるごと買い換えるのがだいたい4~5年おきなので、PCの買い換えと同時に水冷クーラーも新調すると考えているからです。
【Walter】 一方、ドイツの製品は長く使えるのが自慢です。Alphacoolの製品もドイツで設計されています。そのため、他のオールインワン水冷と比べて、もっと楽しく、もっと長く使えるように設計されています。製品の方向性は自動車のチューニングと同じです。そのままの状態でも十分な性能を発揮しますが、ユーザーのレベルに合わせて、簡単なチューニングから、プロ級のチューニングまでできるように設計されています。
――拡張性が高いのは素晴らしいことなのですが、逆に入門機としてはやや難易度が高いのではないでしょうか?
【Walter】 ユーザーが手を入れられる部分を作るのは、自分だけのPCチューニングの楽しさを知ってほしいからです。チューニングが難しいと感じる人はそのままの状態でも使えますし、少し知識をつけてパーツ交換ができるようになったときに、水冷クーラーを買い換えずともパワーアップできる余地を残しています。水冷の入門機というより、水冷をカスタマイズするための入門機と考えてください。
――現在、自作PCでは発光パーツが流行しています。AlphacoolにはLEDを内蔵したPCパーツはありますか?
【Walter】 いくつかあります。Eiszyklon Aurora RGBシリーズのファンがそうです。さらにEis-Matrix Auroraコントローラーを使用すれば、ファンスピードとLEDのカラーを一括で制御できます。そのうえ音楽に合わせて明滅させたり、スマホから制御することも可能です。LEDストリップのAurora LED Flexible Lightは日本でも発売されていますよ。
【Walter】 また、水冷のチューブを照らすAurora HardTube LED Ringを2年前に発売しました。これは他社にはないAlphacool独自の製品で、径が合えばどんなチューブにも取付可能です。
【Walter】 発光パーツを求めるのは、ほとんどがアジアのユーザーです。ヨーロッパのユーザーは発光に対してそれほど積極的ではありません。もちろんニーズがあるからそれに応えて製品を発売しているのですが、Alphacoolは発光機能よりも、冷却性能や耐久性、カスタマイズ性を重要視しています。
――ZOTAC製のビデオカード専用クーラーや、インテルのOptane SSD専用クーラーなど、対応製品を限定したパーツは、どういった基準で製品化を決めるのでしょうか? 汎用パーツに比べて購入者が少ないため採算が合うとは思えないのですが……
【Walter】 取り付ける基板のCADデータ(設計図)さえあれば、それをもとにクーラーを作れます。したがってCADデータがあるかどうかが、まず製品化の判断基準になります。とくにビデオカードに関しては280機種のCADデータをAlphacoolは持っているので、ほとんどのメーカーのVGAクーラーを作れます。これはおそらく世界一だと自負しています。
【Walter】 Alphacoolは、ユーザーからこういう製品を作ってほしいという要望があれば、できる限りそれに応えるようにしています。売上も大事ですが、ユーザーとファンがもっとも大事だとAlphacoolは考えています。したがって、たとえば10台だけでも要望があれば作ります。もちろん採算がとれないこともありますが、顧客が1人だけでもマーケットが拡大すると判断すれば、なるべく生産するようにしています。これは、Alphacoolの技術力をアピールするためでもありますね。
――Alphacoolの企業理念や開発者が持つこだわり、他社に負けない技術などがあれば教えてください。
【Walter】 水冷ヘッドのベース部に十字に溝を掘って冷却性能を高める技術はAlphacoolが開発したものです。当時は会社の規模が小さかったこともあり、知的財産権の取得に手こずっていました。そうこうしているうちに他社が真似するようになり、今では当たり前のように使われています。ほかにも、ベース部に掘られた溝や隙間に水圧を利用して冷却液を送り込む技術のRamp systemは、Alphacoolが特許を持っています。
【Walter】 先ほどご説明しました水冷クーラー「Eisbaer」シリーズは、オールインワンでありながらアップグレードできるのが特徴です。他社の製品で、ここまでユーザーが手を加えられる製品はありません。Alphacoolは長く使える製品、チューニングを楽しめる製品を作り続けています。「Eisbaer」シリーズは、そんなAlphacoolの理念が詰まった製品です。
【Walter】 ちなみに、ハードチューブのフィッティングには、冷却液が漏れないようにOリングがはめこまれています。しかしハードチューブは伸びると冷却液が漏れやすくなります。そこでOリングを2重にして漏れにくくした、ダブルOリング採用のフィッティングを開発しました。
【Walter】 ほかにも、ユーザーがチューニングを楽しめるように、スリーブケーブルを自作するための工具を発売しています。カスタム水冷を導入したPC内部を見せたい場合、ケーブルの色にもこだわりたいですよね。この工具を使えば、好きな色で好きな長さのスリーブケーブルを自作できます。このような本格的な工具セットを用意しているPCパーツメーカーはAlphacoolだけだと思います。
――2019年の製品ロードマップを教えてください。
【Walter】 オールインワン水冷の新製品を2019年に発表します。これまで見たこともないような水冷製品を2019年のCESで発表する予定ですので、楽しみにしていてください。
――ありがとうございました。
製品は売っておしまいではない、というメッセージ性をインタビューでは強く感じた。ユーザーに長く使ってもらいたい、そのためにユーザーが好きにスタマイズできる余地を残している、というWalter氏の言葉通り、まさに機械いじりが大好き、チューニング大好きという人に、Alphacoolの製品は最適だということがよくわかった。
使い勝手や耐久性、安全性を重視したその思想は、メルセデス・べンツやBMWに通じるドイツ職人の気質がビリビリと伝わってきた。それでいて初心者にも使える製品を投入してくるあたりは、さすが老舗メーカーと言わざるを得ない。今後もドイツからやってきた黒船Alphacoolの新製品と技術に大いに期待したい。