評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。8月リリースの優秀録音をまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
デビュー45周年を迎える南佳孝の最新アルバム(9月26日発売)のからの3曲、「柔らかな雨」「熱い風」、「ニュアンス」が先行配信され、ハイレゾとマルチメディア時代にふさわしいプロデュースが与えられた。すべての楽曲が96KHz/32bit floatで収録。マイクは曲のコンセプトに合わせて、ヴィンテージ、スタンダード、最新モデルを選択。CDはMQA-CD、配信ではAuro-3Dなどのイマーシブサラウンド、MQA、そしてアナログレコード……など、考え得る限りのマルチメディアでリリースする、非常に野心的なプロジェクトだ。
「柔らかな雨」。雨音とベース、ギターでイントロする。「雨が柔らかく、暖かく……♪」の「かく」をセクシーに強調するのは、南佳孝だけの節回し術だ。まさに南節全開。間奏のピアノも艶艶している。センターに安定的にヴォーカル音像が定位し、リズムを強調したエレクトリックベースが心地好い。2曲目「熱い風」はけだるいブルース。南の音楽性が濃い。音調は、低音の支えからピラミッド的。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
キャピタルヴィレッジ、e-onkyo music
『In the Blue Light』
In the Blue Light
ポール・サイモン旧作の新アレンジバージョン。「一度目は見過ごされてしまった、ちょっと変わった曲の数々だ。アレンジをやり直し、ハーモニーの構造を見直し、 曖昧だった歌詞を書き換えることで僕自身、頭の整理ができた。自分は何を言いたかったのか、その当時、何を考えていたのか。そうして、より分かりやすいものに生まれ変わらせることができたんだ」とポール・サイモンは語っている。
トラック1のOne Man's Ceiling Is Another Man's Floorを、旧譜のオリジナルバージョンと比較してみよう(e-onkyo musicで購入可能)。まずアルバム『THERES GO RYTHM』(1973年)からのオリジナル版はシャッフルなリズムに乗り、軽快な朗唱、テンポも速い。新編曲は、冒頭の音階下行のテンポがゆっくりとし、ヴァースも悠々としたテンポで、ヴォーカルもたっぷりと感情を含む。 シャッフルリズムはかなり重くなった。
トラック2のLOVEは、オリジナルはアルバム『YOU ARE THE ONE』(2000年)から。ゆったりとしたテンポで、ポール・サイモンらしく、一言一言を明確に深く叙唱する。新編曲は、ギターの快適なリズムに乗り、少し重いが、感情をたっぷり込めた歌唱となった。LOVE♪の部分の延ばしが、より深く心に刺さる。音質は最新らしさが十分に感じられる。編曲の違いで、これほど曲の世界観が異なって聴こえるのは興味深い。
FLAC:96kHz/24bit
Legacy Recordings、e-onkyo music
『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)』
マット・ハイモヴィッツ
1710年制作のクラシカル・チェロ(A音を415Hzで調弦)を演奏した無伴奏チェロ曲。軽快なボーイングにより、快活でヴィヴットなバッハのチェロ世界が奏でられる。細かなアーティキュレーションは、まさに新時代の無伴奏。音が素晴らしい。独奏なのに、ホールの大きさまで分かるような響きの深さ。反射の美音が清涼な空気感を感じさせる。倍音領域まで美しい。PENTATONEの録音らしく、徹底的にナチュラルにして、粒立ちが細かく、響きの拡散感が実にリアルだ。特に重音が織りなす響きの重層感がたいそうクリヤーだ。2015年4月、ニューヨーク/芸術文化アカデミーでセッション録音。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
PENTATONE、e-onkyo music
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